かけがえのない光

文字数 841文字

 星をみていると、感傷的なる。
 何億光年も離れたその光は、もうなくなってしまった、死んだ星の残骸かもしれない。
 なんだかユーモラスだと思う。
 目に見える世界だけが、真実だとしたら私のおかれた環境は耐えがたいものだった。

 生まれてから小学校六年のあいだ、存在を無視されていた。熱心にクラスメートの輪の中に入れようとした教師もいたが、無駄な試みだった。むしろ『仲間外れはやめましょう』と学級会で取り上げられるたび、悲しくなった。いや、きっと惨めだったのだ。どうして存在を無視されていたか、そんな難しいことわかりやしない。わかりたくもなかった。

 運動も、勉強も人並みの能力はなかった。人付き合いにいたっては、最低だったかもしれないな。どんなところが最低かって?
 人のよいところを探しもしないくせに、人の欠点を見付けては得意になっていた。人が顔色を変えてくれるのが、面白かった。私を意識しているって。心がいびつだった。
 
 孤独を知らなければ、悩みも少ないかもしれない。でも、一度優しさや愛情を知ってしまうと、それがなくては生きがたくなってしまう。
 私に変わるきっかけをくれた友人がいる。粘り強く向きあってくれた。その友から学んだのは優れた能力なんてなくても、生きているだけで充分だと。生きていれば必ず誰かに影響を与えているんだと。笑っていても、心で泣いてる人もいる。決してわかったつもりになるな。
 数えきれないことを教えてくれた。
 命ある限りどんな幸せが待っているのか、わからない。奴の口癖だ。そう言っていた親友は、二十歳で逝ってしまった。喪失感というものを初めてしった。

 また空を見上げる。今夜は不思議な心地だ。奴が空のどこかにいる気がして。感傷的になるのは重ねた歳のせいか。
 死んだ星の光がに乗せて、私が、ただ幸せに暮らしていると、奴に伝わってほしい。
「あなた、身体が冷えてしまうわ。リビングでお茶にしましょう」
 愛する妻の声がする。冷たい空気を深く吸って、灯りがともるわが家に戻った。
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