出口雨

文字数 444文字

六月の新緑は自殺するにはいい日だ
あじさいは決してなにもしゃべらないから
枯れてもなお人の記憶に残るにはただ黙って
 そこにいればいい
誰かが言った
曇り空の向こう側は晴れているって
きっとそうなんだろうと
うなずきながらも世界は常に騙されている
膨張する宇宙に
振り向きもせずに
悲しみの根源が海の底にあるとも知らずに
悪いか
ただ足掻きながら生きていくことの愚かさに
例え誰の記憶にも残らないとしても
わたしの人生はわたしのものだ
雲の切れ間から
ウソのような光が流れてくる
あじさいが枯れていく
味のしなくなったチューインガムを噛み続け
 ているように
険しい顔で緑を踏みつけながら
自分を殺すはずだったデカい木々の森が
ただそこにあったというだけの存在で
それは途方もない暗くて悲しい海だった
溺れていく三日前に捨てた影と
履き古したジョギング用シューズの
その穴に
あふれてくる冷たいものがなんだったか
この世界に別れを告げる数分前に
わたしはやっと分かった気がする
それは出口の向こう側だ
叫べ
雨の音が後ろから
わたしの鼓動を追いかけてくる
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