カナエノヒカリ

文字数 1,634文字

 人里離れた深い森の奥、手つかずの自然に囲まれた静かな湖。そのほとりに今にも潰れそうなみすぼらしい(やしろ)が一つありました。そこには、いつからか一人の少女が、ひっそりと住みついておりました。

 少女には、ある不思議な能力がありました。それは、「夢が叶うかどうかが判る」というものでした。夢が叶う人の周囲に光が見えるのです。直ぐに叶う夢の場合、キラキラとした金色の光が見えました。遠い未来のいつかに叶う夢の場合、ぼおっとした赤色の光が見えました。間ぐらいの光り方の場合もありました。一方、叶わぬ夢の場合にはまったく光りません。
 とても、不思議な力ではありましたが、叶わぬ夢を叶えてあげることは出来ません。叶う夢なら光り、叶わない夢なら光らない。そういう力でした。

 その力をどこで伝え聞いたのか、彼女を頼ってときどき人が訪れました。たくさんのお金や食べ物をもって。彼女が飢えることなくこんなところで暮らしていけるのは、そのお陰でもありました。
「わたしには、あなたの夢を叶える力があるわけではありませんよ」
 そう少女は話すのですが、彼女の力を頼って訪れる者たちはまるで意に介しません。

 彼女を訪ねて夢が叶うかどうかと尋ねる者たちには、およそ二つのタイプがありました。

 一つ目のタイプは、努力を重ね、あと一歩というところまで夢を手繰り寄せ、もう近いうちに叶うであろうと思われる夢について尋ねる者でした。こうした者たちは、当然キラキラとした金色の光をまとっていました。彼女はこの光を見るのがとても好きでした。そしてそんな光を放つ者へは、
「ここまでよく頑張りました。あともう少しです。ただ、ここで油断しては元も子もありません。なお一層励みなさい」
 そう言ってやるのです。もう少しで叶うとだけ伝えると、急に光が弱まる者が多かったので。

 もう一つのタイプは、何一つ努力もせずに、叶うはずもない夢が叶うかどうかと尋ねる者でした。こうした者たちは、金色に光っている者など稀で、まるで光っていないか、淡い赤色の光が見えるかでした。

 まるで光りもしないうちからやってくる者は、いったい何を考えているのだろうかと彼女は不思議でなりませんでした。
「わたしには、あなたの夢を叶える力があるわけではありません。わたしに何を期待されるのでしょう?」
「叶わぬ夢と分かっていれば、早々に諦めて別の道を探すことができましょう。限られた時間やお金を無駄にすることなく、生きることができるのです。これはとても有難いことです」
 このように話す者の周りに、光の見えようはずはありませんでした。
 彼女は深くため息をつきながら、
「別の夢を追いかけなさい。ただし、次に追いかける夢は、叶う夢かどうかと疑ってはならぬ。疑えば叶わなくなるぞ」
 そう言ってやりました。これで彼の者は、今度はもう少し真剣に夢を実現しようと奮闘することでしょう。そして二度と少女の前には現れないことでしょう。

 淡い赤色の光が見える者へは、「諦めなければ叶う可能性を秘めている。が、別の夢を追いかけるのも良いだろう」と伝えて様子をみました。この一言を聞いた者は淡い赤色の光が消えてなくなるか、急に金色に近づくかしました。

 また、少女の力は万能ではないのか、金色の光が見えたのに、大成せずに亡くなる者がおりました。逆に、まるで光っていないのに、運よく夢を叶える者もおりました。夢が叶うかどうかが見えているものとばかり思っていましたが、実はそうではないのかもしれません。

 ※   ※   ※   ※   ※   ※

 もう、おわかりでしょうか? 彼女に見えていたのは、夢が叶う未来ではなく、夢を叶えようとする意志の強さでした。意思が強ければ金色に光り、意思が弱ければ淡く赤色に光っていたのです。
 今でも、新月の夜にその湖の淵で彼女に会うことができると言います。ただし、一心不乱に会ってみたいと念じなければなりません。その()は、あなたの意志の光を目印に現れますので。
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