第1話
文字数 1,930文字
胸糞悪い放課後、俺はいつもの帰宅する道を通る。
優等生とは真逆の劣等生の俺は、教師に目の敵にされ、濡れ衣を着せられた。財布を盗んだという疑いをかけられ、俺が犯人だという証拠もないまま、俺だということになってしまった。
問題児というレッテルはそうそう簡単にはがれるものではない。俺の家の近くには古い祠があり、何の神様かもわからないのだが、昔から祀られているらしい。たいていは何かが祀られていて、日本人の大半はとりあえず、手を合わせて拝んでおけばいいだろうとか神ならばとりあえず崇めておけなんていう精神の持ち主が多い。
俺はその祠のほうに向かって叫んでみる。
「盗みなんてはしないっつーの、山田の野郎死んじまえ!!」
「山田を殺せばいいのか?」
俺は耳を疑った。知らない声が脳に響いたのだ。しかし、周囲を見回しても誰もいない。誰かのいたずらにしては何かがおかしい。
「病気でしばらく寝込む程度で許してやる」
俺の人間としての優しさだったのかもしれないし、得体のしれない声に警戒していたからなのかもしれない。
「了解」
得体のしれない不気味な声の主は相変わらずどこにもいないが、俺の脳に語り掛けてきた。少し不気味な生暖かい風が俺の頬を撫でた。
本当の恐怖は翌日の中学校だった。教師の山田が珍しく休んでいるらしい。あんなに健康そのものだったのに、偶然の一致に俺は内心びくついていた。俺は自問自答した。きっと偶然の一致だ。俺は無関係だ。
――あの声の主が犯人なのだろうか?
テストを受けていたのだが、やっぱり回答がわからない。俺は優等生ではないし、勉強熱心ではないから問題なんてすらすら解けたためしもない。
「100点満点を1度でもとってみたいな」
心の中で、勉強ができない自分に嫌気がさして、願望を唱える。
「100点満点とらせてあげよう」
という声と共に、不思議なことに、問題の答えが答案用紙に透けて見えるという出来事が起こった。なぜか問題が理解できているのだ。そして、答えが見えたのだ。
案の定クラスでたった1人だけの100点という実績を残す。クラスでたった1人だけの100点を問題児の俺がとったという事実が存在した。クラスのみんなの驚きと羨望のまなざしを感じて、気分が高揚していた。
「なぁ、100点を取った気分はどうだ?」
脳に誰かが語り掛ける。他の皆には聞こえていないようだ。
「誰だお前は?」
「祠にまつられた全知全能の神だよ。困った人を助けている。世間でいう正義や悪の基準は関係ない」
「なんでも、困った事があったら語り掛けてくれ」
「本当に神なのか?」
「実際100点満点を取らせてあげたじゃないか。おまえは神になりたくないか?」
「なりたくないわけじゃないけど」
「じゃあおまえを次の神にしよう。今すぐ神にならないか? 今、神の力を手に入れればお前はもっと有能な人間になれるだろ? 受験だって簡単に合格できるし、夢が何でもかなうのだぞ」
「生きながら神になれるのか?」
「ああ、なれるさ、実際日本にはたくさんの神社仏閣があるだろ。小さな地蔵も含めたら本当に神はたくさん存在している」
「じゃあ神になるよ」
その場で即決してしまった。それがどんなに大変なことかも知らずに。
その瞬間俺の体は透明になり、実体がなくなった。
そして、目の前に俺がいる。これは、どういうことだろう?
「悪いな、新しい神様。俺は今日からおまえとして生きることにするよ」
俺の姿をした神がささやく。
「どういうことだ?」
俺はあわてて問いただす。
「次の神が見つかったら、神の中身が入れ替わるというシステムなんだ。生きながら神になっているというのは嘘じゃない」
「でも、俺はどうすればいいんだよ? 体がないじゃないか」
「次の神を見つけて入れ替わるということが必要だ。次の神にふさわしいのは、単純で、世界は自分中心に回っていると勘違いする自信過剰なところがある奴だ。そういう奴は自分が神になることを希望する」
「神のくせに嘘つきかよ。神として慈善事業をするべきだ」
「神は楽じゃない。自分のために力を使えないのだ。他人のために力を使うしかなく、また入れ替わることができる新たな人間を探すという長い長い時間を過ごさなくてはいけない」
そんな皮肉めいたことを言って元神は俺になる。そして、俺は新しい神になったらしい。神は自分へは無力だ。
「知らない誰かのためにいいことをするのが神の仕事だ。自分に何もメリットがないんだ。神ができるきっかけは人間の拝む力だ」
祠は誰かが掃除をしているらしく、誰かが花やお供え物を置いていく。そして、誰かが自身のために手を合わせて祈る。無償で知らない人のためにねがいをかなえる神が大変だろうから。
優等生とは真逆の劣等生の俺は、教師に目の敵にされ、濡れ衣を着せられた。財布を盗んだという疑いをかけられ、俺が犯人だという証拠もないまま、俺だということになってしまった。
問題児というレッテルはそうそう簡単にはがれるものではない。俺の家の近くには古い祠があり、何の神様かもわからないのだが、昔から祀られているらしい。たいていは何かが祀られていて、日本人の大半はとりあえず、手を合わせて拝んでおけばいいだろうとか神ならばとりあえず崇めておけなんていう精神の持ち主が多い。
俺はその祠のほうに向かって叫んでみる。
「盗みなんてはしないっつーの、山田の野郎死んじまえ!!」
「山田を殺せばいいのか?」
俺は耳を疑った。知らない声が脳に響いたのだ。しかし、周囲を見回しても誰もいない。誰かのいたずらにしては何かがおかしい。
「病気でしばらく寝込む程度で許してやる」
俺の人間としての優しさだったのかもしれないし、得体のしれない声に警戒していたからなのかもしれない。
「了解」
得体のしれない不気味な声の主は相変わらずどこにもいないが、俺の脳に語り掛けてきた。少し不気味な生暖かい風が俺の頬を撫でた。
本当の恐怖は翌日の中学校だった。教師の山田が珍しく休んでいるらしい。あんなに健康そのものだったのに、偶然の一致に俺は内心びくついていた。俺は自問自答した。きっと偶然の一致だ。俺は無関係だ。
――あの声の主が犯人なのだろうか?
テストを受けていたのだが、やっぱり回答がわからない。俺は優等生ではないし、勉強熱心ではないから問題なんてすらすら解けたためしもない。
「100点満点を1度でもとってみたいな」
心の中で、勉強ができない自分に嫌気がさして、願望を唱える。
「100点満点とらせてあげよう」
という声と共に、不思議なことに、問題の答えが答案用紙に透けて見えるという出来事が起こった。なぜか問題が理解できているのだ。そして、答えが見えたのだ。
案の定クラスでたった1人だけの100点という実績を残す。クラスでたった1人だけの100点を問題児の俺がとったという事実が存在した。クラスのみんなの驚きと羨望のまなざしを感じて、気分が高揚していた。
「なぁ、100点を取った気分はどうだ?」
脳に誰かが語り掛ける。他の皆には聞こえていないようだ。
「誰だお前は?」
「祠にまつられた全知全能の神だよ。困った人を助けている。世間でいう正義や悪の基準は関係ない」
「なんでも、困った事があったら語り掛けてくれ」
「本当に神なのか?」
「実際100点満点を取らせてあげたじゃないか。おまえは神になりたくないか?」
「なりたくないわけじゃないけど」
「じゃあおまえを次の神にしよう。今すぐ神にならないか? 今、神の力を手に入れればお前はもっと有能な人間になれるだろ? 受験だって簡単に合格できるし、夢が何でもかなうのだぞ」
「生きながら神になれるのか?」
「ああ、なれるさ、実際日本にはたくさんの神社仏閣があるだろ。小さな地蔵も含めたら本当に神はたくさん存在している」
「じゃあ神になるよ」
その場で即決してしまった。それがどんなに大変なことかも知らずに。
その瞬間俺の体は透明になり、実体がなくなった。
そして、目の前に俺がいる。これは、どういうことだろう?
「悪いな、新しい神様。俺は今日からおまえとして生きることにするよ」
俺の姿をした神がささやく。
「どういうことだ?」
俺はあわてて問いただす。
「次の神が見つかったら、神の中身が入れ替わるというシステムなんだ。生きながら神になっているというのは嘘じゃない」
「でも、俺はどうすればいいんだよ? 体がないじゃないか」
「次の神を見つけて入れ替わるということが必要だ。次の神にふさわしいのは、単純で、世界は自分中心に回っていると勘違いする自信過剰なところがある奴だ。そういう奴は自分が神になることを希望する」
「神のくせに嘘つきかよ。神として慈善事業をするべきだ」
「神は楽じゃない。自分のために力を使えないのだ。他人のために力を使うしかなく、また入れ替わることができる新たな人間を探すという長い長い時間を過ごさなくてはいけない」
そんな皮肉めいたことを言って元神は俺になる。そして、俺は新しい神になったらしい。神は自分へは無力だ。
「知らない誰かのためにいいことをするのが神の仕事だ。自分に何もメリットがないんだ。神ができるきっかけは人間の拝む力だ」
祠は誰かが掃除をしているらしく、誰かが花やお供え物を置いていく。そして、誰かが自身のために手を合わせて祈る。無償で知らない人のためにねがいをかなえる神が大変だろうから。