母の作るフルーツサンドはべらぼうにうまい

文字数 2,023文字

突発性難聴になった。
左耳が聞こえづらい。耳鳴りと空気が通らないような閉塞感にイライラする。
完治は30%,完治とはいかずとも良くなるも30%,
回復せずが30%。
病院の帰りに自分で調べて知った確率だ。

「完治する確率、まあまあしっかり低いやん」

落ち込むというよりかは冷静に軽くマジかよと驚いた。

それにしては、医師の診断が
レジ打ちの商品を読み上げるが如く棒読みかつホップステップであった。
1人の人間の、片耳聴力の存続がかかった病に、
「突発性難聴が1つ〜」とサラリと診断バーコードを読み取った。(正確には、『突発性難聴ですねえ。』と診断下さった)
あまりにもサラリ故、同レベが中耳炎くらいの感覚で私も「あ、そうなんですね。」と単調に返答した。

医師 「最近は若い女性もなりやすいんですよ。名前の通りある日急に起こる難聴です。原因は不明なんです。」
私 「治りますよね?」
医師 「まあ、こればかりはなんとも。まずはステロイド剤で経過を見ていきましょう。」

いやはや、嘘はつかれていない。決して態度がひどいでもない。
ただ、理想を言えばもう少し覚悟するべき可能性やら後遺症やらを心構えさせる言い回しが定番なのでは?

下記が私脚本の推奨台詞だ。

「それが…(2秒の間)言いづらいのですが、絶対治るとは言えないんです。完治の確率は半割を切ってて…うんたらかんたら…(以下説明)」

重すぎる。下手くそだからやはり却下だが、
このニュアンス感をわかってほしい。

こんな経緯で、病院帰りGoogleにて
「突発性難聴 検索」でようやく病の詳細を認識し、予想外のシリアスさに冒頭のマジかよとなったのである。

言っておくがこれは不満のツラツラではない。
医師に対して全くもってという程全くもってではないが(あのおっちゃんちょいテキトー入ってへん?とは思った)、不満は抱いていない。

それよりもあの医師にとって、
私は赤の他人ただそれのみであるという当たり前のことを当たり前だと再認識したのである。
あの医師にとって、これまで数々出会ってきた突発性難聴を患った患者のうちの1人が私である。
それ以上でも以下でもない。
私の次には鼻をズビズビ言わした、小さな坊やの診察が控えているのだ。いちいちたった1人私のために診察結果に思い入れ込み、私と感傷に浸っているわけにいかないのである。
たとえ、私にとっては人生において幾分重要度の高い診断と言えども。
その重要度の高い場面に立ち会うけっこうな代役をあの医師が担っていたのだと言えども。
このなんとも言えぬ悲しきかな相互関係はなんなのだろう。

なるほど、私はまたまた恥ずかしくも「セカチュー(世界の中心で愛を叫ぶ)」を無意識下で行っていたのだ。
私を中心に世界は回っていないし、
そもそも私は世界の中心なんかにおらん、
日本の西のどこかにいるだけだというのに。
叫ぶ愛もクソもない。

他人への期待に自身の心持ちを預けることは不安定で危険だ。

私はこれにひどく苦しめられてきた。
私のことを好きになるべき、いやなってくれやと思いを抱く異性に告白させることはできず、
私のことを雇うべき、いや雇ってくれやと思う企業人事にはお祈りされ、
私に真摯に説明するべき、いや励ましぐらいはしてくれやと思う医師には
令和3年某日の受診患者ただそれだけの枠に入れられた。

もっともっと事例がある。常習犯だ。

我が人生の随所において自身の課題やら悩みやらの解決を他人に期待しては、思い通りにいかず、
自信と愛と勇気と体制を少しずつ失くしていった成りの果てに近づいているのが私だ。

格好のいい文章なら、
このセカチュー女がひとり強く自我を持ち、アジアの日本の西で地に脚を踏ん張るに至るまでの経緯も添えられる。
だが、私は常日頃無意識下に現れる、
このセカチュー現象に
やびいやびいと気づいてはあっち行けシッシを
無様に現在進行形で続けているのだ。
教えてほしい。どうすれば他人に期待しない、他人の言動に一喜一憂しないマインドフルネスを築けるのか。

そしてこれもまた、誰かに自我確立の手伝いを期待しているのだ。やびいやびい。

ただ。
最後に、家族はすごい。
私は例の突発性難聴を聴力はほぼ回復させた。
聴力の数値に回復の傾向が見えた時、
母は興奮して喜び祖母は泣いた。
私を私が思う以上にセカチューにしてくれる。
期待せずとも、家族は私を支え、励まし、寄り添い、満たしてくれる。家族はすごい。

自分の生きることの下手くそ具合に
嫌気が差しながらも、
母の作るべらぼうに美味しいフルーツサンドを
朝日によろしく頬張った朝食から派生する1日。

移り変わっては行きたい。
もがきや生き辛さ、
これら心臓につっかえる塊を抱えているうちは
私は私を諦めていない。

他人には迷惑甚だしい私の勝手に抱いた期待に
しばしば応えてもらえず、
落ち込みも多く味わってきた。
だからこそ家族の潜在的な期待には取りこぼしながらも掬い上げ応えていきたい。
例え時差スタグラムになろうとも。(23歳ニート寸前)
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