追随者、デコイの男

文字数 899文字


「お前はお前だ、シルヴァ・ティモシェンコ!」

 初めてキースン大将閣下にあった時、バチンとビンタをくらった。そのことは、今でも覚えてる。
 俺は普通の人間じゃなくて、地球連合軍で造られた誰かの複製体だ。紆余曲折あって革命軍にやってきた俺に与えられたのは「エリオット・キースンという男のデコイ」。つまるところ身代わりだ。それ自体に俺は不満なんてなかった。元が備品っていうのもあるだろうけど、とにかく俺自身はその役目をイヤだなんて思わなかった。
 だけど、肝心のエリオット・キースンはそれをよしとしなかった。気兼ねなく使えるようにと思ってデコイであることを話したら、いきなりビンタが飛んできた。全然痛くなかったし、ケガさせる訳にはいかない相手になんかあったらと慌てたけど、幸いケガはしてなかったっぽい。
 でも、あの綺麗な顔を歪めて怒鳴られたのには面食らった。使い潰せと言ったことに対して、自分の身代わりをたてられたことに対して、彼はとても怒っていたようだった。
 ハルバー司令官が彼のために用意したのが俺というデコイだ。元々人間じゃないから、人権なんてものもない。でも、それでも、彼は俺を一人の生命体として見ていたらしい。
 デコイとしての立場に不満はない。でも、護るべき対象が美しい存在だったことは、正直嬉しい。この人のためなら頑張れるって、心から思った。

 だから俺は、彼の心が砕け散って「拷問官」と呼ばれるようになっても、彼を嫌うことができなかった。どこかにまだあの、俺を人として見てくれた時のような美しい心が残ってるんじゃ無いかと思うと、彼のそばを離れることができなかった。氷のような眼差しが思い出したように陽を灯した時、どうしても期待してしまう。また、あの頃の彼が戻ってきてくれるんじゃないかって。だから俺は、彼を死なせるわけにはいかない。俺は、彼を生かすためのデコイ。彼がどんな姿になろうとも、彼を先に死なせるわけにはいかない。彼が堕ちるというのなら、俺も一緒にそちらに行こう。

 あぁ、我らが愛しの大将閣下。
 あなたがどこまで堕ちようと、俺は従いますとも。あなたが例え、世界に嫌われた存在になろうとも。
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