まえがき

文字数 840文字

 食べることが好きだ。
 今日の晩御飯は、真っ白な湯気をまとったほかほかの炊き立てご飯、作り置きの少し酸っぱくなりすぎたカブと塩昆布の酢の物、冷蔵庫の隅で干からびていた白菜と豆腐の味噌汁。友人ととりとめのない話をスパイスに楽しむ、おしゃれなカフェのチーズケーキとダージリンのセット。午前中の失敗を引きずらないように、焦りも不安も一緒に食べて、午後も踏ん張るためのハンバーグランチ。
 私の日々の幸せはおいしいものでできている。
 一方で、思い出の味と言われると、なぜか明るくないエピソードばかりが思い浮かぶ。小学生のころ曾祖父のお葬式で祖母が作った薄くスライスしたリンゴとミカン缶入りの慣れない味付けのポテサラ。部活の帰り道、「もう行きたくない、かといって家に帰りたくない」と思いながら公園のベンチでかじったキャンディー入りのとても甘いチョコレート。大学受験に落ちたことを高校に報告しに行く道すがら、これからどうしようかと途方に暮れながら食べたコンビニの期間限定プリンパフェ。
 おいしいもの、おいしくないもの、楽しいこと、つらいこと、すべて私を構成する一要素に変わりはない。食い意地が張っていて、ストレスが溜まると食欲が通常比五割増しになるのは困ったものだが、「食べること」はいつだって私と一緒だ。
 一人暮らしと共に自炊をはじめて早三年目に突入した。最初のころに比べると、かなり適当な食生活を送っている。多少皮をむかなくても、数日賞味期限を過ぎていても案外平気なものだ。よく言えば、こなれたともいうのだろう。外食やコンビニ飯を食べる頻度も上がった。家で作るにはめんどくさいカレーや揚げ物なんかも、気軽に食べられるありがたさは計り知れない。また、朝が弱くぎりぎりまで寝ていたい私にとって、通勤途中にお昼ごはんを調達できるコンビニはもはや生活になくてはならない存在だ。
 ここでは、新年度を機に、自分の食生活を見直すきっかけとして「食べること」をテーマにのんびりと書き散らかしていこうと思う。
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