第1話

文字数 1,003文字

長い人生の中のたったの3か月。
たったの3か月しか付き合っていない男がストーカーになった。
仕事ができて、人間関係もそつなくこなし、周りからの評判もよかった。
ただ、付き合ってみるとこれがとんでもない男だった。
束縛が激しく、単なる業務連絡で他の男とやり取りをするのにも嫉妬し、女友達と雑談で盛り上がっているだけで「俺と話すよりも楽しいのか」とさめざめと泣く。
こちらが期待通りの反応をしないと、とにかく拗ねて泣く。
それが面倒になり、はいはいと言うことを聞くようになってしまったのだが、これが運の尽きだった。
味を占めた男は私を洗脳しにかかった。
「これが人生最後の恋だから」「俺にはお前だけ」「お前のコンプレックスも含めて受け入れられるのはこの世に俺だけ」「俺たちはふたりでひとつ」
気持ちが悪いとは思ったが、そう思ってしまっては可哀想なのではないかとも思っていた。
そのうち、体のラインが出ないように着る服まで決められるようになり、男からの誘いは絶対に断れないようになっていって、私はどんどん追い詰められた。
周りに相談しても、「あの人がそんなことをするわけがない」「愛されているのね」と言われるだけ。
携帯電話にも家のポストにも、男からのポエムが毎日のように届く。
もう限界だと別れ話をしたが、「誰かにそう言わされているんだろう」と一向に話がかみ合わなかった。
気持ち悪いし、嫌いなんだとはっきり言っても理解ができないようだった。
思いは通じ合っているのに、何者かに邪魔されて泣く泣く別れることに……男の中ではそういう解釈になり、別れた後も私の自宅をうろつき、私の自宅のすぐ近くにある会社に転職までしていた。
相変わらず携帯電話にもポストにも痛々しいポエムが届いていた。
警察に相談しても、「でも別に何もされてないんでしょう?」と心底うんざりした表情をされるだけだった。
誰もわかってくれない。
誰も助けてくれない。
もう限界だと私は、首を吊った。
意識がなくなった後、不思議な空間の中で見知らぬ老人に説教をされていた。
「自ら命を絶つとは何事か!やり直してこい!」
そこでふっと目が覚めた。
いつも通りの朝、会社に行かなくては。
何の根拠もなかったが、さっきの夢は自分の前世だったのだという確信があった。
きっと今、私は人生をやり直しているのだ。
今生こそは自殺だけはしない。
そう気持ちを新たに玄関を開けると、見知らぬ男が立っていた。
「また会えたね」
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