愛犬ジンジャーが見つけた手紙
文字数 4,262文字
日曜の朝、ジンジャーを連れて、日課の散歩をしていた。
嬉しそうにジンジャーは私の前を走っていて、私は軽く走ってついていく。
そう言うと、ジンジャーはスピードを緩め、嬉しそうにこっちを見ながら私の横を走る。
世間的にジンジャーはペットなのだろう。
拾われたから血統書とかはないけど、高そうに見えなくもない小型犬。
でも、私にとっては大切な家族。
ジンジャーがいない生活なんて、考えられない。
日曜だし天気もいいし、なんとなく言ってみた。
ジンジャーは小さく返事をすると前を向き、勢いよく海に向かって走る。
慌てて言うと、
と、言って、少しだけゆっくりになる。
以前からそう思っていた。
『早く行こう』という感じでジンジャーが吠える。
嬉しそうに返事をした。
そして、いつもの散歩道を外れ、少し遠出をして海まで来た。
海の東側から太陽が昇っていた。
目の前の砂浜には他にも犬の散歩をしている人もいる。サーフィンをしている人やジョギングをしている人もいて、まったく人がいないわけでもなかったけど、朝はほどよく空いていた。
ジンジャーは私の足元で、思いきりシッポを振っていた。
絶妙のタイミングで返事をする。
海を見ているジンジャーにつられて海を見ていた。
清々しい朝の空気。
寒さも気にならないくらい。
そんな気持ちで海を見ていると、
と、ジンジャーが吠え、何かを目指すかのように走り出した。
それをボーっと見てしまった。
リードが手からすり抜ける。
慌てて追いかけた。
ジンジャーがわき目もふらずに走って行く。
小さな足をコマコマと動かし、砂を蹴散らし、あっという間に走って行くジンジャー。
ジャージを着た幼なじみの理都が海岸を走っていた。
ジンジャーは理都に向かって猛ダッシュで飛びついた。
理都は砂浜に押し倒される。
急いで追いつき、ジンジャーのリードを握る。
ひとまずほっとした。
ジンジャーはこれでもかと理都の顔をなめていた。
なんとなく、それを見ていた。
ジンジャーはそれなりに人懐こい。
私がいい人っぽいと思う人には特に懐く。
ただ、理都 は例外。
理都はジンジャーを拾った。だから、ジンジャーは理都に懐いている。
理都が私の名前を呼んだのは、久しぶりな気がした。
理都はジンジャーに顔をなめられまくっていた。
声だけかけた。
ジンジャーは理都の顔をなめ続けていた。
しかたがなく、ジンジャーを抱き上げる。
シッポを思い切り振って理都を見つめ、ジンジャーは嬉しそうだった。
ジンジャーを抱き直して理都に聞く。
起き上がり、砂を払いながら理都は答えた。
同い年で中学1年の理都はレギュラーではなかったと思う。
そう言って、私が抱いていたジンジャーを見る。
『遊んで』という顔で理都を見ていたジンジャーは、返事をするように吠えた。
理都は私からジンジャーを取り上げ、だっこする。
ジンジャーはまた理都の顔をなめようとした。
そう言って、ジンジャーの顔の前に手を出した。
ジンジャーはシッポを振りながら、理都の手をべろべろなめる。
拾ってもらった恩を忘れていないような感じ。
最近は会ってもいないのに、ジンジャーは嬉しそうにじゃれつく。
小学5年の時、理都はジンジャーを拾い、泣きながら飼えないと言ってきた。
嬉しそうにジンジャーはシッポを振っていた。
おもしろくない。
面倒くさい手続きも予防接種もだいたい私がした。
ジンジャーが顔を上げてこっちを見る。
理都がジンジャーを砂浜に下ろした。
でも、ジンジャーは私のところではなく、流れついたゴミの塊のところに行った。
できれば、ばっちい物に触らないでほしい。
間接的に私も触ることになってしまう。
ジンジャーは嬉しそうに穴を掘った。
ジンジャーが巻き上げる砂が理都にかかっていた。
理都はそれをよけて、私の隣に来た。
ジンジャーが汚れるのが心配になって、理都から離れてジンジャーの方へ行く。
すぐに掘るのをやめ、ジンジャーは私の顔をじっと見た。
息を切らせ、私に「褒めて褒めて」と言っているかのようだ。
ジンジャーが掘っていた場所。
それほど深くはない。上に乗っていた干からびた海藻のような物を退けた程度のところに、キラリと輝く物がある。
私と一緒に見ていた理都は、目をキラキラさせて『光る物』を手にする。
穴を掘って、ワンと鳴いたから?
理都が拾ったのは、透明なガラスの瓶だった。
中には二つに折られた手紙のような紙が入っていて、理都はそのビンを開けようとする。
目がキラキラしてる。
何言っても聞かないヤツかも?
さすがにそれで、手を止める。
そういうマンガを読んだ。
理都はイキイキと言う。
悔しそうに理都は言った。
いっそのこと清々しい。
理都はビンの中から手紙を出し、それを読みだした。
ジンジャーは自分のお手柄のようにシッポを振り、理都を見ていた。
理都は険しい顔をして、手紙をじっと読んでいる。
急に顔を上げ、私の方を見る。
理都が手紙を押し付けてくるから、しかたがなく読んだ。
読み終わると、理都が聞いてきた。
海水が入ったのか、所々がにじんで読めなくなっていた。
理都は偉そうに言う。
ぱっと見、ミミズが這っているような感じだった。
まあ、いいか。
理都だし……
理都は不満そうだった。
女性的な丸みがなかった。
ミミズが這ってるのも美的というよりも、そう書くのが限界という感じがした。
でも、なんとなくだけど、読めるところを読んだ感じ、そんな気がした。
ジンジャーがシッポを振って、私のところに寄ってきた。
「ボクもそう思う」って、言ってるみたいに。
ジンジャーをだっこする。
何かを閃いたような、キラキラした目で言っていた。
理都は……、私の旦那さんは、昔、そう言っていた。