第1話

文字数 1,965文字

「絶望した!理不尽なこの世界に絶望した!」
「おおっと、何なんですかいきなり?昔のマンガのセリフみたいなこと言って」
一瞬驚いた会社員の男
「同じ出版社だから大丈夫でしょう、私は絶望しているのです、この世にこの世界に」
「ああ、はいはいわかってますよ、だからここに来ているのでしょう?」

ここは世界がイヤになった人々を異世界転生させてくれる斡旋所(あっせんじょ)のような所らしい、家のポストに入っていたチラシを見たからだ。怪しさMaxだが今のオレには、すがるワラがあるなら何でもつかむ状態だったのでやって来た。雑居ビルの中にあり、対応に出た男は普通の会社員だった、そしてオフィス奥の面談室に入った所でオレは叫んだのだ。

「なぜ絶望したのですか?」
「会社をクビになり、彼女にふられ、競馬でスッた借金があるからです」
「クビになったのは?」
「借金返済のため会社の金を横領(おうりょう)したから」
「自業自得の悪人じゃないですか!まあここではそんな事はどうでもよいです、続けましょう
さて、あなたはこの世界がイヤになり転生してやり直したいのですね?」
平静な言葉に戻った会社員、こんなことには慣れているようだ。
「はい、そうですけど1つ2つ質問をさせてください、でなければ契約はできません」
「いいですよ」
「ではまず 〔異世界〕とは何ですか?」
ガタッとコける会社員
「そこからですか?」
「そこからです」
「異世界とは勇者と魔法使いと賢者などがチームを組んで宝を探したり、魔物やドラゴンや魔王を倒す冒険世界のことです」
「それは北欧神話の世界でしょう、指◎物語でしょう?一般人が「エルフ」と聞いても何だかわかりません、デフォで通じる業界の方が世間とズレているのです」
「いえいえ単なる流行(はやり)ですよ「キメツ」みたいなものです、十年後に「キメツ」を知ってる子どもたちは少ないと思いますが、〔異世界〕は十年くらい続いているから知ってる総数が多いだけです、「ラノベ」なんて分類ができてしまい「ティーンズ小説」という呼び方は今どきしません。ですがさすがにもう業界も読者もあきあきしてますので、長くはもたないでしょう」
「詳しいですね」
「ええ仕事柄、今はそれが人気ですが他にもありますよ、冒険が苦手なら村人とかスライムにもなれます、異世界がイヤなら昆虫なんてどうでしょう?セミの幼虫なら7年間土の中で寝ているだけですよhahaha(笑い)」
「・・・」
「なっとくいただいたら、ここに住所と氏名と携帯番号を記入してください」
オレは絶望していたので、とりあえず書いてみた、イヤなら踏み倒すだけだ。
「それで、どうやって転生するのですか?」
「えーっと、よくありますのはトラック転生、ビル転生、列車転生・・」
書類を見ながら話す会社員
「上から『交通事故』『飛び降り』『○○線(知ってる路線を入れる)人身事故のため1時間以上遅れております』だね、ふざけるな!」
「あなたには社会に迷惑をかけない『火口転生』か『海ドラム缶転生』がおすすめです」
「やっぱりダメだ、失礼する」
オレは席を立ち、ダダッと逃げ出した。部屋のドアを開けるとそこには・・・
オフィスではなく同じ部屋があり、向かい側のドアを開けているオレの後ろ姿があり、その向こうに同じ部屋があり・・・

「空間を捻じ曲げました、サインをした以上逃げることは出来ません」
「そ、そんな」オレはヒザをついてくずおれた
「あなたは絶望していたのでしょう、この世界に?逃げたところで何も変わりませんよ、のたれ死ぬ未来が待っているだけです」
「あ、あんたはいったい誰なんだ?」
会社員はドロンと一回転すると、黒いローブを着た骸骨(がいこつ)姿になった、大きな鎌を持っている、
ひと目でわかった
「し、死神⁉」
「転生する前にはまず死なねばなりません、だから担当するのは我々です、当然でしょう」
「なっとく・・」オレはうなだれた
「さあ、では早く転生先を決めてください」

けっきょく迷いに迷ったオレの転生先は・・・『死神』だった。
虫もイヤだし異世界もイヤだし元の世界もイヤだ、どっちつかずの末路はこのまま会社員(ヤツ)の部下になるしか道がなかった。
でも人間が死神になれるのかって?なれるらしい、ヤツに言わせれば「死神は死を(つかさど)る高位に属する神だ、おまえのようなクズ人間でも、千年働けば高次元の神のような存在になれるだろう。入社(てんせい)すればもう死ぬこともない、喜べ!この先まず千年間、馬車馬のようにコキ使ってやる」とブラック企業のブラック上司も真っ青なブラックさだ、ある意味、労働地獄に落とされたようなものだ、過労死できない千年続く平日・・・

オレには黒いローブと骸骨マスクとプラスチックの鎌が渡された。
上司(ヤツ)からは次の流行(はやり)を探せと言われている、何かないだろうか?
ひょっとしたら明日、キミのところへ行くかもしれない、
そのときはよろしくな、クククク・・・。
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