月と夜と君。

文字数 657文字

僕たちは夜を行く。

「静かだね。」

隣に並ぶ彼女が言う。

「僕たちだけが起きてるみたいだ。」

横断歩道を横切る。

「今何時?」

彼女は聞いた。

「午前2時23分」

僕は右腕の時計を確認する。

「ずっとこのままだったらいいのに。」

大型トラックが中央車線を悠々と泳ぐ。

「全くもって同意だよ。」

2人の間に沈黙が流れる。

「喉、乾いたな。」

24時間営業のコンビニエンスストアに入る。

店内では小さく聞き覚えのある音楽が流れる。

外界から遮断され蛍光灯に照らされた箱庭。

僕は2本の缶コーヒーを手に取る。

「220円です。」

店員は俯きながら言う。

僕はちょうどの金を支払う。

レシートを受け取る。

しかし。

レシートは捨てた。

「ありがとうございましたー。」

店員は俯きながら言った。

外で待つ彼女に缶コーヒーを手渡す。

「ありがとう。」

彼女は小さくはにかんだ。

「行こうか。」

僕は彼女の0.7歩先を歩く。

反対車線を割増のタクシーが跳ねる。

彼女は歩く速度を落とす。

「ねえ、どこまで行くの?」

彼女が聞く。

僕は考える。

「まあいっか」

彼女は僕の答えを聞かずに、
また0.7歩後ろを歩く。

「どこまでも」

僕は遅れて答える。

彼女が頷くのを背中で感じた。

246を横目に歩く。

「月が綺麗だね。」

彼女が呟く。

「綺麗だね。」

僕も呟く。

遠くでサイレンが聞こえる。

行く当てもなく。

僕たちは夜を行く。

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