第1話 セラの青春の夢と片思い

文字数 10,483文字

◆ おめでた婚
「わたしたち、赤ちゃんが!妊娠だって!どうしよう? これじゃ、結婚しなきゃ、うちの家族みんな理解しない。。。」
「それは、それは、おめでとうというべきか? それは、それは!!」
田舎の町で、若い先生同士のとても忙しい日々だったので、この二人は仕事の仲間で生活するだけで近くなってこの次第になった。その夫婦の中に長男であったクッバイは、結婚のきっかけは作ったものの、急死してしまった。一歳になる直前、母親が職場から帰ってきたらその様子というのは、お腹が非常に大きく膨らんできて、病院に着いたら間に合わなかった。
実に、このことは、この夫婦にもう一度の展開になってしまう。こどもができたことで急な結婚に至り、その長男の死を迎えて二人の関係の回復を迎える。
というのは、主人の方が、奥さんを疑いすぎて奥さんは家出をしていたところ、長男の調子がだんだん悪くなった。ついには命の危険まで至る。そのことで、奥さんに伝えられ、息子のために急いで家に戻ってきた。それでも、一か月も経たないうちに、この世を去ってしまった。息子は一歳の誕生日を迎えたばかりの歳で天に連れていかれた。
奥さんは罪悪を感じ、これ以上家出をすることを諦めて主人との関係の回復を願うものとなる。彼女は昔から読んでいた聖書や賛美が思い浮かび、涙だらけの日々になっていた。
そのため、奥さんは聖書を読み、夫と会う前に通っていた教会にも足を運ぶことになった。
教会の看板には「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう」(マタイによる福音書11章28節)と書いてあった。急な結婚生活に神経を使い過ぎて、疲れた自分のことを思い起こし、そのお言葉に頼りたい気持ちになった。
 少しずつ、家庭の生活が安定してきて、学校の先生の仕事も落ち着いてきた。更に田舎から都市の学校に移動することになった。その後、夫婦は、三人の娘と熱心に祈り求めて結果、一人の息子も与えられ、ホットした。なぜなら、まるで長男が生き返ってきたように思われたからだ。そのうち、長女クックォンニと次女クッセラには特にミッションスクールに通えるように友達に勧められ、二人は仲良く大邱(韓国の第三番目の大都市)にある啓明学園に入学した。

◆ クッセラの仲間
 チャペル時間の直後には、特別に洗練された落ち着いたチャイムベールが鳴らされて、そこから生徒たちは各教室へ移動になる。
クッセラは、今日のチャペルでの話は何とわたしの話なのかなと思いながら、ヨセフの物語を気に入った。というのは、彼女には理解できない・ひとりで抱ききれない夢をみていたからだ。その夢はシリーズのように続き、気になって書いてみると、ひと月に一回ほどは観ていた。そこまでにしてみると、夢をそこまで気にしない人でも誰でも気になってしまうのだ。
 それに、彼女のチャペルの一番の楽しくてドキドキする時間はゴスペルタイムであった。それは曲を教えてリーダーするシンギハンに憧れていたのであった。音楽が好きだからか、ゴスペルが好きなのか、彼が好きなのか、まださっぱり分からないままで。それは、それなりに考えれば考えるほど、彼のことが気になってしまう傾向があった。
 いつも通りに、クッセラもシンギハンも教室へ向かっていた。セラは彼が近くにいることを分かったら、自然な動きをとれず、いきなり大きな声でしゃべったり、友達を叩きながら話しかけたりした。シンギハンはクッセラの一年先輩であった。彼は住まいも近く、クッセラのお姉さんクックォンニの同級生でもあった。こんな近くで私立学校なのに、同じ仲間がいっぱいいるのは珍しいことだ。
 けれども、シンギハンは仲間というより、何か特別な感じの男の子だ。常にリーダーの役割に選ばれ、勉強もできるし、顔つきもカッコいいし、女子の皆さんにも愛されていた。ただ、何かを隠しているようなところもあり、神秘的なところもあって、もっと気になってしまう子だった。それはわけがある。ギハンの実の母親は韓国人ではなかった。彼の母親は日本人で韓国へ高校の修学旅行に来た時に、彼のお父さんに出会い、結婚まで至ったが、その後どうしても日本へ戻りたいということで別居生活を送った。それが長年にわたってしまい、離婚の状態まで続く。
 ところでチャペルでのヨセフのお話しは、ギハンにとっては韓国と日本の間で葛藤する気持ちがヨセフという人物に照らされて親しみを感じるらしい。セラにとっては夢という言葉だけでも彼女に響くものがある。彼女は高校生になってから、不思議な夢を続いてシリーズでみていた。夢ってシリーズでみるものだろうか?彼女にはそのような夢を見すぎて、どうしたら良いのか?どう解釈すべきかなどの悩みでいっぱいになった。
 ギハンの同級生であり、セラの姉クォンニは、4人兄弟の中の長女で何もかも物事が上手くいくタイプだ。勉強もできるし、人気もあるし、発表もできる方で、シンギハンともライバルだった。数学や物理、化学ってみんなが、特に女の子が難しいと思っている問題は彼女にもっていけば解決できるほどだ。そのようなお姉さんはセラにとっては立派過ぎて遠い存在というイメージさえついてしまう。一年違いで親しいけど、ところところが抜けているように見えるセラにはお姉さんの言うことは何でも彼女の上にあるものと思われるのだ。
 セラは姉のことが大きく見えすぎて、自分には叶えない何かがあるように見える。ギハンに対する気持ちもクォンニ姉に伝えたが、それ以上に彼に直接伝えようとする前にお姉さんから何か情報を集めて彼女の言う通りにしてしまう。高校生の時によくある話し、先輩が誰より怖いみたいなことが姉妹の間柄にもあてはまる時もある。ミッションスクールに通っているけれど、まるで神さまに頼るより、むしろ目にみえて自分より優れている人、お姉さんに頼りがちだった。
「今日もシンさんって、ハンサムだったね。お姉ちゃん!」
「あー、そう? シンさんのこと、まだ気にしてる?あの子、お母さんが本当のお母さんじゃないんだって!本物のお母さんは日本に帰っちゃってさ!あまり外側をみて好きになっちゃ、駄目よ!」
「そうか? 外見は認めたとのこと?いつもシンさんを嫉妬しているみたいに、姉ちゃんは悪く言うから何もかも嫌いなのかと思ったよ。結構人気ものなので、わたしのことまで彼は考えてないし、もう諦めたよ!姉ちゃんがそこまで言うのなら...」
 こうした雰囲気の中で、だんだん姉妹の間の会話が減ってきて、疎遠になってきた。セラも心の奥のことは、神さまにしか言えないかもと思い、聖書科の授業や教会に行く宿題とかにもっと気を配ろうと決めた。
 毎日同じような高校生生活を送っていた。つまらないなと思っていたが、セラは宿題でいく教会で話が通じる同級生ハンナと仲良しになった。すごく嬉しくて仕方がない。セラの母親はセラが宿題でも教会へ行くようになり、更に娘に仲良しの信仰の友が与えられたことなど、感謝でいっぱいであった。
 ハンナは、父が牧師で聖書の人物から名前を選んだらしく、それも聖書のハンナさんのように素晴らしい家系をつなげていきたい願いがあったみたい。なので、毎週日曜日には教会に行くのももちろん、教会が彼女のお家のすぐそばでもある。その教会の名前はハヌル(空)教会で、教会の庭には女の子が好きな花もいっぱい咲いていた。間違いなくハンナがその花たちを大切に育てている。朝晩、枯れていないか枝が折れてないか、細かいところまで気にして綺麗にしていた。
そのようなハンナがセラにとっては素敵で優しい子だと思われ、もっと近寄って彼女とお花を見に教会へ行く日がだんだん増えていた。そればかりではなく、時間が重なっていくうちに好きなことや好きな人の話しも盛り上がっていた。
 高校生活もだんだん慣れて、2年生になった頃はクッセラも宿題を手伝ったりしていたハンスルギとも仲良くなった。提出物だけではなく、教会に出席する聖書科の宿題も手伝うことになり、ハンスルギも同じ教会へ行くことになった。
そのことで、セラとハンナ、スルギは同じ年で同じ教会という共通点で盛り上がって仲良しクループに。女子高校生3人組というのは、非常に仲良し感が溢れる時!
そのため、教会という場を用いておしゃべりまくり、一緒に遊び、走り回ったりした。信仰と関係なく、ただ一緒の空間ができて大喜び。
ところで、この仲良し三人の子はそれぞれ好きになった片思いの男子がいて、その相手をいうと、セラは一年先輩のシンギハンでしたが、他の二人は同級生の男の子が好きだらしい。会うたびに、学校のことや成績など、色んな話しに飛んでしまうが、やはり片思いの話しは最も興味深いものだ。互いに話せることだけでも、この仲良し感は絶頂まであがっていく。誰でもあり得る女子高校生時代のエピソードっぽいことだろう。
セラはチャペルの賛美の時間は常にギハンの歌声とギターの音、更にコメントすること、何でも彼のことは気に入ってしょうがなくなる。わざと彼と会えるために、彼の動線を調べてその道を歩いたりした。それだから、良くドラマで出るようなことは一切起こらずあった。逆に賛美リーダーをやっているため、彼は人気者なのだ。それは彼と一対一で会うチャンスがあまりないとも言える。そして、セラはそのようなギハンの存在はアイドルのように近寄らせないものがあった。
二年生の夏休みが始まる前、ギハンは賛美リーダーの次の手渡しできる後輩がないことに気づき、賛美チームを組もうと決心した。賛美リーダーを学生に任されたのは彼が初めてなので、大変な思いをしながらやってきたに違いない。
彼は自らチラシを作って賛美チーム作りに出回る。当然、セラの目にもそのチラシが
入った。そこで、セラは迷うことなく、賛美チームの募集にかけようとした。入会条件は、受洗者であることと歌が好きなこと。歌は大好きでいつも鼻歌でも歌っている。しかし、セラはまだ洗礼を受けてなかった。
 「どうしたら、受洗者になれるのかしら? どうしたら賛美チームに入会できる?」
このような悩みで何をやっても落ち着かなくなってしまった。教会は宿題でいくところ、友達と仲良く喋たり遊ぶためにいくところであった。そんな自分でもクリスチャンになれるか、不安になった。
どうしても真面目な自分ではなかったことで、真面目に考えてみようと思い直した。
クリスチャンって真面目でなければならないのか、そこからまた更に疑問になった。聖書を全部読むのにも時間がなかった。一からスタートしたら、高校卒業になってしまいそうだ。困ったことに、セラはそこまで読書も早く進まない子なのだ。
そこで、牧師の子であるハンナに相談することとした。ハンナは優しく心から理解してくれた。そんなに重く考えないで、牧師と相談して受洗の学びをしてみたら、とアドバイスをくれた。セラにはクリスチャンの母親より友達のハンナがやはり頼りになる。
 こうして受洗の学びはセラの心にイェスさまの意味が伝わり、受洗へと決心に至った。片思いのことが賛美チームへ、受洗まで続くとは彼女自らも考えもしなかった。

 この受洗のことが今のセラにまで導かれたとは彼女本人も知らなかった。夢をみて、ヨセフみたいな自分だなと思ったことがあっても、本当にヨセフのような道が開かれるとも思わなかった。中年になって周りもずいぶん変わったが、セラは大きく変わった人生の間の中にいた。

◆ 人生の半ばを迎えて
というのは、セラが見てきた夢は20年過ぎても何も形にならないままであった。
この頃は日本の大阪府に住んでいた。韓国から日本にわたってきただけでも、他の人々からみたら少しでも夢が叶えられているようにはみえる。それでも夢は苦でもあり、生きる力でもあった。ミッションスクールでの様々な出会いがなければ、怖がりで挫折した夢を早い段階で捨てた平凡な女の子だった。それより、弱くて目立たない子だった。
小学生の頃から皆さんの前で本を読む時は、その声が本人以外の誰にも上手く聞き取れないほどだった。それだけでも、どれほど積極的でないのが分かる。だから、夢があることは自分ではない自分になりきることに徹底しなければならない。もしくは、本人の中で大きな変化が起こり、それを担えるようになることしかありえない。
ところが、ずっと心に残られた夢は40代後半になってやっと道が示されてきた。それもまだ霧のような形でしか知らない。
 それでも、彼女はそれ夢以外のことにかける決断にもならなかった。なんともったいない選択しかならない日々を過ごしている。心のポケットに、このみ言葉をずっと秘めていたのであろう。
『最も小さいものも千人となり
最も弱いものも強大な国となる。
主なるわたしは、時が来れば速やかに行う。』イザヤ書60章22節
何かの小さな希望が言葉によって心に刺されて、セラはいまだ大きな夢を思い描いている。まだ何の賞も成果も見られない段階で主人に語ったりすると、彼女のやる気を欲望として疑われた。
「それは、ここでの小さいものは一人のことじゃないだろう。一人でやり出すところで、あなたは自分の野望に過ぎない。根拠になる聖書の言葉は何?」
このような言葉で攻めてくる。一緒の炊飯器のご飯を食べても、一緒の布団に入って寝ても、人の考え方はそれぞれだ。違う。そう違うものだ。それに、何かを主張してしまうと、それと違う人は必ず足を止めさせるか、引っ張ってくる。
 「ここで、『最も小さいものと弱いもの』って単数形なのか?」
主人は携帯で語源であるヘブライ語の聖書を調べ出す。「そうね。単数だ。」
セラに向かっての激しい口調がすんなりと縮まっていた。いつの間にか、二人は眠りについていた。
 この夜はそれでも以前に比べたら、ましでホットした。主人がもっと若かった頃は、その表現はもっと激しく物にあたっていくのであった。彼の爆発する神経で壁紙が綺麗に残れないことが心配であった。だから、議論に盛り上がった夜になると、セラはそれなりに心細くなって悪夢をみてしまう。
 朝に起きても、寝た気にならず、眠くなる。
「起きたのに、また寝たくなるなんて…」そんな思いをしながら、もう一度眠りにつくかどうか迷って布団をもう一度頭までかぶってしまう。
これでも青春時代の心に戻りたいのか、なんだかんだ啓明学園の頃の様々な出来事が頭から離れないでくるくるしていた。
 
◆ 青春時代のセラの片思い
 ギハンに対する気持ちは「何と立派なリーダーなんだ」からだんだんエスカレートして好きになっていく女の子も多かった。そのうちの一人ですぎないのが、焦りでセラはたくさんの人と相談したりして、その心は学校の多半数の生徒に伝わってしまった。それどころか、ギハンにも伝わったのだ。ここまで行くと何か起こるのだろうと期待したのかもしれない。 
 ところが、その結果は悲惨で彼から逃げまぐっていた。可愛くて頭も悪くないし、彼のおかげでクリスチャンになれたし、みんなにばれるほど、彼女は素直に彼一人を思っていたし… それでも、偶然立ち話になった時とかに、ギハンは優しい目でみてくれる時もあるけれど、何か急いで帰ってしまう。常に彼の選んだグループや団体に学びに出かけていたとしても、彼は先に挨拶もなくいなくなってしまう。
それが寂しくて寂しくて、セラは心の中で泣いていた。心の中で泣いても泣いても、仕方がないから、我慢していた。一番輝いて綺麗な年代の頃、セラはその二十代前半の大部分を彼に対する片思いで費やした。他の素敵な男性がいても何の感情も浮かばなかった。
仲良し三人組のハンナとスルギとも、高校生時代なりに片思い・恋愛の話しが一番興味深々であった。お互いに内緒もなく、いっぱいおしゃべりしていた、その三人の友情は長く続くのだと思っていた。
 聞き上手のハンナは少し気持ちが変えて特に好きな人はなさそうだった。牧師の娘だからか、彼女の理想の彼氏は牧師になる人だという。それはそれで夢は叶えるのではと思っていた。
そして、スルギは同級生の中で一番リーダーシップがあった男の子が好きという。
この仲良しグループは目立つほど、常に一緒で色んなことを分かち合って祈り合った。ハンナの影響でもあるが、ギハンの賛美チームの条件にも引っかかって珍しく仲良しみんなクリスチャンであった。しかも、韓国ではクリスチャンって珍しくないわけだ。
町を歩くと、スーパーが見えるほどの数で教会の建物か看板が見えてくる。そのような国になっている。日本もそのような時代が訪れるのだろうか。
まさに、教会に通う割合が極少数に占めている日本において、この韓国クリスチャンの恋愛物語っていったいどんなものだろうと思ってしまうところもある。
だが、ここで述べていても良し! 実際細かく話していくと、人間の生きるところはどこかで類似している面も発見するし、それに違うところは好奇心を及ぶのだ。
 ギハンは元の母親が日本人であるため、日本に対する憧れも憎みもあった。母親が日本から帰ってこなかったため、父親は3歳のギハンを考えて再婚せざるを得なかった。
新しい母親はギハンに優しく、聖書と賛美でギハンを育ててくれた。その後、ギハンにも弟も妹もできた。ギハンには日本の母のことは忘れてもおかしくないほどすべてが幸せに見えた。そうだとしても、彼は母親に対する深い心の傷が残っていた。いつかは探していて、自分を置いて出ていた理由を知りたいと常に根に思っていた。
 そのようなギハンにセラの片思いが簡単に受け入れ難いところがあった。セラの自分に対する遠くからのアプローチが神経を触るのである。ギハンは賛美チームのメンバー募集にセラが入って来ないようにハードルを上げたつもりが、セラは受洗の条件まで満たしてきた。それでも、彼からみたセラは、片思いの噂を作って、それに同じ部活まで入っては、その後は静かすぎ。ここまで来ると、彼も彼女の気持ちにどう答えるべきかが一人の悩みになってしまう。会うたびに、思春期である彼にも難関である。セラが可愛く見える時もある。それに、噂はそうでもセラは何の表現もしない。まるで、嫌われているのでは、と思う時もあった。ギハンははっきりしないセラの態度に腹が立ち、日本にいる母親に対する気持ちがセラに投影されていた。高校三年生で責任を感じて、賛美チームを結成したのがきっかけで彼の成績もだんだん落ちていた。
彼は思っていた大学に落ちてしまい、浪人生になった。彼の浪人生活の大半はお母さん探しの日本生活だった。その方がセラに対する葛藤から逃げることができ、母親に会えるもしくは自分探しに近づくのだと思っていた。
 ギハンはどこからでも実の母親の居場所や現況を知りえるところがなかった。名前「木村道子」と赤ちゃんの自分と一緒に写っている写真一枚が探せる根拠。それだけでは日本で探すのが大変だと父親に訴え、やっと母親の故郷が神戸だと分かった。
それに、ギハンは日本語も良く分かっていない。若きの冒険に迫って神戸への旅をしていた。神戸の風景はヨーロッパの港都市みたいで綺麗であった。しかし、浪人生としてのその冒険には限界がある。探し続ける金もないし、今度の受験にこのままでは行きたい大学へいける自信が全くない。彼は入試に間に合えるように受験の三ヵ月前には韓国へ帰ってきた。
 その頃には後輩たちも高校三年生としての期末試験も終わり、受験だけに一生懸命になるところだ。学園でも高校三年生には、朝から夜十時まで学校にずっと残り、自習でもさせていた。ギハンはそれよりわざと早めに学習塾から出て家に帰るようにした。後輩たちと会いたくない気持ち、日本でどんな風に過ごしたか聞かれたくない心、一人でいたいのであった。
 ところが、ギハンが韓国へ戻ってきた噂はセラへも入ってきた。セラは彼に偶然でも会えるのが楽しくて仕方がない。毎日学校から帰る道はわざとギハンが通う塾の前の方を通る。すれ違うだけでも、それが彼女の期待であり、希望であった。
教会で教えられた“主の祈り”でも心の中に唱えながら本気で彼と一度遠くからでも会えることを願っていた。
 受験日一か月前頃、寒い風と雨がしとしと降っている日であった。セラはいつものように塾を覗きながら家へ帰る道。雨も降っていたので、普段より早く学園から出て傘をさして急ぎながら歩いていた。それでも、塾の前になると、なぜか足がガムでも踏んだようにゆっくりとなる。塾からも浪人生たちの動きが見えてくる。寒い中の雨で皆の顔は緊張感を覚える。風邪などにひかないよう、必死な気持ちになったのかもしれない。
そこで、ギハンが塾の正門から傘も持たないで出てきた。それを後ろで気づいたある女の子がすぐ彼に傘を一緒に使おうと誘ってくる。彼も体調を整える大切な時期である限り、優しい女の子の誘いに何気なく答えていた。その瞬間をセラは十メートル辺りでみてしまった。
それは、彼女にとっては何と寂しい気持ちなのか? やっと一年弱ぶりに姿を見かけたとしたら、そこに他の女の子が近くにいて、ギハンを助けている。そこを目撃したのだ。
セラは凄くびっくりしてしまった。「そうだ。ギハンはどこにいても立派に見えるし、人気ものになっているかもしれん。まさか、浪人生同士でお付き合いする気? なんだ……こんなところをみてしまうとは。神さまに祈ったのに‼ 結局彼を諦めようともいうため?」
セラの心の中には色んな思いが騒いでしまい、ギハンたちの過ぎ去ったところで滑ってしまう。「最悪の風景なんだ。このタイミングで滑るなんて! 起き上がっても顔をあげたりしないで下を向こう。目がピッタリあったら、もっと悔しくなる。悔しくなる……」
彼女の本音は目があってギハンのそばの女の子をもっと近くで真面目に見たい気持ちと恥ずかしい気持ちが葛藤していた。そこで、セラは告白も一度できてない自らのことも浮かび、勇気を出さず顔をあげられないまま、時が過ぎた。
その日の夜、彼女は心が落ち着かなく、普段はバスで帰る道を歩いて雨にも半分濡れながら家へ帰った。眠れないし、涙もぼろぼろ。その二人の関係を色々考えてしまう彼女であった。
 深く眠れない時こそ、夢を多くみてしまう。それでも意味不明な夢ばかり、セラはだんだん神さまに怒りが沸いていた。
「神さま!信仰ってなんなのでしょう?信じて祈れば、求めるものが与えられるのでは?」
激しい嘆きに落ち込んでいたところ、姉クォンニが近寄ってきた。
「どうせ、無理だもの。実はこの間、わたしにギハンからあなたのことで話があったよ。」
「なんの話しになった?」
「まあ、その時、彼はちょうど日本から帰ってきてなんとなく心の整理をしたい気持ちだったらしい。それで、ギハンがハーフだし、うちの両親がどう思うか分からないから難しいと答えた。たとえ、付き合ったとしてもね。」
「そうか。それでも悩む程度には関心はあったのか。それは大した話しではないじゃない?一般的なことだし、ハーフって難しい面があるさ!」
「あー、そう?」

 セラは夜に泣きすぎて少しすっきりした気持ちになった。ギハンのこともちょっとは諦めがきたのかもしれない。そう思いつつも、受験を頑張ってギハンと同じ大学校へ進むことだけは諦めていなかった。
昨年、彼が落ちた大学校を目指せば良かろうと思っていた。彼もそこまで頑張れなかったみたいだし、同じところへ挑戦する程度であろうと周りも感じていた。セラにとっては、専攻に対して迷いが大きかったが、最優先は彼と一緒のところへ行くことだった。
音楽、美術は小さい時に諦めた。お金もかかるし、中々勇気がわかない。模擬テストの時は建築、衣装デザインの方に専攻希望としてみた。レベルや人気がある学校に挑戦してみたら、やはり落ちる。そして、受験の本番の日に、はじめて看護学科へ挑戦。
それは、急な変化で担任の先生さえ驚かせた。しかし、そこが点数に合わせて医者になりたい気持ちの一部をおろしてやっていけるのでは、と考えていた。
家族が病んだ時、特別な憐れみを、家族を心配していたセラは使命のようなことを感じていたのだ。それと、ギハンが入学する可能性が高い大学校へ行くためでもそちらを選ばなければいけない。

 時がたち、受験も終わり、結果発表の日になった。セラもギハンもハンナもスルギもみんなの祈りと願いが聞かれたか無事に大学生になった。そのうち、セラとギハンとスルギは同じ慶北大学校へ進み、ハンナは啓明大学校(ミッションスクール)へ進んだ。みんな大学生になれたことは嬉しいが、入学ばかりの頃は色んなことで会えることもどうしても少なくなってきた。
同窓会や教会の大学部で会えるかと思えば、そこまで長々と話したりする機会もだんだん減っていく。
それでもやはり同じ大学校の選んだ仲間は偶然か必然か同じ聖書研究のサークルへ入り定期的に会うことになっていた。ハンナはセラと別の学校ではあるが、看護を学び、セラと話しがあうこともあり、電話で長く喋ることもある。スルギは大学生になってからもっと女子ぽくなってきた。特に聖書研究の会の時は格別に綺麗な感じになっていた。目がキラキラしていて、たまにはギハンとの目線もぴたっとあったりして気になっていた。そればかりか、ギハンが彼女をみるのがちょっと何かが違う。スルギの赤くふっくらしている唇に彼の目が止まっていた。すぐさまキスでもするかと思うほどのギハンの集中の目!…
セラは気になってしょうがなく、スルギに電話をして確認した。
「ギハンと何かある?付き合うことでもしているのかしら?」
スルギは付き合ってないと答え、スルギはセラが大好きだからそんなことはありえないと言い切った。
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登場人物紹介

クッセラ: 主人公

シンギハン: 主人公の片思い、お姉さんの同級生

クックォンニ: 主人公のお姉さん

ハンスルギ: クッセラの同級生

キムハンナ: クッセラの教会の友達、牧師の娘

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