第1話

文字数 1,419文字

ラディッシュを薄くスライスし、小さなジャム瓶にはちみつで甘酢漬けにしたのを冷蔵庫の奥にみつけた。
ラディッシュの赤紫は赤玉ねぎや赤かぶやビーツと似た色だが、酢漬けにした食感は独特で、もともと水分が多い大根やかぶらとは一味違う。大根やかぶらやビーツは酢にもともと持っている水分が溶けるので酢が薄くなってしまうし、甘酢を吸収する量が多いのでピクルスを作る処理をしないでそのまま漬ける場合は月日が経過するとブヨブヨしがちになる。
ラディッシュの場合、実そのものの水分が少ないからか、甘酢漬けにしても、水分もほとんど出てきていないようだし、まるで大根やかぶらを干し網で1日干してから漬けたような、シャキシャキというよりパリパリした食感になるのが美味でごはんがすすむ。お酢のアルカリでラディッシュの皮が薄ピンクに溶け出し、スライスはまるで桜色より少し濃いめの淡いピンクに七変化してくれる。まだ1か月経過していないし大丈夫そうだったので、ニャルホドニは小さな100均のトングで一枚ずつ小皿の半分くらいの丸くて平たいミニ皿に盛り付ける。1枚食べてみたらまだブヨブヨになるどころかシャキシャキしていた。

「ラブディッシュ、まだ大丈夫なのね。」
ラブディッシュ?ラディッシュのこと?と揶揄してみたかったが、もしかしたらいつもの命名ゲーム的なものなんだろうとスルーして盛り付けていたが、LOVEという文字が浮かんだとき、キョッキョがとてもpeacefulでナイスな名前をラディッシュに付けたねと言ってみたい小さな思いが急にこみあげてきた。確かに、ラディッシュそのものは皮が赤紫でミニ赤かぶみたいで、酢漬けは桜色だったし、スライス自体はかなり透明度が高く、お皿の模様がぼんやりわかるかと思うほどだったので、ハートやLOVEという言葉、似あうと思ったからだった。

「ラブディッシュ、いい言葉。」
「へ?」
キョッキョはにんまり。
「ラブディッシュ、ラブの部分。ラディッシュのキュート感出てるよね。」
キョッキョはニャルホドニが勘違いしていることを咄嗟に悟ったのだろう。
「ダルビッシュ、似てる?」
キョッキョのヒントだった。
「ダルビッシュに掛けたの!?へぇええ!?トランプのトリンプの時もびっくりしたけど」
二人でそれぞれが爆笑していた。同じ内容のことについて、創り出した側と受けた側の笑のツボが違うんだろう。

確かに、ラディッシュとダルビッシュはどちらも愛らしい感じだし、キュートだし、連想がつながる、のがわかる。ニャルホドニはニュースのスポーツで大リーグで活躍するタイトルとともに映し出されたブロマイドのような静止画のダルビッシュの横顔をイメージしながら思った。

キョッキョはきっと文字を思い浮かべ、音感からもダルビッシュからラブディッシュを捻出したんだろう。それともラディッシュを見ていたらダルビッシュを思いだしたのだろうか?なわけないかと思いながら、文字からの連想が瞬時にできるキョッキョが凄いと思った。

スライスしたラディッシュに、別のジャム瓶から漬け込んだスライス生姜も添えながらキョッキョの想像力の豊かさに少し嫉妬を覚えつつも、まるでクイズに答えられない時に正解を知った後、そうだったの!?となる小さな焦りみたいなもの、キョッキョの想像力の可愛さに満面の笑みがこぼれるほどになんだかキョッキョが無敵の人のように思えて笑えてきて、タケノコの炊き込みごはんを山盛り盛っていた。
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