- 序章 -  隣の蔦の蒼い頃

文字数 769文字



蔦の木の葉が蒼く成る頃
飼い猫が失踪して帰るまでを
回想する

全部で十日くらい
帰らずだった

夏は夕刻前の涼しい時
冬は午後三時頃
首輪に紐を付け
散歩をさせる

その時
不注意にも逃げられた
首輪に紐を付けたまま

家族は心配する
紐が木か何かに引っかかって
首を吊った状態には
ならないかとか

二日後の明け方
鳴き声だけが聞こえる
帰りたそうな寂しい声
その日は捕まらず

三日後
東隣の倉庫に蔦の木の葉が
巻きついた家の
おじいさんが見かけたと言う
この日も泣き声だけ聞こえる

四日後
南隣の大きな庭がある家の
おばさんが言いに来た
首輪が付いた紐を見つけたと

家族の心配事は無くなったが
当の本人は鳴き声だけで
まだ帰らず捕まらず

名案が浮かび
玄関に餌と飲み水の
トレーを置いておく

もう三、四日
飲まず食わずの
半分ノラ猫状態だから

五日後の朝
玄関先で鳴き声がしたので
行ってみる

餌と飲み水が減って居る
近くにヤツは居る

これでは一向に帰らないと
判断しまたここで名案が浮かぶ

スマホを利用して
監視カメラのように撮影する

翌朝また
鳴き声がするので
今度は玄関には行かず
監視カメラの様子を
パソコンで見てみると
居た!ヤツだ

それから
かれこれ三日過ぎ
同じ事の繰り返しなので
玄関の引き戸を
少し開けたまま
監視カメラで見て様子を伺い
入って来たら
別の部屋から外へ行き
玄関を閉める作戦に

そして当日の夜
準備万端
監視カメラの様子を見始めるも
二、三分でヤツが現れた!

今度は玄関の中に
餌と飲み水を置いてあるので
中に入ったのを確かめ
外側から玄関を閉め捕獲成功

とても長く感じた十日間だった

この件と並行して
東側の倉庫に蔦の木が
巻き付いたお宅の
おばあさんが亡くなった

お通夜とお葬式
出棺と
人の出入りが多く
警戒心が強いヤツが
なかなか帰って来られなかった
理由にもなった

逃げて十日かけて帰って来た
うちの猫と
東隣のおばあさんの事を思い出す

蔦の木の葉が蒼く成る頃に……




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