第2話

文字数 648文字

「ハンバーガーを一つ、あとコーヒーとフライドポテト」
「それでしたら、セットの方がお得ですよ」
「あ、そうですね」
「セットにしますか?」
「はい。お願いします」
「はい。セットにしようとしています」
「そうして下さい」
「はい。セットです」
 フライドポテトが大柄な男性店員によって運ばれてきた。その後、紙に包まれたハンバーガーとコーヒーがトレイに載せられる。
「お聞きするのを忘れていました。テイクアウトですか?」
「今さらですか? もちろん店内で食べますよ。安酒と一緒にね」
 僕は服の中からワインのボトルを取り出した。他の店員の視線が集まったが僕は気にせずにキャップを回して開栓し、口を付けた。
「店内で? 冗談はよしてください」
「どうして? 別に構わないじゃないか」
 彼女は朗らかに笑った。僕はもう一口飲んで、口を手で拭った。
「コーヒーはアイスが良かったですか?」
「いや、これはアイスだ。いい加減にしなよ」
「アイス? どういうことですか?」
「きみは日本語がわからないの?」
「お客様こそ、言葉がわからないのですね」
 いつのまにか持っていた酒は全て飲み干していた。彼女は僕をじっと見つめていた。そうして彼女はまた微笑んでみせた。八重歯が白く光っていた。形の良い耳が髪からのぞいていた。眩い光が彼女を包んでいた。僕はそれを凝視した。僕の意識は遠のいていった。僕は彼女を好きになっていた。
 翌年、月の裏側に彼女と住み、二人きりで週に三度は月面を散歩した。地球にはもう二度と帰る気になれない。

             了
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