水遣り
文字数 1,191文字
「今日ダメになった」
短い通知音と共にもたらされたメッセージにちらりと目をやりSNSのアプリを閉じる。
謝罪の言葉が添えられることのない約束のキャンセル。
私はため息をついて椅子からのろのろと立ち上がる。もうすっかり支度も済んでいたのに。
窓際まで歩み寄り、棚の上に置きっぱなしになっていた煙草に火をつけた。
もともとは交際相手の忘れ物に過ぎなかった煙草のはずだった。
いつの間にか約束を反故にされるたびにそれに手が伸び、今では私も立派な喫煙者だ。
煙草を口にくわえたままほんの少しだけ窓を開ける。隙間から入ってくる風はもう、うっすらと寒く冬の空気だ。
いつまでこんな関係をつづけるのだろう。
不毛な付き合いに疲れた様子の私を見てとると誰もが別れを勧める。
それほどのダメな男が交際相手だ。
自分の懐が寂しいときのお小遣いせびりや、身体を持て余している時だけの私のもとを訪れる関係ともいえる勝手な男なのだからさっさと別れてしまえばいい。
あの男はこの煙草とよく似ているなと苦い笑いが漏れる。
そんなつもりなく吸い始め、やめなければ、と思いつつやめられない煙草と、別れた方がいいのに関係を絶てないダメな男。
この相関関係はなかなかに興味深くもあり因縁深くもあるな、と灰皿に灰を落としながら考える。
逆の発想はどうだろう。、煙草をやめることでこのずるずると続く関係にも見切りがつけられはしないだろうか?
試してみる価値はあるかもしれない。
そう思いながら窓際に置かれた観葉植物に目を止める。
いつだったか、あの男が気まぐれにどこからか持ってきた観葉植物。
植物を育てるなんて、柄ではなかったけれど水遣りを待つだけのその存在がなんとなく自分と重なって憐れむ気持ちがあるからだろうか。処分することもできずに今に至る。
私の手から、水をもらい青い葉をつけ、枝を伸ばし、生きているこの観葉植物はこの手がなければきっとその命を保つことはできないだろう。
けれど私は、観葉植物ではない。この子のように水を待つ必要などないではないか。
私はほんの少しだけ明るい気持ちになると台所へ行きコップ一杯の水をもって窓際に戻る。
その名前も知らない植物の根元にそっと水をかけてやる。
私は、この子とは違う。
自分の水遣りは自分できるじゃないか。
コップ一杯の水をやり終えると、私はまだ中身の残る煙草の箱と灰皿をゴミ箱へポトリと落とす。
うん、ゴミ箱に捨てたのだからこれはもうごみだな。
上からそれを眺めて確認すると、私は携帯を手に取って、ほんの数行別れの言葉を打ち込むと
そのまま送信し、画面を閉じた。
もしかしたら、あの男からどういうつもりだとか、承知しないとかそんな連絡がはいるかもしれない。だとしてもかまうものか。
自分の水遣りは自分でしなきゃね。
私は名前を知らない観葉植物の葉をそっと撫でてつぶやいた。
短い通知音と共にもたらされたメッセージにちらりと目をやりSNSのアプリを閉じる。
謝罪の言葉が添えられることのない約束のキャンセル。
私はため息をついて椅子からのろのろと立ち上がる。もうすっかり支度も済んでいたのに。
窓際まで歩み寄り、棚の上に置きっぱなしになっていた煙草に火をつけた。
もともとは交際相手の忘れ物に過ぎなかった煙草のはずだった。
いつの間にか約束を反故にされるたびにそれに手が伸び、今では私も立派な喫煙者だ。
煙草を口にくわえたままほんの少しだけ窓を開ける。隙間から入ってくる風はもう、うっすらと寒く冬の空気だ。
いつまでこんな関係をつづけるのだろう。
不毛な付き合いに疲れた様子の私を見てとると誰もが別れを勧める。
それほどのダメな男が交際相手だ。
自分の懐が寂しいときのお小遣いせびりや、身体を持て余している時だけの私のもとを訪れる関係ともいえる勝手な男なのだからさっさと別れてしまえばいい。
あの男はこの煙草とよく似ているなと苦い笑いが漏れる。
そんなつもりなく吸い始め、やめなければ、と思いつつやめられない煙草と、別れた方がいいのに関係を絶てないダメな男。
この相関関係はなかなかに興味深くもあり因縁深くもあるな、と灰皿に灰を落としながら考える。
逆の発想はどうだろう。、煙草をやめることでこのずるずると続く関係にも見切りがつけられはしないだろうか?
試してみる価値はあるかもしれない。
そう思いながら窓際に置かれた観葉植物に目を止める。
いつだったか、あの男が気まぐれにどこからか持ってきた観葉植物。
植物を育てるなんて、柄ではなかったけれど水遣りを待つだけのその存在がなんとなく自分と重なって憐れむ気持ちがあるからだろうか。処分することもできずに今に至る。
私の手から、水をもらい青い葉をつけ、枝を伸ばし、生きているこの観葉植物はこの手がなければきっとその命を保つことはできないだろう。
けれど私は、観葉植物ではない。この子のように水を待つ必要などないではないか。
私はほんの少しだけ明るい気持ちになると台所へ行きコップ一杯の水をもって窓際に戻る。
その名前も知らない植物の根元にそっと水をかけてやる。
私は、この子とは違う。
自分の水遣りは自分できるじゃないか。
コップ一杯の水をやり終えると、私はまだ中身の残る煙草の箱と灰皿をゴミ箱へポトリと落とす。
うん、ゴミ箱に捨てたのだからこれはもうごみだな。
上からそれを眺めて確認すると、私は携帯を手に取って、ほんの数行別れの言葉を打ち込むと
そのまま送信し、画面を閉じた。
もしかしたら、あの男からどういうつもりだとか、承知しないとかそんな連絡がはいるかもしれない。だとしてもかまうものか。
自分の水遣りは自分でしなきゃね。
私は名前を知らない観葉植物の葉をそっと撫でてつぶやいた。