ミレーとパン
文字数 5,477文字
ミレーとおばあさんは、えきからタクシーにのって、やますそでおりました。
「あめもようですが、べっそうは、ここから、とおくですかいな?」
「このはやしのなかですよ。べっそうたって、ちいさな まるたごやですよ。なくなった、おじいさんが、えかきでね、アトリエがわりにしていたんですよ。からだのいうことが、きくうちは、このこと、くらすことにしたんですよ」
「ほう、イヌといっしょなら こころつよい」
「フフッそれはどうでしょう?ふつうのイヌですからねえ。さあミレーいこうかね」
やまみちをすこしのぼったところにある、ちいさなまるたごやの とをあけました。
おじいさんがかいた、こイヌのころのミレーのえがかざってあります。
「なつかしいねえ。おまえは、がかのミレーだよ、フフッ」ミレーにはなんのことかわかりませんが、とりあえずしっぽをふって、おばあさんのあとにつづきました。
ろうかのつきあたりの、せまいはしごかいだんをおりると、いろんなえのぐやおこめ しょうゆ カンジュースにドッグフードのこぶくろも、すこしのこっているようです。おばあさんは、おこめとドッグフードをかかえ、せまくきゅうな、はしごをのぼりきったあたりで、ふいに、あしをすべらせました!
「ドドドン!」
ころがりおちた、おばあさんは、かおをゆがめています。
「ああ、みっともないねえミレー」と、ふたたびかいだんにあしをかけ、ふみあがったとき、また、ころがりたおれてしまいました。
おばあさんのあしくびが、へんなかたちにゆがんでいます。
ミレーはしんぱいで、ゆがんだあしくびを、なめてあげました。
おばあさんは、たおれたまま てをのばし、がようしをひきちぎり、 えのぐをゆびさきにつけて(たすけて!)とかきなぐり、ミレーのくびわにまきつけました。
「さあ、ミレー、かいどうにでて、だれかにつたえておくれ。さあ、いくんだよ」
ミレーは おばあさんの、いじょうにきづいていました。 いちもくさんに そとにとびだしましたが、あめがふっています。すこしでもはやく だれかにあわなくてはいけません。
やまみちより、はやしのしゃめんをかけおりたほうがはやいと、はんだんし、いっきにそのはやしのやぶをかけおりました。
かいいどうをひたはしると パンのにおいがするおみせがありました。
ミレーはまよわずおみせのドアーをあたまでおして、なかにとびこみ「ワンワン!」とほえてみました。すると てんしゅがかおをだして、「どこのいぬだ。でていけ!」と、すごいけんまくでこぶしをふりあげ、おいはらわれてしまいました。
そとにでたミレーは、とおりがかった こどもたちにじゃれつくようにしてみました。
「なんだよ、このいぬ!きもちわるいなあ。どろがつくじゃないか!」と、ボコッとおなかをけられ、いしをなげられ、ミレーは、とぼとぼとおばあさんのもとにもどりました。
おばあさんはもどってきたミレーのくびわにかみがないことで、むねをなでおろしました。
「ああよかった。ありがとうねミレー。きっとだれかがたすけてくれるだろうよ」
しかし、よるになっても、つぎのひになっても、いっこうに、だれもきません。
くびわのかみきれは、しゃめんのやぶのえだにひっかかってしまっていたのです。
ふつかめ。おばあさんは、ブルブルふるえるゆびさきで、さいごのドッグフードをやぶきました。ミレーはコリコリとおとをたてました。そのようすをみていたおばあさんが、ふと、てをのばし、そのひとつぶをくちにいれたのです。
ミレーはびっくりしました!
「イヌのえさにてをだすなんて、ごしゅじんさまのたべものは、ここにはないンだ!」
ミレーはそっとかいだんをあがると、はやしのしゃめんをかけおり、パンやさんのてんとうにならべてあった、ふくろいりをそっとくわえ、いちもくさんにかけもどりました。
おばあさんは、うすめをあけて、「おや、あんパンじゃないかい」と、むちゅうでぼおばり、ちかくのかんジュースをひとくちのんで、「もう、これしかないからねえ、ミレーはそとの わきみずをのむんだよ」
のみみずがひつようなことにも、ミレーはきづきました
「こんどはみずだ!」ミレーは、そっとかいだんをあがり、また、しゃめんをかけおりました。
パンやさんのさきにざっかやさんのようなおみせがありました。
おみせのおくのほうに みずびんらしきものがならんでいます。てんしゅがおくにきえたすきに、すばやく、てんないにはいり、ビンをくちにくわえ、かけもどりました。
「ミレーこれは、おしょうゆだよ・・・・ミレー。もういいんだよ。ぬすんだおみせのものをたべてまで、いきたくないからねえ」と、めになみだをうかべました。
おばあさんにみをよせると、そのからだはあつく、パンパンにはれあがってむらさきいろになっているあしに、はなをよせてみると、へんなにおいがしました・・・
ミレーは、もう、はっきりわかりました!
おばあさんのからだに、いへんがおきていることを!
いまは、おばあさんのそばで、よこになっているばあいではありません。いっきにかいだんをかけあがり、さっきいった、ざっかやさんをのぞきこみました。
ひとかげはなく、こんどはみずのにおいを、しんちょうにかぎとりくわえ、いちもくさんにかけもどりました。
そのビンを、おばあさんのかおのそばにおとすと、「これは おみずだね・・・」と、ちからなく くちにふくむと、ミレーはだきよせられました。しかし、そのうでが、ブルブルふるえているではありませんか!
ミレーはそのてをふりほどき、みたび、かいだんをかけあがりました。
もはやミレーは、きずついたわがこイヌのために、エサをはこんでいるように、ほんのうてきにおばあさんのいのちををまもり、すくわなければならないと、ほんのうてきにさとっていたのです。
それから、ミレーは かいどうぞいのおみせから、たべもののにおいがしたら、かまわずくわえて、かけもどってきました。そして、おばあさんのひたいにういたあせをなめとっては、かいどうにかけおりて、おみせやのうかのにわさきまででかけては、ぬすみをはたらきました。
もう、おばあさんは、フウフウとくるしそうに、あついいきをはきはじめました。
ミレーはおばあさんのくちかずがすくなくなり、からだがあつくなるほどに、まちをうろつき、ぬすみをはたらきつづけました。
やがて、しゅうへんでは、やけんがでるという うわさがたち、ミレーは みつかるたび、ぼうでなぐられ、いしをぶつけられ、おいたてられました。
そんなめにあっても、ミレーには、にげているわけではありません、おばあさんのところに、もどっているという、いしきしかありませんでした。
そんなあるひも、てんしゅのすきをついてパンをくわえました。と、パンやのしゅじんは、よういしていたじてんしゃにとびのって、ミレーのあとをおいました。
このわかいてんしゅは、ミレーがぬすんだものをとちゅうでたべているところみかけたこともありませんでした。
「ハハン、どこかでコイヌをうんでいるにちがいない」そこをつきとめないと、やけんがふえるいっぽうだとおもいをいだいていたのでした。
やはり、パンをくわえてこばしりにかけるミレーはとまってたべるようすはありません。
「やっぱりそうだ。あのやけんはわがこにエサをはこんでいるンだ」と、きゅうに、パンをくわえたミレーが、ひょいとはやしのしゃめんをかけあがりました。
「たしか、このおくには、ちいさなべっそうがあったはず、ははん。あそこのゆかしただな」てんしゅのあたまのなかには、すみかをみつけたら、ほけんじょにれんらくすればいいという、かんがえがわいていました。
ところが、やまみちの、つきあたりにある、べっそうのげんかんがはんぶんひらいています。
「かいぬしがいるのか!なおさら、ゆるせないことだ!」
てんしゅは、げんかんにはいってみみをそばたて、こえをあげようとしたとき、
うすぐらいろうかのおくから、クンクンという、いぬのなきごえにまじって、いっしゅん、ほそくよわよわしい、こえがしてきたのです!
こいぬらしきなきごえはありません。くつをぬぎ、ろうかをすすむと、ちかそうこのいりぐちがあいていました。
そっと、のぞきこんで、てんしゅは、めをみひらきました!
おびただしいかずの、おかしやパンにかこまれて、おばあさんがたおれているではありませんか。てんしゅはあわててかけおり、おばあさんをだきかかえました。
「いったいどうなされたんですか?」
おばあさんは、まっさおなかおいろで、ひたいにはあぶらあせをうかべています。そして、のかたあしは、むらさきいろにはれあがっています!
おばあさんは、ふるえるゆびさきで、かいだんをゆびさし、よわいこえをあげました。
「はしごからおち……」と、てんしゅはさえぎった。
「もういい、なにもいわなくてもわかります!」
あしくびからさきがゆがんでまっさおでひざまでぱんぱんにはれあがっていました。
「すぐにきゅうきゅうしゃ、よんでくるから、まってなさい!」
しゅじんははじかれたようにたちあがり、 かいだんをかけあがるとちゅう、ふと、ふりかえると、れいの、イヌがおばあさんのおでこをひっしになめているすがたがめにとまりました。
てんしゅは、むねをふるわせ「ヨシッ」と、いそいでそとにでました。
やがてきゅうきゅうしゃがきて、おばあさんはぶじにびょういんにはこばれました。
ちかしつには、うわさをきいた、ひがいしゃのてんしゅたちがあつまっています。
ミレーは、おばあさんがさった、かいだんをずっとみあげていました。
パンをぬすまれた、てんしゅがくちをひらきました。
「このイヌは、おばあさんが、たいいんするまで、うちでめんどうみますよ。パンはいくらでもあるし、パンがすきそうだしね」
水ビンをぬすまれた、ざっかやのてんしゅが いいました。
「うちは、水ビンを、なんぼんやられたかわからん。せめてせわでもしなくちゃ、わりにあわん、それまで、うちでひきとる」
ほしイモをぬすまれた、のうかのおばさんが、えみをうかべました。
「うちだって、たんせいこめたほしイモをいっぱいたべられたよお。だから、このイヌにイモのばんでもしてもらえりゃア、たすかるがノ、にわもひろいしな」
「なんの、ほしイモよりやみずやパンよりも、うちのべんとうのほうがねがはるわい、ここはおれのしょくどうのマスコットけんにするから、わしにまかせろ」
ミレーはそのさわぎをよそに、そっとかいだんをかけあがると、おばあさんがのってでていったやまみちをじっとみつめたあと、げんかんさきで、まるくなった。
ちかしつにひとがおりてきたとき、ミレーのちからがすっとぬけていった。
そのなかには、いしをなげつけたひとや、ぼうでなぐったひともまじっていた、でもみんなでおばあさんをだきかかえ、きゅうきゅうしゃまではこんでくれたあと、ぼくのあたまをなんどもなでてくれた、そのひょうじょうとふんいきでおばあさんはたすかったとわかったし、のこされたぼくにきがいをあたえるような、ひとじゃないともかんじた。
あとはここでおばあさんがもどってくるのをまっていればいい。
きたくするてんしゅたちは、かわるがわるそっとぼくのあたまをなでてげんかんをあとにしていった。ミレーは、まるくなったまま、てんしょたちのささやきあうこえをきていた。
「こんどは、わたしらがはこんであげる、ばんだネエ」
「まったくだ、じゅんばんだからな、かけぬけはゆるさんぞ、ハハッ」にエサをはこんであげ *
ミレーはそばだてていた、みみをふせ、そっとめをとじた。
了
そのさわぎのとちゅう、ミレーはそっとかいだんをかけあがりました。
そして、げんかんさきで、まるくなりました・・・・
ひとがちかしつにおりてきたとき、ミレーは、ちからがぬけるほどだった。
ちかしつにきたひとのなかには、いしをなげつけたり、ぼうでひっぱたいたひとも、まじっていましたが、みんなでおばあさんをだきかかえ、きゅうきゅうしゃまではこんでくれていたし、ぼくのあたまをなでてこえをかけてくれるそのひょうじょうとふんいきで、おばあさんがぶじになれるということもわかった。いいひとたちばかりでほんとうによかった・・・・
ミレーはげんかんさきで、おばあさんをでむかえるまでと、まるくなりました。
きとにつく、てんしゅたちはかわりばんこに、そのミレーのあたまをなでていきました。
てんしゅたちのささやきごえもみみにはいっていました。きました。ます。あっていました。
「こんどは、わたしらが、はこんであげるばんだねえ」
「まったくだ。じゅんばんにな、ハハッ」
ミレーはみみをふせ、そっとめをとじました・・・・・・
ミレーは、ソファーにしみついた、あぶらえとごしゅじんさまたちのにおいにつつまれて、とおいむかしのこいぬにもどったように、そのかえりをゆめみていました。
おわり
「あめもようですが、べっそうは、ここから、とおくですかいな?」
「このはやしのなかですよ。べっそうたって、ちいさな まるたごやですよ。なくなった、おじいさんが、えかきでね、アトリエがわりにしていたんですよ。からだのいうことが、きくうちは、このこと、くらすことにしたんですよ」
「ほう、イヌといっしょなら こころつよい」
「フフッそれはどうでしょう?ふつうのイヌですからねえ。さあミレーいこうかね」
やまみちをすこしのぼったところにある、ちいさなまるたごやの とをあけました。
おじいさんがかいた、こイヌのころのミレーのえがかざってあります。
「なつかしいねえ。おまえは、がかのミレーだよ、フフッ」ミレーにはなんのことかわかりませんが、とりあえずしっぽをふって、おばあさんのあとにつづきました。
ろうかのつきあたりの、せまいはしごかいだんをおりると、いろんなえのぐやおこめ しょうゆ カンジュースにドッグフードのこぶくろも、すこしのこっているようです。おばあさんは、おこめとドッグフードをかかえ、せまくきゅうな、はしごをのぼりきったあたりで、ふいに、あしをすべらせました!
「ドドドン!」
ころがりおちた、おばあさんは、かおをゆがめています。
「ああ、みっともないねえミレー」と、ふたたびかいだんにあしをかけ、ふみあがったとき、また、ころがりたおれてしまいました。
おばあさんのあしくびが、へんなかたちにゆがんでいます。
ミレーはしんぱいで、ゆがんだあしくびを、なめてあげました。
おばあさんは、たおれたまま てをのばし、がようしをひきちぎり、 えのぐをゆびさきにつけて(たすけて!)とかきなぐり、ミレーのくびわにまきつけました。
「さあ、ミレー、かいどうにでて、だれかにつたえておくれ。さあ、いくんだよ」
ミレーは おばあさんの、いじょうにきづいていました。 いちもくさんに そとにとびだしましたが、あめがふっています。すこしでもはやく だれかにあわなくてはいけません。
やまみちより、はやしのしゃめんをかけおりたほうがはやいと、はんだんし、いっきにそのはやしのやぶをかけおりました。
かいいどうをひたはしると パンのにおいがするおみせがありました。
ミレーはまよわずおみせのドアーをあたまでおして、なかにとびこみ「ワンワン!」とほえてみました。すると てんしゅがかおをだして、「どこのいぬだ。でていけ!」と、すごいけんまくでこぶしをふりあげ、おいはらわれてしまいました。
そとにでたミレーは、とおりがかった こどもたちにじゃれつくようにしてみました。
「なんだよ、このいぬ!きもちわるいなあ。どろがつくじゃないか!」と、ボコッとおなかをけられ、いしをなげられ、ミレーは、とぼとぼとおばあさんのもとにもどりました。
おばあさんはもどってきたミレーのくびわにかみがないことで、むねをなでおろしました。
「ああよかった。ありがとうねミレー。きっとだれかがたすけてくれるだろうよ」
しかし、よるになっても、つぎのひになっても、いっこうに、だれもきません。
くびわのかみきれは、しゃめんのやぶのえだにひっかかってしまっていたのです。
ふつかめ。おばあさんは、ブルブルふるえるゆびさきで、さいごのドッグフードをやぶきました。ミレーはコリコリとおとをたてました。そのようすをみていたおばあさんが、ふと、てをのばし、そのひとつぶをくちにいれたのです。
ミレーはびっくりしました!
「イヌのえさにてをだすなんて、ごしゅじんさまのたべものは、ここにはないンだ!」
ミレーはそっとかいだんをあがると、はやしのしゃめんをかけおり、パンやさんのてんとうにならべてあった、ふくろいりをそっとくわえ、いちもくさんにかけもどりました。
おばあさんは、うすめをあけて、「おや、あんパンじゃないかい」と、むちゅうでぼおばり、ちかくのかんジュースをひとくちのんで、「もう、これしかないからねえ、ミレーはそとの わきみずをのむんだよ」
のみみずがひつようなことにも、ミレーはきづきました
「こんどはみずだ!」ミレーは、そっとかいだんをあがり、また、しゃめんをかけおりました。
パンやさんのさきにざっかやさんのようなおみせがありました。
おみせのおくのほうに みずびんらしきものがならんでいます。てんしゅがおくにきえたすきに、すばやく、てんないにはいり、ビンをくちにくわえ、かけもどりました。
「ミレーこれは、おしょうゆだよ・・・・ミレー。もういいんだよ。ぬすんだおみせのものをたべてまで、いきたくないからねえ」と、めになみだをうかべました。
おばあさんにみをよせると、そのからだはあつく、パンパンにはれあがってむらさきいろになっているあしに、はなをよせてみると、へんなにおいがしました・・・
ミレーは、もう、はっきりわかりました!
おばあさんのからだに、いへんがおきていることを!
いまは、おばあさんのそばで、よこになっているばあいではありません。いっきにかいだんをかけあがり、さっきいった、ざっかやさんをのぞきこみました。
ひとかげはなく、こんどはみずのにおいを、しんちょうにかぎとりくわえ、いちもくさんにかけもどりました。
そのビンを、おばあさんのかおのそばにおとすと、「これは おみずだね・・・」と、ちからなく くちにふくむと、ミレーはだきよせられました。しかし、そのうでが、ブルブルふるえているではありませんか!
ミレーはそのてをふりほどき、みたび、かいだんをかけあがりました。
もはやミレーは、きずついたわがこイヌのために、エサをはこんでいるように、ほんのうてきにおばあさんのいのちををまもり、すくわなければならないと、ほんのうてきにさとっていたのです。
それから、ミレーは かいどうぞいのおみせから、たべもののにおいがしたら、かまわずくわえて、かけもどってきました。そして、おばあさんのひたいにういたあせをなめとっては、かいどうにかけおりて、おみせやのうかのにわさきまででかけては、ぬすみをはたらきました。
もう、おばあさんは、フウフウとくるしそうに、あついいきをはきはじめました。
ミレーはおばあさんのくちかずがすくなくなり、からだがあつくなるほどに、まちをうろつき、ぬすみをはたらきつづけました。
やがて、しゅうへんでは、やけんがでるという うわさがたち、ミレーは みつかるたび、ぼうでなぐられ、いしをぶつけられ、おいたてられました。
そんなめにあっても、ミレーには、にげているわけではありません、おばあさんのところに、もどっているという、いしきしかありませんでした。
そんなあるひも、てんしゅのすきをついてパンをくわえました。と、パンやのしゅじんは、よういしていたじてんしゃにとびのって、ミレーのあとをおいました。
このわかいてんしゅは、ミレーがぬすんだものをとちゅうでたべているところみかけたこともありませんでした。
「ハハン、どこかでコイヌをうんでいるにちがいない」そこをつきとめないと、やけんがふえるいっぽうだとおもいをいだいていたのでした。
やはり、パンをくわえてこばしりにかけるミレーはとまってたべるようすはありません。
「やっぱりそうだ。あのやけんはわがこにエサをはこんでいるンだ」と、きゅうに、パンをくわえたミレーが、ひょいとはやしのしゃめんをかけあがりました。
「たしか、このおくには、ちいさなべっそうがあったはず、ははん。あそこのゆかしただな」てんしゅのあたまのなかには、すみかをみつけたら、ほけんじょにれんらくすればいいという、かんがえがわいていました。
ところが、やまみちの、つきあたりにある、べっそうのげんかんがはんぶんひらいています。
「かいぬしがいるのか!なおさら、ゆるせないことだ!」
てんしゅは、げんかんにはいってみみをそばたて、こえをあげようとしたとき、
うすぐらいろうかのおくから、クンクンという、いぬのなきごえにまじって、いっしゅん、ほそくよわよわしい、こえがしてきたのです!
こいぬらしきなきごえはありません。くつをぬぎ、ろうかをすすむと、ちかそうこのいりぐちがあいていました。
そっと、のぞきこんで、てんしゅは、めをみひらきました!
おびただしいかずの、おかしやパンにかこまれて、おばあさんがたおれているではありませんか。てんしゅはあわててかけおり、おばあさんをだきかかえました。
「いったいどうなされたんですか?」
おばあさんは、まっさおなかおいろで、ひたいにはあぶらあせをうかべています。そして、のかたあしは、むらさきいろにはれあがっています!
おばあさんは、ふるえるゆびさきで、かいだんをゆびさし、よわいこえをあげました。
「はしごからおち……」と、てんしゅはさえぎった。
「もういい、なにもいわなくてもわかります!」
あしくびからさきがゆがんでまっさおでひざまでぱんぱんにはれあがっていました。
「すぐにきゅうきゅうしゃ、よんでくるから、まってなさい!」
しゅじんははじかれたようにたちあがり、 かいだんをかけあがるとちゅう、ふと、ふりかえると、れいの、イヌがおばあさんのおでこをひっしになめているすがたがめにとまりました。
てんしゅは、むねをふるわせ「ヨシッ」と、いそいでそとにでました。
やがてきゅうきゅうしゃがきて、おばあさんはぶじにびょういんにはこばれました。
ちかしつには、うわさをきいた、ひがいしゃのてんしゅたちがあつまっています。
ミレーは、おばあさんがさった、かいだんをずっとみあげていました。
パンをぬすまれた、てんしゅがくちをひらきました。
「このイヌは、おばあさんが、たいいんするまで、うちでめんどうみますよ。パンはいくらでもあるし、パンがすきそうだしね」
水ビンをぬすまれた、ざっかやのてんしゅが いいました。
「うちは、水ビンを、なんぼんやられたかわからん。せめてせわでもしなくちゃ、わりにあわん、それまで、うちでひきとる」
ほしイモをぬすまれた、のうかのおばさんが、えみをうかべました。
「うちだって、たんせいこめたほしイモをいっぱいたべられたよお。だから、このイヌにイモのばんでもしてもらえりゃア、たすかるがノ、にわもひろいしな」
「なんの、ほしイモよりやみずやパンよりも、うちのべんとうのほうがねがはるわい、ここはおれのしょくどうのマスコットけんにするから、わしにまかせろ」
ミレーはそのさわぎをよそに、そっとかいだんをかけあがると、おばあさんがのってでていったやまみちをじっとみつめたあと、げんかんさきで、まるくなった。
ちかしつにひとがおりてきたとき、ミレーのちからがすっとぬけていった。
そのなかには、いしをなげつけたひとや、ぼうでなぐったひともまじっていた、でもみんなでおばあさんをだきかかえ、きゅうきゅうしゃまではこんでくれたあと、ぼくのあたまをなんどもなでてくれた、そのひょうじょうとふんいきでおばあさんはたすかったとわかったし、のこされたぼくにきがいをあたえるような、ひとじゃないともかんじた。
あとはここでおばあさんがもどってくるのをまっていればいい。
きたくするてんしゅたちは、かわるがわるそっとぼくのあたまをなでてげんかんをあとにしていった。ミレーは、まるくなったまま、てんしょたちのささやきあうこえをきていた。
「こんどは、わたしらがはこんであげる、ばんだネエ」
「まったくだ、じゅんばんだからな、かけぬけはゆるさんぞ、ハハッ」にエサをはこんであげ *
ミレーはそばだてていた、みみをふせ、そっとめをとじた。
了
そのさわぎのとちゅう、ミレーはそっとかいだんをかけあがりました。
そして、げんかんさきで、まるくなりました・・・・
ひとがちかしつにおりてきたとき、ミレーは、ちからがぬけるほどだった。
ちかしつにきたひとのなかには、いしをなげつけたり、ぼうでひっぱたいたひとも、まじっていましたが、みんなでおばあさんをだきかかえ、きゅうきゅうしゃまではこんでくれていたし、ぼくのあたまをなでてこえをかけてくれるそのひょうじょうとふんいきで、おばあさんがぶじになれるということもわかった。いいひとたちばかりでほんとうによかった・・・・
ミレーはげんかんさきで、おばあさんをでむかえるまでと、まるくなりました。
きとにつく、てんしゅたちはかわりばんこに、そのミレーのあたまをなでていきました。
てんしゅたちのささやきごえもみみにはいっていました。きました。ます。あっていました。
「こんどは、わたしらが、はこんであげるばんだねえ」
「まったくだ。じゅんばんにな、ハハッ」
ミレーはみみをふせ、そっとめをとじました・・・・・・
ミレーは、ソファーにしみついた、あぶらえとごしゅじんさまたちのにおいにつつまれて、とおいむかしのこいぬにもどったように、そのかえりをゆめみていました。
おわり