第1話

文字数 1,940文字

俺は達也、これから中学生になる。中学校に行くとなるとやはり部活だ。どの部活に入るかと言うのは実は決まっている。
テニス部だ。俺は小さな頃からテニスの経験はある。部活は経験があるものをやるべきだろうと思った。そして部活動初日、
新入部員の挨拶があった。部員は俺を含めて6人ほどで、男が3人と女が3人だった。どうやら俺以外は全員未経験者らしい。
挨拶はそこそこに部活が始まった。最初は当然だが走り込みや球拾いからスタートした。俺は経験者なのに、なんて腐ることもなく
きっちりと仕事をした。そして部活が終わりかけの頃に部長が「新入部員も少し球を打ってみるか」と言ってきた。とはいえ
ラケットの持ち方すら教わってない初心者に何ができるんだよ、と思い俺は部長に「すみません、持ち方の指導とかはいいん
ですか?」と言うと部長は「今日はまだ初日なんだからいいんだよ。まずはどうやったら打てるのかを自分で考えてほしくてな」と
言ってきた。そういうことなら、と思い俺は普段の持ち方で打ち始めた。当然ではあるが他の新入部員に比べて俺は格段に打てる。
というか今日の部活を見ていて思ったのだが先輩たちにも引けを取らないくらいには打てているつもりだ。そして部活が終わった
帰り、新入部員全員で帰ることになった。そこで俺は色々と皆に聞かれたがありのままに答えた。すると女子の一人が「どうりで」
と言っていた。なので俺は「ん?」と言うとその女子、美穂ちゃんは慌てて「どうりで打てると思ったって言ったの」と言って
きた。なんだ?と思いながらもその日は帰った。そしてそこから部活の日々が始まる。そして部活が終わると新入部員が全員で帰る
ことも恒例化されてきた。そんなある日、中学生ならではの会話である「好きな人はいるか」という話になった。俺は正直好きな
人なんていなかった。だがここで「いない」なんて言って話を終わらせるのは話のラリーができていないな、と思い「俺は、
美穂ちゃんが好きだよ」と冗談めかして言った。すると美穂ちゃんは顔を真っ赤にして「え?」と言ってきた。なので俺は
さすがにこういう冗談は良くないよな、と思い口を開こうとすると「私も達也君のことが好き!」と言ってきた。すると他の
新入部員たちが「おいおい、それってつまり?」と言ってきた。ここで俺が嘘だった、なんて言えば美穂ちゃんは傷つくだろう。
だが冗談がきっかけで付き合うことになった、なんてなるのはそれはそれでいいことではない。なので俺は「俺と美穂ちゃんは
両想いみたいだけど、お互いのことをなんで好きかがわからないからさ、少し落ち着いて考えようぜ」とわけのわからないことを
言った。なんで好きかなんて話し合えば済む話だし、落ち着くってどういうことだ?と思ったが美穂ちゃんもいきなり付き合うと
言うような度胸はなかったようで「うん、そうしよっか」と言ってきた。そこでその日は終わった。家に帰ってから自分の気持ちを
考えてみた。そもそも、なぜあんな冗談を言ったのか。全く好きでもない人にあんなことを言うわけはない。じゃあ好きなのか?と
聞かれるとわからなかった。そもそも、『好き』ってなんだろうか。そう思い俺は3つ上の兄に聞いてみることにした。
「兄ちゃん、人を好きになるってどういうことなの?」
すると兄は「俺もまだ子どもだからわかんないけどさ、その人がいなくなったら嫌だって思ったらもうそれは好きなんじゃね?」と
言ってきた。それを聞いた瞬間に俺の中での答えは決まった。俺は、美穂ちゃんと離れるのは嫌だ。他の女子部員に対してその
感情を抱いたことはない。そういうことなのだろう。そして翌日、部活帰りに一緒に帰っているときに俺から話し始めた。
「昨日の話なんだけど」と言うと美穂ちゃんは覚悟を決めたような顔をした。そこから俺は美穂ちゃんに向かって話した。
「俺は、こうして美穂ちゃんたちと一緒に帰る時間が楽しくて、ずっと続けばいいなって思った。でも、それは美穂ちゃんを好き
なのかがわからないから俺の兄ちゃんに聞いてみたんだ。そしたら兄ちゃんが「いなくなったら嫌だと思ったら好き」って教えて
くれたんだ。俺は、他の部員よりも美穂ちゃんがいなくなるのが嫌だ」と言った。すると美穂ちゃんは顔を赤くして話し始めた。
「私は、部活で見た達也君がかっこよくて、最初はそれがきっかけで好きになったんだ」と言ってきた。なので俺は「ん?じゃあ
部活をやってなかったら好きじゃなかったの?」と聞いた。すると美穂ちゃんは「達也君にはそれくらいの魅力しかないの?」と
聞き返してきた。俺は笑って「いなくなるのが嫌になるようにさせてやるから覚悟しとけよ」と言った。
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