第1話

文字数 1,048文字

「お願い、私と歌って!」
【起】
佐倉歌莉(さくらあかり)は引っ込み思案な中学一年生。
林間学校でフィールドワーク真っ最中、不思議な声に呼ばれて歌莉は中世的な不思議な世界へと迷い込んだ。
「よかった。来てくれたんだ」
そう話しかけたのは歌莉と同年代の活発そうな少女、エスメラ。
なんでもエスメラは両親を捜していて、城下町で開催される音楽祭『リミューズ』で優勝すればなんでも一つ願いが叶うという。
「戻らないと」と断ろうとするも、キャンプファイヤでの出し物が憂鬱だということを言い当てられる。
ひとまずそれ以外の選択肢がなかった歌莉は混乱しつつもエスメラについていくことにした。

(それに、なんでも一つ願いが叶うっていうのなら……ううん、今は考えないようにしよう)

【承】
隣町への旅は歌莉にとって苦労の連続。長距離移動に、野宿。
林間学校の方がよっぽど文明的だったと後悔しつつも、初めて食べる料理や満天の星、なにより子供だけの旅に小さなワクワクが湧き上がる歌莉。

ようやく数日を経て補給に立ち寄った街。エスメラの提案で歌莉の練習がてらライブをすることに。
「ちゃんと歌えるかな……」
「『ちゃんと』なんて基準、捨てちゃおうよ! 楽しんだもの勝ちじゃん?」
ステージとなる広場への階段を駆け上がる歌莉。エスメラと一緒なら、怖いものなんて無いも当然だった。

【転】
それからまた数日後。二人はとうとう城下町へとたどり着いた二人。
リミューズの開催が近づくにつれて歌莉はエスメラとの別れを意識するようになる。
(もしも一つだけ願いが叶って、エスメラが両親と一緒になったら……もし、私が「元の世界に帰りたい」と願ったのなら……)
だんだん練習にも身が入らなくなり、エスメラとの友情にも亀裂が走る。

そんな中、エスメラの両親が見つかったという連絡が、歌莉のもとに舞い込んだ。


【結】
そんな中始まったリミューズ本番。歌莉はまだ迷いを断ち切れないでいた。
エスメラの願いは叶い、優勝すれば歌莉の「元の世界に戻る」という願いも叶う。
そうしないといけないと分かっているのに、歌莉の心は揺らぎ続ける。

「歌莉、ひとまず楽しも?」
友情が、二人で見上げた星空がそっと歌莉の背中を押す。
「エスメラ……わかった、きっとこれが最後だよね。全力で楽しむんだから……お願い、私と歌って!」

見事二人はリミューズに優勝し、歌莉は帰還を願う。
流した大粒の涙が光となり、歌莉をもとの世界へと送り届けた。


キャンプファイヤ本番、歌莉は星空の下で精一杯の歌を披露する。まるで、横にいる誰かとハミングするように。
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