第1話

文字数 22,294文字

窓の外はすっかり暗くなっていた。
一人の少年が古びた木のベッドを軋ませ起き上がる。
これからがバルの活動時間だ。
「ふわぁぁ…」
バルは起きがけに、埃を被り曇った全身鏡に映る自分の姿を見て、眉をひそめた。
脂ぎった黒髪、細い目、大きく広がった低い鼻、突き出した分厚い唇・・・ 全てのパーツが醜い、とバルは思った。
風船のように膨れた腹、寸詰まりの短い手足の醜い体に目を落としたところで、すぐに鏡から目を逸らす。
バルは古びてささくれだった木のテーブルから、茶色の紙袋を取り上げる。
中には買い置いていたパンと、串に刺した牛肉に塩胡椒をまぶして焼いただけの簡単な夜食が入っている。
バルはパンと、残していた串3本を食べ終わると、紙袋を丸めてゴミ箱に捨てた。
汚い作業着を着て、玄関を開け、夜の街に出る。
夜の闇に覆われた街には、まばらに街灯が灯るばかりで、この時間になると人気もほとんどない。
バルの住む街は、比較的大きな街だったが、それでも電気は最近ようやく普及し始めたばかりだ。
闇夜の中を薄明かりに照らされ、バルは黙々と歩き続ける。
この道を10分ほど歩いた先にバルの職場・・時計塔がある。
30メートルばかりの時計塔の螺旋階段に、夜のうちに一人でモップをかけて掃除しておくこと、それがバルの仕事だった。
誰とも関わらずに一人で終えられるこの仕事は、人との交流を極端に苦手とするバルの天職だ。
夜間の仕事ゆえに、少年が肥満できるくらいの給料も出る。
バルは、誰でもできる単純な仕事だと内心卑下しつつ、気に入ってもいた。
ふと前方に目をこらすと、黒い霧のようなものがゆっくりと近づいてきた。
歩みを進めると、人だと気づいた。
黒髪に、足下まで伸びた黒のローブという格好が、闇夜に溶け込んでいたようだ。
背の低いバルと、あまり背丈は変わらない。
華奢な体躯といい、大人ではない。
よく見ると、足取りはふらついていた

しばしふらふらと幽霊のようによろめいた後、目前の人はぱたりと倒れた。
周りには誰もいない。

「大丈夫…?」
相手が大人なら怖くて通りすぎる所だが、周りに自分しかいないのもあり、仕方なく声をかける。
だが、返事はない。
バルはかがんで、顔を覗き込む。
「歩ける?」
意識はあるようで、虚ろな様子でこちらを見るが、その顔は暗くてよく見えない。
「とりあえず家に…」
バルは肩を貸して、家に連れて帰ることにした。
掃除の仕事は一人でやるから、一日くらいサボってもバレないだろうと踏んでいた。
外も中も全てが古こけた、小さな家にようやくたどり着く。
バルはスイッチを入れて、電気をつけた。
バルの勤める掃除会社から貸与されている家だが、電気がついていることだけがこの家の良い所だ。
バルはベッドまで連れていき、寝かせることにした。
疲労していたバルが、ようやくベッドに寝かせた人の顔を見て、驚いた。
それは、バルが今までに見たこともないほどの美少女だったからだ。
神が造ったかのように整った顔をしている。
ショートカットの黒髪がよく似合っていた。
バルは連れ帰ってきたのが少女だったと知り、途端に緊張してどぎまぎする。
しかし、少女はベッドに寝かされたことで気が弛んだのか、寝落ちしたようだ。
バルも床に寝転び、少女が起きるのを待つ。
少女が起きたのは明け方だった。
すでに起きていたバルは、少女が目を覚ました気配に気づく。
「あ、起きた」
少女は起き上がり、ベッドに座る。
少し体力が回復したようだ。
「君、どこから来たの?お母さんは?」
バルが問う。
「どこだったっけ…覚えてない。あはは」
軽く笑いながら、少女が答える。
「記憶喪失?」
バルは問い返すが、どこかはぐらかされているように感じた。
「君が連れてきてくれたんだね。ありがとう」
少女は問いに答えず、礼を言った。
人に、まして少女に礼を言われることなどないバルは再び緊張がぶり返す。
「僕…ガレン。ガレン・ハンニバルって言うの。君は?」
バルは無意識に、少女に近づきたくて自己紹介した。
「…プルート・ディ・ラグランジア」
やや置いて、少女が答える。
「…へぇ。じゃあランちゃんって呼んでいい?」
バルは少し馴れ馴れしい調子で問う。
「…うん」
再びやや置いて、少女が頷く。
「僕はバルで。みんなそう呼んでる」
バルは少女と仲良くなることを期待していたが、話は弾まず、少女はしばし黙っていたが
「…私、行くね」
とだけ言う。
「えっ!?もう?もっと休んで行きなよ」
バルは少女を心配するより、別れを惜しむ気持ちから引き留めようとする。
「これ以上お世話になれないから…ありがとう」
だが、少女はそう言い残して、玄関を開け、早々に去ってしまった。
バルは少女が去ったあとの空間を虚しく見つめるしかなかった。


それから3日後のことだった。
バルは昼下がりに何をするでもなく微睡んでいると、玄関をノックする音が響いた。
普段、訪問者など無縁なバルはいぶかしむ。
まさか雇い主が解雇を言い渡しに来たのではないか。
「はぁ~い」
バルは若干緊張しながら、玄関を開ける。
玄関を開けた先にいたのは、この間の少女だった。
バルはぱっと心が弾む。
「あっ、あの時の!帰ってきたの!?」
バルの声は喜びが滲み出ていた。
「おじゃまします」
ランは軽く頭を下げて玄関を入り、ドアを閉める。
改めてランを見ると、女の子としては平均的な身長なのだろうが、小さいバルより背が高かった。
年齢は12~3歳といった所か。
11歳のバルには、少しお姉さんに映る。
昼明かりの下で見るランは神秘的なほど綺麗でありながら、どこか可愛さも併せ持っていた。
変わらず黒のローブを着ていたが、まるで魔法使いのようだ。
しかしこの前と違い、黒のリュックサックを背負っていたランは、リュックを肩から外しながら
「お礼ができてなかったから…これ」
と言い、リュックをバルに差し出す。
「えっ!い、いいのに…」
バルは口ではそう言いつつ、いそいそと近づいてリュックを受け取る。
だが、中には予想外のものが入っていた。
「なっ…!何これ!?」
バルはぎょっとして顔を上げ、ランの目を凝視する。
中に入っていたのは、数年は余裕で暮らしていける札束だった。
「これっ…どうしたの!?」
バルは訳がわからず問う。
たかが1日泊めただけの礼にしてはあまりに度が過ぎている。
何より、こんな年端もいかない少女がぽんと出せる金額ではない。
「言えないんです…ごめんなさい」
ランが言うと、バルはむしろ恐怖の方が上回った。
「あ…危ないお金だったら受け取れないよ!」
バルは厄介事は後免だった。
「足はつかないから…大丈夫」
全く悪びれず言うランに、バルは呆気に取られる。
「足はつかない…って…」
それはつまり、盗みか、何かしら犯罪行為で得た金だと暴露したようなものではないか。
この娘はどこかズレている、とバルは思う。

「じゃあ…行くね。お世話になりました」
ランは踵を返して、玄関を出ようとする。
「まっ…待って!待ってっ!」
バルはリュックはしっかり床に置いたまま駆け出し、家を出ようとするランの先回りをした。
「いきなりこんな大金!気になるよ!気にならない方が無理だよ!」
バルはせっかく貰った大金を返すのは嫌だったが、その出所が気がかりでならなかった。
しかし、ランは微笑しただけで、歩を止めず玄関に向かう。
「待ってっ!僕っ…!君がいないと寂しくなる!」
熱くなっていたからか、バル自身思わぬ叫びが飛び出す。
「またっ…一人になる…」
最後は絞り出すように言う。
言って、バルにはこれが本音だったように思えた。
ランは玄関を前にして歩みを止めた。
振り返り、バルを見つめる。
何かを口にしようとしているが、悩んでいるようだ。

「私は……"悪魔の一族"です」
悩んだ末、言うことにしたようだった。
だが、その答えにバルは衝撃を受けた。
「あの……」
それしか言葉が出てこない。
脳裏には様々な思いが奔流していた。

ーーこの世界には、生まれつき様々な"力"を持つ者がいる。
火を操る者、虫を操る者・・心を視る者から、人の恐怖心を自在に増減させる者まで・・・
これらの力は、人が生きていくため、長い年月をかけた進化の末に身につけた力だった。
自然界の生き物達が、生存競争を勝ち抜くために多種多様な力を身につけたように、人類もまた多様に進化した。
進化により発現したこれらの特殊な力を、人は魔法と呼ぶ。
だが、中でも、空間を操る力を受け継ぐ"悪魔の一族"は、最強の一角と目され恐れられていた。
400年前の大戦で振るわれた絶大な力の恐怖は、今でも語り継がれている。

だが、大戦に敗れた一族は二度と乱を起こさぬよう、当時の賢者達によりその心を封じられた。
封印により彼らは戦うことも…怒ることさえできない。
封印は永遠に続いていくはずだった。
しかし、いかに賢者達といえど、400年続く封印をかけることはできない。

封印の解かれた者達が現れ始めた。
けれども、長年心を封じられていたためか、生まれて始めて感じる"怒り"を彼らは制御できなかった。
ーー幾つもの悲劇が繰り返された。
ひとたび彼らが暴走すれば、どんな兵器も及ばない破壊と虐殺が起きる。
再び封じるための賢者達の古き力は、そのいくつかは既に断絶していた。
彼らを止められる者はいない。

そうして世界が下した決断はーー"一族絶滅計画"。
未だ封印の解かれていない者…幼児に至るまで全てをーー
かつて究極の平和主義者とまで呼ばれた彼らは、今では"悪魔"と呼ばれているーーー

「これ以上私に関わらないでください。あなたも殺されます」
ランが言い渡す。
密告されるリスクを侵して秘密を明かしてくれたのは、諦めさせるためでもあり、孤独の痛みを汲んでくれたからだとバルは察した。
"悪魔の一族"をかくまった者も、苛烈な処罰は免れない。
足早に去ろうとするのは、巻き込まないようにとの思いもあるのだろう。
しかし、バルには「あなた"も"」という言葉が引っ掛かった。
「じゃあ、ランの家族は…?」
答えを予想して、バルが問う。
「…うん。生き残ったのは私だけ…」
ランの答えに、バルは言葉を失っていた。
しばし2人は沈黙したのち、話はついたと思ったのか、ランは再び立ち去ろうとする。
「どこに行くの!?」
バルが叫ぶ。
「どこか…」
呟くように言うと、ランは言葉を探すように少し考え込んだ。
「私は大丈夫…この力があるから。どこでも生きられる…」
静かに言う。
バルは、まるで慰められているのが自分のように思われた。
やはりランはここを去る気のようだ。
「行かないで!」
バルは必死に引き留める。
それはランを慮ってのことというより、この機会を逃したらもう一生こんな美少女と繋がれることはないという邪な思いだった。
ランが同性であったなら、我が身に迫る危険を恐れて引き留めることはない。
「でも…」
ランは尚も躊躇う。
「ーー死んでもいい!」
バルが言い切る。
こんな生活が一生続くくらいなら、短くとも美少女と暮らして死んだ方がいいと心から思った。
「僕はずっと、一人で生きてきた…置いてかないで…」


バルの泣き落としに折れる形でランが同居を始めて、数日が経った。
ランは人目につくことを恐れてか、外に出たがらなかった。
数日はバルがいつも通り、出来合いのものを買ってくる生活だったが、今日、ランが食事を作りたいと言い出す。
バルは何を買ってきたらいいかわからないので、ランに頼まれた食材や調味料をそのまま市場で買ってきた。
自分ではほとんど使ったことのない台所にランが立っているのを眺め、バルはまるで夫婦になったみたいだと良い気になる。
石造りの小さな台所だが、水道も、近年はガスまで普及していた。
バルは少し心配していたが、ランは手早く数品の夕食をこしらえる。
机に、見た目には美味しそうな料理が並んだ。
手作りの料理を食べるのは、実家を飛び出してきてから2年ぶりだ。
「どう…かな…?」
ランが少し不安気に聞く。
バルはさっそく口に入れてみた。
「うえっ!不味い!」
バルは思いっきりしかめっ面をして、大きな声で言う。
本当は美味しかったのだが、ランの不安気な様子を見て調子に乗り、からかってみたくなったのだ。
「えっ…!ごめんなさい…」
ランはショックを受けた顔をして落ち込む。
予想外に結構落ち込んだので、バルは慌てた。
「冗談だよ。すごく美味しい。プロが作ったみたい」
本心から言う。
プロが作ったみたいは言いすぎだったかもしれないが、素直に美味しく、少女がこんなに上手に料理を作れるとは思わなかった。
だが、笑えない冗談だと悟ったランは、むっとした顔を作ってバルに近づく。
怒らせてしまったかとバルは少し怯んだ。ランが触れそうな距離まで近づいてきたので、ビンタでもされるかとバルは目を瞑って顔を背けた。
「ヒャッ!」
脇腹の変な感触に、バルは思わず悲鳴が出た。
見ると、ランが脇腹に手を突っ込んでくすぐっていた。
抵抗しようとしたが、体に力が入らない。
「ヒヒッ!許してっ!ごめんっ!ヒィーッ!」
バルはすぐに許してもらえると思っていたが、この後、笑い死にするのではないかと恐怖するほどくすぐられることとなる。。
それ以来、バルはランを怒らせてはならないと調子に乗りすぎることはなくなった。。


ランと一緒に暮らし始めて3ヶ月が過ぎた。
季節はすっかり春に入り、ランも今ではローブでなく、カジュアルなシャツを着ている。
自分の服も無頓着なのに、女の子の服なぞ何を買ったらいいかわからなかったバルが、とにもかくにも買ってきた服の一つだ。
ランが台所に立って料理をしている姿も、だいぶ見慣れた光景となった。
しかし、バルには気掛かりな思いがあった。
「ずっと家にいて気が滅入らない?」
バルが以前より思っていたことを問いかける。
「…ごめんね。バルにばかり働いてもらってるよね…」
ランが申し訳なさそうな顔をして言う。
金ならランが以前くれたものがあったが、働くのを辞めて生活できているのを見たら人が怪しむのではないかと思い、 バルは今でも掃除の仕事を続けていたのだった。
「いや、そうじゃなくて!ランが家事してくれてすごく助かってる!でも…嫌にならないかな、って…」
思わぬ受け取られ方をしたことで、バルは慌てた。
ランが家事全般をしてくれるようになったことで、自堕落に生きていたバルの生活は激変した。
そのことに幸せを感じていたが、ただ純粋に、外に出ない毎日に嫌気が差してるのではないかと不安になったのだ。
「ありがとう…でも私のことなら大丈夫。私もともと外出なくても平気だから」
「そう…」
本心かはわからなかったが、バルはそれ以上追及しないことにした。
窓の外は暗くなり始めている。
そろそろ仕事の時間だ。
「行ってくる…」
バルは家を後にして、時計塔に向かう。
それは5分ばかり歩いた頃だった。
「おーい!底辺!」
人気の少ない街に、聞き慣れた声が響く。
バルは緊張で体が強張るが、あえて声の方を見ることなく歩き続けた。
「お前のことだよ!」
大きな声と共に、バルは頭に強い衝撃を受けた。
地面を何かが跳ねていく音。
痛みに頭を押さえると、手にぬるっとした血の感触がした。
普段は嘲笑だけで済むことが多いが、今日は大きめの石を投げつけられたようだ。
声の方向を見ると、バルと歳の変わらないいつもの少年3人がいた。
「ギャハハ!デブがキレた!」「刺されるぞ!」「逃げろ!」
3人の少年は笑いながらバルとは反対側に駆けていく。
バルは胸に鈍い痛みを覚えながら、いつものように時計塔に向かった。

掃除を終えて帰る頃には、陽は上がり始めていた。
バルは時計塔の水道で頭の傷を洗い流し、よく拭ってから帰宅することにした。
先の少年達にはよく遭っていたが、そのことをランに話したことはない。
自分がいじめられているということをランには知られたくなかった。
粗末な家にたどり着く。
バルは平静を装ってドアを開けた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
ランが出迎えてくれる。
朝食の匂いがした。
「…お疲れさまです」
部屋に入ると、ランが少し頭を下げて言う。
外とは別世界の暖かさに触れたことで、バルの中で堰が切れた。
「はは…誰でもできる仕事だけどね。いや、誰もやりたくない仕事か…」
バルが自嘲し始める。
ランは事態を飲み込めずきょとんとした。
「だから僕でも勤まってる…底辺だよ」
バルは自分でも心の奥底で思っていたことを少年達に嘲笑されたことで、やっぱりそうだったかと、目を背けてきた事実を突き付けられた思いがしていた。
「そんなことないよ!毎日あの大きな時計塔を一人で掃除してるんでしょ…? 私にはとてもできない…すごいことだよ…!」
ランは、バルがなぜ突然こんな話を始めたのかわからなかったが、慌てて慰める。
バルは、ランの言葉に救われる思いがした。
心に無理やり注入された毒が浄化されたかのようだ。
自分を肯定される経験に乏しかったバルは泣きそうになるのを何とか抑えた。
「ありがとう…」
言って、ふと思いついた。
自分がこんなに可愛い女の子と一緒にいて、愛されている所を見れば、連中も街の人達も自分を見直すのではないか・・・?
ランほどの美少女とつき合えたことなんて連中にあるはずがない。
「やっぱり一緒に外出てみない…?」
バルが提案すると、ランは戸惑いの様子を見せた。
「えっ…」
やはりランは外に出て、人目につきたくないようだ。
「でも…」
「大丈夫だよ!この3ヶ月、怪しい人なんて見たことないよ!」
それはその通りだった。
バルはランの不安を打ち消そうとする。
「僕が一緒に来てほしいんだ…一人で歩くのも寂しいし…」
バルは胸の内の打算を隠して言う。
「そっか…」
ランは尚も不安気に悩んでいたが、しばし思案したのち
「じゃあ…明日は一緒に行ってみるね」
と了承した。
「ありがとう!」
バルは、連中の驚く顔を想像して浮き足立った。

翌日から、バルとランは2人で買い物するようになった。
それまで食材の買い出しはバルの仕事だった。
時計塔の掃除を終えて帰る明け方にはまだ開いている店は少ないので、昼から再び食材を買いに行くことが多い。
しかし、幸か不幸か、先の少年達に出会すことはなかった。
もともと昼間は本来、学校の時間だからか、出会す機会はほとんどない。
また、時折視線を感じることがある程度で、街の人達もバルが期待したような反応は見せなかった。
比較的大きな都市ゆえに、人は他人のことにあまり興味がないのかもしれない。
そうした日々を繰り返すうちに、バルもランも次第に一緒に外出することに慣れてきていた。
ある日のことだった。
「そういえばこっちの道のが近いよ。こっちから行こう」
普段は人気の賑わう広い道を行っていたが、バルが薄暗い裏道を指す。
2年近くこの街に住むバルは、商店街に向かう近道を知っていた。
期待したほどの反応を得られないならば、わざわざ表通りを行く必要もないとバルは思った。
ランもそれに頷く。
しばし2人はごみごみとした裏道を行く。
どこか黴臭い臭いがする。日の差さない、人もいない裏道だが、もともとバルにはその方が良かった。
だが、眼前に、いつもはいないはずの数人が屯しているのが見える。
嫌な予感がした。
バルに緊張が走る。
しかし、今さら引き返す気にはなれない。

「あっ」
先に気づいたのは、少年達の方だった。
「バルじゃん」
冷笑しながら言う。
屯していたのは、件の少年達だった。
妄想の中では望んでいた状況のはずだったが、バルは体が石になったように強張る。
しかし、緊張しているのを悟られないよう、なるべく普段通り歩を進めた。

「おっ、彼女?」
バルと一緒にいるのが少女と見とがめた、そばかす面の少年が冷やかす。 軽薄なお調子者のエイジだ。
「なわけねーだろ」
鼻で軽く笑い、フロンという少年が冷たい顔で否定する。
バルは増していく緊張の中で、操り人形のようにぎくしゃくしながら少年達との歩を詰めていく。
妄想は吹き飛び、今はただ一刻も早く少年達とすれ違いここを去ることを祈るばかりだった。

「おい…!すげー可愛いじゃん…何であいつが…」
ランの顔が見える距離まで近づいたところで、エイジが驚きで目を見開いて問う。
信じられないものを見たという顔だ。
「知らねーけど。彼女はありえねぇ。こんな美人があいつとつき合うわけねーだろ」
フロンが変わらず、冷たく答える。
この残酷な少年達でも認めるほどやはりランは美少女だったかと、バルは少し嬉しくなるが、妄想とは違いそれがバルの評価を高めることはなかった。
「じゃあ何だよ?」
「知らねえって」
少年達が少しざわめく。
バルは自分の考えが甘かったことを責めつつ、この間にここを切り抜けられないかと、それだけを考えていた。
「ねぇねぇ、君」
真ん中に立っていた、イーシュンという少年がランに声をかける。
バルとさして背丈の変わらない、小柄な少年だ。
「そんな奴と一緒にいたら不幸になるよ?」
イーシュンが言い放つ。
バルは一瞬にして、気温が下がったように思えた。
一見すると陽気な顔つきのイーシュンから、暗い毒が吐きつけられる。
「行こう…」
知らず立ち竦んでいたバルの手首をランが少し引っ張る。
少年達は不良というわけではなかった。
むしろ仲間内では小馬鹿にされる、弱い立場の少年達だ。
それだけに却って、同じ弱者への攻撃は残酷さを増す。
「そいつはさー、親にも捨てられたんだよ。でなきゃ俺らとタメで学校も行かず一人で暮らしてねーよ」
イーシュンが続ける。
それは事実には反していたが、季節は夏に差し掛かっているというのに、バルは内側から凍りつかされているような思いだった。
「そりゃそうだよな。こんな欠陥生まれたら俺ならソッコー捨てるね。こいつ生んだ親が可哀想だ」
執拗に攻撃を続ける。
イーシュン自身、いじめられていた過去があった。
恨みを晴らさんとばかり、全く無関係な、より弱いバルに病がぶつけられる。
バルはイーシュンがとりわけ苦手だった。
いつも病気を移されるような気がしていたからだ。
「こんなん生まれたら地獄だわ」
フロンが同調する。
バルは心が殺されていくようだった。
「いるんだよなー。こういう人を不幸にすることしかできない奴。 な、そんな奴早く離れて俺らとーー」
病んだ言葉とは不自然なほど対照的に、明るい調子でイーシュンがランに近づく。

次の瞬間、イーシュンの頭や胸に巨大な穴が空いた。
バルは非現実的な光景に我が目を疑う。
穴からは滝のように大量の血が零れ出した。
「あっ……!」
イーシュンもまた、胸から流れ続ける大量の血に理解が追いつかず、呆然と見ていた。
言葉にならぬ言葉を発したのち、多くの血を失った体は脱力し、地面に音を立てて崩れ落ちる。
水溜まりのように溜まった血は飛び散り、頭や胸に空いた巨大な穴からは尚足りぬとばかり、残った血が排出され続けていた。
「うっ!!」
「うわぁ!!」
フロンとエイジは仰け反って悲鳴を発する。
バルにも未だ現実の光景と思えない。
一方のランは、崩折れたイーシュンに一瞥くれることさえせず、眼前の2人の少年に目を向けたままだった。
「おまっ…!お前がっ…!」
フロンはランを指差して喚く。
バルは生まれつき魔力を備えていない。
魔力を持って生まれた者は、往々にして高位の身分をあてがわれるものだ。
魔力があるにも関わらず時計塔の掃夫をすることは考えられず、もしそうであるなら、とっくに力を使って自分達に逆襲しているはずだ。
フロンは瞬時に、力を使ったのはランの方だと判断した。
だがしかし、目を見開き戦くその形相は、普段の傲然とした姿からはバルにはとても想像できないものだった。
「ヒイッ!!」
恐怖に耐えられなくなったエイジは踵を返し、全速力で駆け出す。
「ーーーっ!」
フロンもエイジに習い、反転してバル達とは逆方向に必死で駆けていった。
「殺さないで!殺さないでーっ!!誰かっ!人殺ーー」
エイジが恐怖の余り錯乱状態で絶叫する。
咄嗟に、まずいとバルは思う。
悲鳴を聞いて人が来たら・・・
だが、2人の少年にも、幾つかの巨大な穴が空いたのが遠目にも見えた。
イーシュンの時と同様、体に空いた穴から、滝のように血が流れ出す。
「あ"ッ!」
踏み潰された蛙のような悲鳴を出すのが精一杯で、2人は路地裏に崩れ落ちた。
血飛沫が散る。
苦痛を感じることさえなく即死したのは、あるいは幸いだったかもしれない。

ランがバルに向き直り、真剣な目で見つめる。
バルは目前の凄惨な光景に混乱していた。
人を無自覚に怒らせるバルと共に暮らしているにもかかわらず、ランが本気で怒った所を一度たりとも見たことがなかった。
それだけに尚更、信じられない思いだ。
不意に、"悪魔"という言葉が浮かぶ。
ランと暮らしてきて初めて、彼らが悪魔と呼ばれ恐れられている理由が解った気がした。
今ようやく、ランの真の姿を見たかのようだ。
「あっ……あ…」
ランに見つめられ、少し恐怖したバルは、何か言おうとしたが言葉が出てこない。
ともかく今はこの死体をどうにかしないといけないのではないか・・・

「私が幸せにするよ」
バルをまっすぐ見つめて、ランが言う。
バルはどきりとした。
それは少女が男に言う言葉ではないようにバルには思われたが、それどころではない状況なのにどぎまぎする。
「きっと…」
ランが誓うように添える。
どこまでも真剣な目だった。
バルは、ランの決意の強さに圧され、しばし時を失った。

「後は私がやるから…先に帰ってて」
ランの言葉で、バルは現実に引き戻された。
この地獄絵図を作ったのが目の前の少女だとは、今でも信じられない思いだ。
バルはキョロキョロと首を振って目を配るが、誰もいなかった。
普段から人気のいないこの路地裏で誰かに目撃されていたとは考えにくいが、バルは不安を拭い切れない。
だが、ランが後処理をしてくれると言ったのを幸いに、バルはそそくさとその場を立ち去ることにした。

一人家に帰り、とりあえず落ち着いた環境に避難できたバルに、高揚が芽生えてくる。
あれだけ自分を苦しめてきた、しかしどうしようもないと諦めていた存在が、いとも容易く一瞬にして消し去られた。
こんなにも簡単に、バルにとっては恐るべき敵達が一掃されたことが不思議に思える。
いつもスカした面していたフロンが慌てふためいて逃げ出す姿など思い出すと、胸がすくようだ。
無残に殺された3人に、ざまあみろと思ったところで、バルは恐怖に圧し殺されていただけで、実は少年達を激しく憎悪していたことに気づく。
意図していたわけではなかったが、これこそがバルが内心望んでいたことだった。
バルは少年達に初めて勝利したような思いだった。
しばし解放感に浸る。

ふとイーシュン達の言葉を思い出す。
イーシュン達は、バルが親にも捨てられたと思っていたのかもしれない。
それを聞いていたランが何を思ったのかはわからない。
恥ずかしい過去だとの思いがあり、バルはランにも自分の生い立ちを話したことはなかった。
バルはこの街に来るまでの過去を振り返り始める。

バルはもともと、山間の村の出身だった。
家の外に出れば八面、畑ばかりの、今いる街とは比較にならない田舎村だ。
そこの小さな商店に、一人息子として生まれたのがバルだ。
バルは、当然将来は店を継ぐものとの親の考えの下、厳しく躾られて育てられた。
とりわけ愚鈍なバルにとって、家はつらいものだった。
当時は学校に通っていたが、学校では田舎村特有の陰湿ないじめを受けてもいた。
バルはこの世を憎んで育った、孤独な少年だった。
バルが大人になった自分を想った時、そこには、この田舎村で小さな店を継ぐ一本道しかなかった。
この村しか世界を知らないまま、この村で生まれて育ち死んでいく。
それは嫌でたまらなかった。
だがその未来は明らかに見えていた。

バルが9歳の時、家の金を盗んだ上で、夜中に家を抜け出した。
家の金を盗めば、厳しい親が許すはずもない。
もう一生、家には帰らない覚悟だった。
町まで歩き、町からは列車を乗り継いだ。
とにかく見つからない所まで、遠くに逃げようと思った。

だが、現実は厳しかった。
街に出れば自分は変われるかもしれないと思っていた。
新たなきらびやかな人生があるかもしれないと。
しかし、仕事に就くのは並大抵のことではなかった。
かろうじて仕事に就けたとて、愚鈍なバルには務まらず、すぐに解雇されてきた。
野宿を繰り返し、流れ流れて、最後にようやく見つけられたのが、この時計塔の掃夫の仕事なのだった。
辞めたら次が見つからない、帰る家もないバルは、少年達にいじめられても耐えるしかなかった。
だが、イーシュン達の見立て通り、親に捨てられたからここで一人暮らしているわけではなかった。
都会に夢見て、親の金を盗んで、上京してきたのだった。
しかし、バルには想像もつかない過酷な世界を生きてきたランに話すには、甘ったれた情けない過去に思えた。
それでランには言えず終いだったのだ。
ランもまた、隠しておきたい過去を探るような娘ではなかった。

バルも、思えばランのことを知っているとはとても言えない。
ランは自分のことをあまり語りたがらなかった。
何を思っているのかも、バルには実のところわかっていない。
今日、ランが見せた一面を思い出すと、バルは少し恐怖を感じてしまう。
もともと、犯罪を犯すことに躊躇いのない娘だとは思っていたが、今回のことは今でも信じ難い。

バルが様々なことに思いを馳せているうちに時間は過ぎ、しばらく後にランは帰ってきた。
バルはお礼を言うべきだと思ったが、なぜだか今日の話をしたくなかった。
微かに頭を下げるだけに留まる。
ランもまた、バルが触れたくないならそれでいいと思っているようだった。
バルは、死体を見つからないように処理できたのか気掛かりだったが、ランの力ならそう難しいことではないだろうと思い直し、結局触れないことにする。
2人共、今日の惨劇にはついぞ触れることはなく、日常に戻っていった。

季節は真夏に差し掛かっていた。
日が真上から燦々と降り注ぐ中、バルは広いリビングで寝転んでいる。
真夏だというのに、例年ほど熱気に苦しめられていない。
家の床や壁の内側に、パイプが張り巡らされ、川から引いた冷水がパイプ内を絶えず流れることで、家全体が冷やされているからだ。
夏の暑さに辟易していたバルのたっての希望で、2人はこの新たな家に引っ越してきていた。
3階建ての家には、茶の見事な瓦が敷かれ、ぴかぴかの白壁には小洒落た装飾がなされている。
子供2人だけで住むには不可解な、高級住宅だった。
ランは時折、遠出しては、しばらく帰ってこないことがあった。
今回も、2週間ほど前からランが遠出しているので、バルは一人家に取り残されている。
以前このようなことがあった時は、ランは一生働かなくても困らない大金を持ち帰ってきた。
無論、真っ当な方法で得た金ではないだろうが、これでバルは金の心配がなくなり、遠慮なく散財するようになる。
バルもだいぶ慣れっこになり、最初の頃ほど驚くこともない。
非日常はいつの間にか日常になっていた。
バルは今では擬態のための仕事も辞め、日がな一日寝転んだり、思いつくままに外食に行き、暇を持て余すほどだった。
当初は恐れていた、ランの追手の影も見当たらず、どうしても警戒の糸は弛んでいく。
変わったことといえば、バルと同年代の子供達の反応くらいだ。
バルは3人の少年達以外の子供達にもいじめられていたが、あれ以来、すっかりいじめられることがなくなった。
警察の手が伸びることはなく、どういう形で噂が伝わったのかバルにはわからなかったが、 率先してバルをいじめていた3人が突如として消えたことに、子供達も何らか警戒したのだろう。
バルはこれまでの辛い人生から一転して、誰にもいじめられず堂々と街中を歩き、裕福な暮らしをしていると、 自分がまるで王族になったかのような錯覚すら覚え始めていた。

「ただいま」
ドアが開く。
2週間ぶりにランが帰ってきた。
「おかえり」
バルは喜んで立ち上がり、ランを出迎える。
「バル」
「ん?」
「これ…」
言うと、ランは何か小さいものをバルに差し出す。
小さなそれは紫の光を放っていた。
「指環?」
「"偽証の指環"…バルはこういうの好きじゃなかったかな…?」
ランが少し遠慮がちに問う。
「ううん、嬉しい。…"偽証"?」
"偽証の指環"なる、初めて聞く物が何なのか、バルが問い返す。
「うん。魔力がない人でもこの指環を付けると、指環に魔力を込めた人の力を使うことができる…」
「へぇ…それで"偽証"…」
「私が魔力を込めておいたからバルも私の力を使えるようになる…でも込められる量は少ないから一度使うのが限界だと思う」
聞いて、バルはワクワクしてきた。
バルはずっと、特別な力を使える人達に対する憧れがあった。
憧れてきた世界に、自分も仲間入りできたかのような気分だ。
「きれい…紫に光ってる…」
バルは指環が放つ、神秘的な光の美しさに見惚れていた。
「もとは黒なんだけど…誰かが魔力を込めるとその力に応じた光を放つの。私は紫みたい…」
「へぇ。初めて知った。でもこんなの持ってて疑われないかな?」
バルは、指環を見た人に、自分が"悪魔の一族"と繋がりがある、もしくはそのものだと疑われることへの不安が過る。
「すごく珍しい指環だから…多分大丈夫だと思う」
"多分"が少し引っ掛かったが、それを聞いてバルはホッとした。
この指環を調達するために外出していたのかと合点もいく。
「何でそんなものを僕に…?」
「私といるとやっぱり危険だから…いざという時のために付けててほしくて…」
バルはランが心配してくれてたことに嬉しくなる。
何より、自分も魔法を使えるということが内心嬉しくてならない。
「そっか、ありがとう!嬉しいよ!」
バルは大切な宝物のように、そっと指環を指にはめた。

それからまた、しばらくの時が流れた。
今では夏の厳しい暑さはすっかり過ぎ去り、時折、肌寒さを感じるほど秋が深まっている。
「ねぇ」
バルが寝転んだまま、ランに呼びかける。
「この辺りに高級ステーキ店ができたみたいなんだけど、一緒に来てくれる?」
一生かけても使いきれないほどの金を得たバルは、気の向くままに外食を繰り返せるようになっていた。
「ステーキかぁー。私はいいかな」
バルが外出する際は乞われて同行することの多いランだが、バルとは食の好みも異なり、今回は一人で行ってもらおうと断ることにする。
「でも一人で行くのは今でも何だか気が引けて…」
これまでの人生とはまるで別世界の裕福な暮らしに慣れてきたものの、高級ステーキ店に子供一人で入ることには未だ臆するバルは、できることならランにもついてきてほしいと思う。
何より、最強の力を宿すと信じるランと一緒にいると、どこに行くにも安心できた。
「そっか…じゃあ私も行ってみようかな」
再度乞われて、少し悩んだものの、ランも応じることにする。
「うん!それがいいよ!」
バルは嬉しくなる。
絶対美味しいはずのステーキは、ランも食べた方がいいとも思っていた。

「高いお肉だしさ!きっと美味しいよ!僕、分厚いステーキなんて食べたことないから今から楽しみ!」
目当ての店に向かいながら、バルは人生で初めて食べるステーキの味を想像して浮き立っていた。
ランも、最初は乗り気ではなかったが、バルの話を聞いているうちに少し興味が湧いてくる。
それにも増して、幸せそうに語るバルを見て、内心喜びを感じていた。
「ランもーー」
突然、ランは、誰かにお腹を強く殴られたように後ろに吹っ飛ぶ。
バルは言いかけた言葉が止まった。
次いで、空気を切る音と、風船が耳元で破裂したような大きな音。
背景は真っ白に消え、ゆっくりと後方に倒れていくランの姿だけがくっきりと浮かび上がる。
その光景だけがバルの目に焼きついた。
それがバルが、最後に見たランの姿だった。

「えっ…?」
目の前には、家が幾つも建っていた。
以前、バルが利用していた近道の路地裏に似ている。
不意に切り替わった景色に理解が追いつかない。
耳には破裂音だけが、いつまでも反響して残り続けていた。
ただならぬ事態が起きていることだけはわかるが、バルは恐怖で全身が硬直し、微動だにできない。

2度目の破裂音。
「ヒッ!」
体に鋭く針を刺されたような音に、びくっとなる。
それを機に、音の聞こえた方向からとにかく遠ざかろうと、バルは無我夢中で駆け出した。
背後から、3度目の破裂音が響いてくる。
駆けながらバルはようやく、音の正体は銃だと直感した。
飛び道具といえば弓矢くらいしかなかった400年前とは違い、銃が誕生してすでに数百年が経っていた。
銃声こそ聞いたことはなかったものの、バルも知識としては当然知っている。
駆けているうちに、ランは何者かに銃で撃たれたこと、次いで2度、3度と聞こえた音は確実にランに止めを刺すための銃声だったこともわかってきた。
肥満体で運動も極度に苦手なバルは、早くも息が切れ心臓が破裂しそうになるが、それでも恐怖に駆られ走り続ける。
ランを助けないとという思いはない。
ただただ、怖くてたまらなかった。
バルはかつて、死んでもいいと言った。
頭ではそのつもりだった。
だが、現実に死を目前にすると、それは死が自分から遠く離れているがゆえ、リアリティを持てなかっただけだと思い知らされることになる。
バルはただ生きたく、ただこの場から出来る限り遠ざかりたい一心だった。

「ハァ、ハァ、」
やがてバルは喉が焼けつき、どうにも走ることができなくなった。
それでも歩みは止めない。
日頃、運動不足なのに、突然今までの人生で一度もないほど全力疾走し続けたため、今度は猛烈な気分の悪さに襲われる。
だが、立ち止まるよりもこうして歩き続けた方が回復も早いと、バルはかつて学校で教わっていたことを覚えていた。
何より、歩みを止める気になどなれるはずがない。

どれだけ歩いただろうか。
建物がまばらになっていくのにも気づかなかったバルは、いつしか街を離れ、森の入口に立っていた。
バルは迷わず、獣道を分け入り、森に入る。
とにかく今はこの街から逃れたい、それだけを思っていた。
時折、木々の枝をかき分けつつ、バルは名も知らぬ森の中を行き続ける。
どこをどう行ったかもわからないのに、バルはしばし歩くと森を抜けた。
比較的小さな森だったからかもしれない。
隣町にたどり着いたようだ。
だが、すでに日は暮れかけていた。

「限界だ…ちょっと休んでいこう…」
一人、呟く。
半日逃げ続けてきたバルは、先を急ぎたい気持ちもあったが、体力の限界を感じどこかで休むことにする。
ふと町並みを見回してみると、ここはバルが先ほどまで住んでいた街より数段落ちる、寂れた雰囲気の漂う田舎町だった。
その中で、シャトールホテルと書かれた、ハイカラな名前と対照的にやけに汚い看板が目に止まる。
ホテルらしき建物は、古めかしい建物が並ぶこの町外れでも、一際古びて貧しげだった。
しかし、疲れ果て、休めればどこでも良かったバルは、ここなら宿代も安いだろうと思い、先の金を残しておく意味でもこのホテルに泊まることにする。

ホテルに入ると、案の定、中も相当年季が入った粗末なロビーだった。
小じんまりとしたロビーの受付には、60代前半くらいの、いかにも胡散臭そうなおじさんが立っている。
「…ここ、泊まれますか?」
バルは失礼とも受け取られかねない質問をする。
「はい、はい、泊まれますよ」
どこか適当な感じのおじさんが、軽く答える。
「じゃあ1泊お願いします」
「はい、はい。お名前お願いします」
「ガレンです」
疲労で頭が回らないバルは、思わず本名を名乗った。
「ガレン様ですね。お部屋は202号室です」
鍵はないのか、と思いつつ階段を上がると、長方形に切り取られた壁に青い暖簾がかけてあるだけの部屋の入口にたどり着いた。
ドアさえないとは、と驚きながらも仕方なく暖簾を潜る。
狭い部屋の中は、黄ばんだ壁紙が剥げかけ、錆び付いた鉄製のベッドとクローゼットしかなかった。
刑務所みたいだ、とバルは思う。
入口の向かい側には窓があったので、いざという時はここから飛び降りて逃げられないかと一瞬考えた。
しかし、とにかく寝たかったバルは、茶色いシミが点在する布団が敷かれたベッドにとりあえず寝転ぶ。

「興奮して寝れない…」
極度の恐慌状態にあったバルは、ベッドに寝転んでもしばらく寝つけなかった。
ひとまず落ち着いた環境に避難できたことからか、今度はランのことばかり頭に浮かぶ。
いつかこんな日が来ることは覚悟していたつもりだが、あれだけ恐ろしい力を持っていたランが、銃なんかで呆気なく殺されるとは信じられない。
今が夢で、夢から醒めたらランは生きているのではないかと思う。
だが、夢なら醒めてくれと思いながら目を瞑り続けていたバルは、知らぬ間に寝落ちしてしまった。

夜が過ぎ、日も地平線を昇ってしばらく経つ。
前日の疲労から、朝を過ぎてもバルは未だ寝たままだった。
その頃、バルが泊まるホテルのロビーに一人、長身の若い男が訪ねてきていた。
男はひとしきりバルの特徴を話したのち、そういった子供がここに泊まっていないか問う。
「どういうご関係で…?」
受付のおじさんが、男に尋ね返す。
「兄だ」
男は素っ気なく答えた。
「ガレン様は202号室におられます」
おじさんは個人情報もあったものでなく、バルとは似ても似つかない兄を名乗る男に、あっさりバルの泊まる部屋を教える。
それを聞き、男は無言でバルの泊まる部屋に向かった。
そうとは知らぬバルは寝入り続けている。

トントンと入口の横の壁をノックする音。
バルはそれにも気づかない。
「邪魔するぜ」
言うと、男は少し頭を屈めて暖簾を潜り、部屋に入った。
「わっ!」
ここでようやく、気配で目覚めたバルが飛び起きる。
「誰っーー!?」
バルはベッドの上で、怯えながら尋ねた。
心臓が激しく脈打つ。
「誰かっつーと何だが…"賞金稼ぎ(ハンター)"だ」
「ハンター…?」
バルは、男を観察する。
こんな状況なのにまず思ったのは、男前だということだった。
逆立てた黒の短髪に、灰色の服は都市に溶け込んでしまいそうな地味な格好だが、尚のこと男の顔立ちの良さを引き立てていた。
長身で、その体は筋肉質に引き締まっている。
バルとは正反対の、いかにも女の子にモテそうな男だ。
齢は20歳くらいに見える。
背には、背丈ほどもある長細い銃を背負っていた。
「じゃあ…昨日の…」
背の銃と、"ハンター"という言葉からバルは直感する。
「ああ。俺がやった」
男は事もなげに答える。
「あれはお前の彼女か?」
今度は男が問い返す。
バルは言葉に詰まった。
自分に"彼氏"を名乗る資格なぞ欠片もないと思ったからだ。
ランもまた、自分を恋人と思っていたわけではないと思う。
沈黙したまま、とりあえずベッドから降りて立ち上がった。
「僕も殺しにきたの…?」
バルは男の質問には答えず、一番気掛かりなことを問う。
「安心しろ。少し話をしに来ただけだ」

言質を取り、バルはひとまず緊張の糸を弛めた。
男に殺気を感じず、殺す気なら物も言わず殺していたのではないかと思ったバルは、思いきって真意を聞いてみたのだった。
「…何でここがわかったの?」
バルは質問を重ねる。
「人の目、折れた枝、足跡…痕跡を残しすぎだ。プロをナメんな」
男はにべもなく答える。
そんな微かな情報で、あっという間に自分に辿り着いたことにバルは内心驚愕した。
男が何か特殊な能力を使ったのではないかと思っていたのだ。
「さて、と…何から話したものかーー」
バルの質問は終わったものと見なし、男は少し思案する。
「あれはお前の彼女じゃねーのか?」
その"彼女"を殺した張本人でありながら、世間話でもする調子で、再度同じ確認をした。
しかしバルは、自分に彼氏を名乗る資格があるとはどうしても思えない。
それに、たぶん、2人はそんな関係ではなかった。
「…わからない」
答えに窮したバルは、是とも否ともつかない返事をする。
「死ぬ直前…お前だけ飛ばした。最後の力を振り絞って、お前だけは助けようとしたんだろう」
聞いて、バルは胸が痛んだ。
あの時、一瞬にして、いる場所が変わったのは、やはりランがバルだけは助けようと飛ばしたからだった。
「特別な関係だと思ったがな」
男はバルに言うというより、自分自身に確認するような、どこか独り言のように言う。
最後の瞬間まで、ランは自分のことを想ってくれていた。
"男"として見られていたとは思えないが、それ以上に愛されていたことはバルですらわかる。
自分は10分の1でも、ランを愛せていたと言えるだろうか。
バルは言葉を失った。
「まぁいい。お前、あの女が"悪魔の一族"だと知ってたか?」
バルが俯いて黙ってしまったのを見て、男は質問を変える。
「正直に答えろ」
「…うん」
言われて、バルは頷く。
この期に及んで、すぐバレるであろう嘘をつく気にもなれなかった。
「知らなかったわけねーよな」
男は軽く鼻で笑って言う。
その口振りから、ある程度調べはついていたのかもしれない。
「何で…?」
バルが呟く。
「どの"何で"だ?」
男が問い返す。
「ランは…ランが…銃なんかで…」
バルがその目で見たランの力は圧倒的なものだった。
ランといれば恐れるものなどこの世に無いと思っていた。
それなのに、ただの銃であっさりと殺されるとは今でも信じられない。
「たしかに"悪魔の一族"は400年前じゃ、最強の力を持ってたかもしれねぇ。でもな。技術は進化してんだよ」
言うと、男は背から銃を外し、バルに銃口を向けた。
バルは一瞬怯む。
「"施条(ライフリング)"って知ってるか?」
銃口をバルの目の前に近づけ、男が問う。
「…知らない」
知っているのは銃の存在くらいで、バルには初めて聞く言葉だった。
「弾に回転を与える絡繰だ。回転を加えることで弾道は安定を増し…今じゃ飛躍的に射程は延びた。
"悪魔の一族"の力が及ぶのは、せいぜい100メートルってとこだ」
男が解説する。
聞いて、バルは時代が変わったということかと理解した。
人類が脈々と積み上げた技術の進化により、魔力を持って生まれた者が絶対的な力を振るえる時代は終わっていたのだ。
バルが一応、納得したのを見て取った男は、銃を背に戻した。
「もっとも…あの女は今まで殺ったどの悪魔より、強い魔力の匂いを放っていたがな」
どこか軽い調子だった男が、一転して真剣な顔をして言う。
悪魔呼ばわりが少し引っ掛かったが、バルも黙って続きを聞いた。
「ありゃ一族の中でも数倍の力を持ってた…下手踏んだら、俺が殺られててもおかしくなかった」
ランは一族の中でも飛び抜けた力を持っていたことはわかったが、バルには男の言う"匂い"がわからない。
「匂い…?ランから匂いなんてしたこと…」
「その匂いじゃねーよ」
男が素っ気なく打ち消す。
「俺は魔力の匂いを嗅ぎ分けることができる。犬みたいに…2キロも先からな。これが俺の力だ」
男の言を聞くと、生まれ持った力は"悪魔の一族"を識別できるというだけで、ランを殺したのは純粋な腕によるもののようだった。
最強の力を備えていたはずのランは、只人の腕と技術によって屠られた。
男が自負した通り、プロフェッショナルなのだろうとバルは思う。
だが、バルにしてみれば、ただの人殺しが、己が技と仕事を誇っているようで不快だった。
「その話をしにきたの…?」
バルには、男がどこか誇らしげに自分のしたことを語っているように映る。
何を言いにきたのかもわからない。
バルは男に早く消えてほしかった。
「きちんと話をしとかないと納得できねーだろうからな。…まぁ思ったほどショックを受けてるようじゃないようだが」
男が少し不快げに吐いた言葉が、バルの心に刺さる。
今までバルの頭にあったのは自分の心配ばかりだった。
哀しみがないわけではない。
しかし、ランを喪ったことに対して早くも切り換え、冷めている自分に、自分でもぞっとする。
こんなにも薄情で最低な男を、最期の瞬間まで愛したランがあまりに可哀想だった。
急所をナイフで刺されたようで、バルはしばし言葉を失う。
「本来ならお前も殺しとくべきだが、俺は国のもんじゃねぇ。フリーの賞金稼ぎ(ハンター)だ」
男にそれ以上、バルを追及する思いはなく、すぐに今まで通りの軽い口調に戻して話を続けた。
「ガキ2人殺したら寝覚めが悪い。お前を殺す意味もないしな」
昨日、自分に何をしたでもない少女を殺したばかりだが、男に苦悩や罪悪感は感じられない。
仕事を重ねるうちにいつしか何かを失ったのだろうか。
狩人が獣を一匹仕留めてきたかのような、日常を語るように自身の殺しを語る。
それは経験を積んだ"プロ"の心だった。

「俺はお前を追わねぇ。忘れて好きに生きろ」
男が言い切る。
「お前の女殺しといて何だがな。俺が言いたいのはそれだけだ」
男の言った通り、そのことを伝えに追ってきたようだった。
恐怖に駆られて逃げ回る人生を送らなくても良い、と言いたかったのだろう。
情け容赦なく少女を殺した男にしては、思いもかけない気遣いとも受け取れた。
だがバルは、お前の女、という言葉にまたしても沈黙してしまう。
それはバルには受け止められない重さだった。
「何かあるか?」
押し黙ったままのバルに男が問う。
「何も…」
バルはそれだけ、小さな声で返す。
「じゃあ行くぜ。邪魔したな」
言うと、男は踵を返し、暖簾を潜って早々に立ち去った。
その淡白さに拍子抜けするほどだった。
しかし、緊張が抜けないバルは、放心したように男が出ていった部屋の入口を見つめ続けている。
しばし立ちつくしていたが、額に冷や汗が滲んでいることに気づき、手で汗を拭った。
目に紫の光が差し込む。
この時初めて、バルはランに貰った指環のことを思い出した。
極度の恐慌状態にいたバルは、今の今まで、指環の存在すら頭から吹き飛んでいた。
改めて見ると、指環はまだ紫の光を放ち続けている。
ランの魂がまだ生きているかのようだった。
自分は愚かだ、とバルは思う。
ランを助けることは叶わなかったかもしれないが、指環の力を使えば、先ほどまで目の前にしていた仇に復讐はできたのだ。
だがそこまで思い、それは妄想だと自分の考えを打ち消す。
男を殺せば、それこそ一生追われる身となっていただろう。
自分にそんな大それたことができる度胸なぞ、あろうはずがない。
自分だけが大切な、この救いがたい薄情な男に。
バルは己の卑小さを自嘲した。
ただ、紫に光り続ける指環を見つめる。
バルに残されたものは、指環だけだったーー

それから20年の月日が流れた。 31歳になったバルは、少し痩せたが小肥りなのは変わらず、小汚ない作業着に身を包んで、今でも時計塔の掃夫をしている。 この街の時計塔は、20年前にバルが働いていた時計塔より10メートルばかり小さい。 20年前に住んでいた街より田舎でもあるため、給料は安く、バルは新聞配達をした後にここの掃夫の仕事をして、何とか口を糊していた。 今でも手に付けている指環を眺める。 指環はまだ紫に光っているが、その光はだいぶ淡くなっていた。 この光が消えた時、ランが本当に死んでしまうようで、バルは寂しくなる。


男が去った後、バルもすぐにホテルを発った。
もといた家には一生暮らしていけるだけの財産が残されたままだったが、警察がすでに来ているかもしれないと思い、帰れなかった。
男は追わないと言ったが、警察はそうはいかないだろう。
男がバルの情報は伏せていてくれたと信じるしかなかったが、不安は拭い切れず、できるだけ遠くに逃げようとしばし旅をした。
だが、手持ちの金も尽きてきたため、バルはそれなりの規模の街で働くことを決める。
働けなければ飢え死にするのではないかと過った。
けれども、指環の力を使う気にはなれない。
指環の力を使えば、財を得ることもできたかもしれないが、この指環だけがランと過ごした日々の全てだった。
指環の光が消えた時、ランも本当にいなくなってしまう。
そう思い、限界まで指環は使う気がなかった。
田舎に帰ろうかとも思ったが、親に許されるかもわからない。
殴られてまで帰りたいとも思わなかった。
だが幸い、この街にも時計塔があった。
すでに掃夫はいたが、高齢のため、バルは日替りで働かせてもらえることになる。
それだけでは暮らしが成り立たないため、新聞配達も始めた。
性に合っていたのか、こうしてバルは20年、この街で暮らし続けている。
かつてはそんな自分をみっともなく思っていたが、はるか昔にランに褒められたことを時折思い出しては、今では少し自分の仕事に誇りを持てるようになっていた。

20年前、男が去った後、極度の恐慌状態が冷めていくうちに、今度は強い罪悪感に襲われた。
自分が家から連れ出さなければ、ランは死ななかったかもしれない。
イーシュン達の失踪、子供にしては不自然な贅沢な暮らしなどが知らぬ間に噂になり、追っ手の耳に入ったのかもしれない。
もっと賢い人が拾っていたら、あるいはラン一人なら、ランは今でも生きていたかもしれない。
ランを殺したのは自分だ、という思いに囚われた。
自分の愚かさを責め続け、胸に重石を入れられているかのようだった。
もう一生幸せになれないのではないかと思った。
だが、何年か罪悪感を拭えなかったが、20年の年月により、今ではそれもずいぶん薄まっている。


仕事を終えたバルは、休暇を取り、今日は列車に乗っていた。
前席の背に備えつけられた小さなテーブルには、すでに平らげた空の弁当箱が置かれている。
バルは一人、席に座り、何をするでもなく窓から流れる景色を眺めていた。
20年前にランと住んでいた街をもう一度見に行くためだった。
以前より考えていたことだが、なぜだか、これまで行けず仕舞いでいた。

ーー7年前、悪魔の一族絶滅計画は打ち切られた。 追う政府側の犠牲が大きかったことも一因だが、年月を経るにつれ、感情の制御を身に付けた一族の暴発が激減したことが要因だった。
一部には、単純に数が減ったからだとの反対意見もあったが、多方面に利用価値のある一族を絶滅させることを惜しむ意見が大勢を占めるにあたり、計画は中断された。
世論を誘導し、計画を中断に導いたのは、一族の利用を目論む世界連合の盟主シレスティアル国であると言われているーー

列車を降り、しばし街の賑わいを行く。
ランと過ごした思い出の場所を歩くと、自分と出逢わなければ、ランは今も生きていられたのではないかとの思いが過る。
思い出を振り返りながら、再び歩き続けると、初めてランと過ごした小さな家にたどり着いた。
20年も経った今、まだこの古びた家が、当時とほとんど変わらない姿で残っていることにバルは少し驚く。
ランと過ごした日々を思い出すと、目に涙が滲んできた。
しかし、自分に泣く資格はあるのだろうかと思い、涙を止める。
振り返って、バルの31年の人生で、唯一、幸せで大切な時間だった。
墓参りのつもりで、手を合わせて祈ったバルは、今は誰か住んでいるかもわからない家を後にする。
バルはまた、一人生きていく世界に帰る。
ランがくれた思い出と共にーー。



【あとがき】
読んでくださって本当にありがとうございますm(_ _)m
この小説は、もともと長編小説を書いていたのですが、途中で止まってしまったので、登場人物などの設定をそのままに短編に作り直したものです。
遠い先になりますが、いつか長編小説が出来た時にも読んで頂けたら嬉しいです。。
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