文字数 1,290文字

掃き出し窓を閉めてソファに座ると
一人暮らしのマンションのベランダに2つ置いてある観葉植物の鉢を眺めた。
左側の鉢はもう一方に比べて30センチぐらい背が高い。
若い猫がおしっこをしていくためだ。
これをどうにかしたい。
左側の鉢に細工をし、煙草に火をつけて、猫がやってくるのを待った。

====1度目 ====

2本目に火をつけたとき、ベランダの仕切りの下の隙間から
白と黒のハチワレが顔を出し、鉢に向かう。

<お、きたな。>

こっちのことは知らんぷりだ。
左側の鉢はレジ袋を履かせて観葉植物の根本で縛っておいた。
これならおしっこはできないだろう。
左側でできないなら右側でするはず、それが狙いだ。
30センチの高さ違いは少々バランスが悪い。
しかし猫は左側でおしっこをした、レジ袋の上から。
あぁと呻いてソファから立ち上がると目が眩み
よろめいて倒れこんだ。

==== 2度目 ====

気がつくと、ソファに座って煙草に火をつけていた。
するとベランダの仕切りの下の隙間から
白と黒のハチワレが顔を出し、鉢に向かう。
こっちのことは知らんぷりだ。

<あれ、さっき立ち眩みがして・・・・・・>

猫は左側でおしっこをした、レジ袋の上から。
あぁと呻いてソファから立ち上がると目が眩む。
意識が薄れていくなかで思った。

<これはタイムリープだ>

==== 6度目 ====

ベランダの仕切りの下の隙間から
白と黒のハチワレが顔を出し、鉢に向かう。
こっちを少し見やった。

<あ・・・・・・こっちを見たぞ・・・・・・>

これまでとは違う行動に少し期待が膨らみ背筋が伸びる。
だけど、猫はいつも通り左側でおしっこをした、レジ袋の上から。
あぁと呻いてソファから立ち上がると目が眩んだ。

==== 7度目 ====

猫は左側の鉢を素通りし、右側の鉢にのぼった。

<よし!これでようやく終わる!>

両手を強く握りしめてソファから立ち上がると目が眩んだ。
猫が窓越しにこちらを見ている。
うすれゆく意識のなかで思った。

<あ、あいつ、もしかしてタイムリープしてることを・・・・・・>

==== 8度目 ====

ベランダの仕切りの下の隙間から
白と黒のハチワレが顔を出し体をすり抜けさせると
窓際にたたずんでこちらを見つめた。

<そうか、お前もこの無限ループから抜け出したいんだな?>

「それなら提案があるんだ、ウチの猫にならないか?」

猫はうなづいたように見えた。
窓を開けて猫を招き入れ、クロという名前を付けた。
そこでタイムリープは終わった。
煙草はやめた。
ネコ餌の売り場で知り合った彼女と結婚し、家族が二人増えた。
クロはときどきベランダに出たがったが、それはかたくなに阻止した。
ベランダには観葉植物も置いてあったし。

クロは推定30歳まで生きた。
家族と一緒にペット葬儀場から戻ると、ずいぶん久しぶりに煙草に火をつけた。

「あれーお父さん、煙草吸うの?」
「やめてたんだけどな」
「えー?1本だけにしてよー?匂いがつくから!」
「あぁ、2本だけ」

煙をくゆらせながら、ベランダの2つの観葉植物を眺めた。
ベランダの仕切りの下の隙間から
白と黒のハチワレが顔を出さないかと思って。

==== おしまい ====
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