blue spring

文字数 812文字

「お先に失礼します。」
定時にあがり、予定通りの電車に乗る。駅に着いて駅前のコンビニでイートインをしてライブハウスに18:25に到着。いつも通りだ。
2000年世代と呼ばれ飛ぶ鳥を落とす勢いのバンドマンだったが、バンドが解散してからは細く長く音楽活動を続けている彼のライブ。ライブの七割は固定メンバーで埋まっており私もその内の一人だ。


「ありがとうございました。最後の曲です。blue spring。」
20:25.いつも通りの時間にいつもの曲でライブが終わる。blue spring、青春。今思うとひねりがなくて
時代遅れだが、一番のヒット曲で私がファンになったきっかけの曲でもある。
「今日もお疲れ〜。」
あつこが声をかけてきた。私と同じく昔から彼を応援してるファンの一人で、ライブが終わると二人でご飯を食べに行くのも楽しみの一つだ。
「結婚すること言ったの?」
と尋ねられ、ビールを飲み干し
「言ってない。」
と答えた。
「やっぱりね。言ったらあいつ大事なファンが減ると思って元気になくなるもんね〜。」
その返事は上手く出来ず、近況報告や、ライブの感想、たわいもない話を一通りしてまた来月と言って帰路についた。

彼を追いかけて20年。私もついに結婚するのか。最初はアーティストとファンだったのに、彼の活動の規模が小さくなるにつれて距離も少しずつ近くなっていった。近くなるたびにファンという一線を超えるタイミングがあった。しかしそうはしなかったし、望まなかった。彼の女の一人にはなりたくなかったし、彼は私にとっての青春、blue springだから。

最寄り駅に着くと24:50.今日もお決まりの終電コースだったな。誰もいない駅で夜空を見上げる。来月のライブの後報告するか!報告したら、どんな顔をするんだろう。そっけない顔をするのだろうか。少し反応が楽しみになってきた。イヤホンからblue springを聴きながら、少し早足で彼の待つ自宅に向かう。

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