アザラシから愛を込めて

文字数 907文字

 日付が変わる少し前の静けさが好き。私たちを包んでくれているようで。
 温かい毛布みたいなあなた。パジャマ越しに私の細くないウェストに回された、長く骨ばった腕。
 あなたに会うまでに私はたくさんの間違いをして、すれっからしで初々しさなんて、まったくなかったよね。
 自分はひとりなんだと思い込み、悪態をつく私に、何度も優しい言葉を伝えてくれた。
 その言葉に慰められ、自分で歩いて行かなきゃって思ったけれど、少しつらいことがあると、お皿を割ったりした。勝手な私にあなたは穏やかな顔で、破片を一緒に片付けてくれた。
 だけど自分の身を傷付けたときは悲しそうな顔で怒った。
 凍えそうになった夜から私を救ってくれた力強い腕。あなたに会えたから現世に留まることができたの。

 聞き分けのないアザラシだって、たまにTwitterに私のことを投稿しているね。なんだか会社の人々も公認のようす。知っているんだよ。
 かなり恥ずかしいけれど、宴会から早めにあなたを私に帰してくれる同僚の方々に感謝しているよ。
 出会ってもう六年経ったね。鯛焼きみたいに中身が旨いんだって言われたときは、嬉しいけれど、容姿には愛着がないのかと悲しくなったよ。
 でもじっくり言葉を噛み締めてたら、どんなに姿が変わっても好きでいてくれるんだ。凄いノロケだと気づいたんだ。
 あなたが愛してくれるから、私らしくあることが出来るのかもしれないね。
 どんなみっともない恥ずかしいことや辛い経験も、今の自分と、あなたに辿り着くためのレッスンだったと思える。あなたに受け止めてもらえたから。
 それでも、可愛いアザラシになりたくて毎日体重計に乗るんだ。隣のあなたに誇れる自分になりたいから。
 夜、あなたが胸の上に手を置いているときはそっと外すの。悪い夢をみないように。
 アザラシだって愛をささやくよ。
 貴方に厄災がふりかからないように、幸せがたくさん訪れるように。願う。そんなたいそうな力は残念ながら、ないこともわかっている。
 アザラシができることなんてたかがしれている。ただ隣で静かに眠るあなたを守りたいんだ。
 今度はあなたの助けになりたい。そばにずっといるよ。重たい愛で包むよ。
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