二十二歳の夜、二十二時

文字数 573文字

 …現実を突きつけられたところで。だから何だというのだ。そんなことは分かりきっている。もはや自分に何ができるのだろう。
 家族が悪いわけではないが、家に帰りたくない。可もなく不可もない、肉に味がついた定食。突然、
「先に帰る。」
と告げて店を出た自分に何を思っただろう。気付いたら歩き出していた。少し見晴らしの良いあの丘へ。二十二年間も飯を食わせてもらったのだ。旅行にも連れて行ってもらった方だと思うし、欲しい物もそれなりに買ってもらえた。…ここの景色は自分を満足させてはくれなかった。ふとブランコに座ろうと思い立ち、急勾配を一歩ずつ下っていく。
 ブランコの椅子は思っていたよりもひんやりとしていた。それにしてもここは夜だというのに騒がしい。重低音を響かせた車が何台も通り過ぎる。何の音かは判らない、ごうごうという音も左耳から入ってくる。歳をとるごとに、自分が繊細になっていくのを感じる。メンタリティーについては、数年前に言われた言葉がずっと心に残り続けている。
「お前は弱いじゃない。あまりにも弱すぎる。」
「そんな事では教員になぞなれるものか。」
 強くなるにはどうすればよいのか教えて欲しかった。しかしまだあの頃の自分の方が目の前の事に対して必死だった。…いつの間にか指先まで冷えきっていた。ブランコに座ることもまた、自分の目的ではなかったようだった。
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