第1話

文字数 1,959文字

カフェイン・シンドローム

今から二年前の話です、僕はその頃は船に乗って旅をしていた、その時訪れたあの国は今もその時と同じであろうと思える。なぜそう言えるのかと言うと、あの国は僕が行った国の中で奇妙だったから、僕は長旅の疲れを癒すためにいっぱい飲もうと小さな酒場らしき店の屋外テラスで店員を呼んだ。「すみません、ビールを一つ中くらいのグラスでください」と言うとその店員は一瞬顔を顰めたがすぐにニヤリと変な笑みを浮かべてこういった。
「お前はよそから来た者だろ?。だったら教えてやるよ、ここは酒はない国だよ」
「え?しかしあそこの男は黒いビールみたいなの飲んでるけど?」と言うと、その店員はへへへっと笑いながらこう言った
「あれはコーヒーだよ、うちらの国は仕事終わりにあれでいっぱいやるのさ、お前さんもあれにするか?」と聞いてきたので、僕は流れに任せるようにそれを頼んで早速飲んだ。
味はブラックコーヒーだけど炭酸が入っており、喉越しも相まってまるでアルコールを抜いたビールのような、と言うよりそれよりうまく感じる。突き出しで出てきたスパイス風味の鶏肉とも相性がよく二杯目も頼んだ、すると、隣の初老の男が僕のテーブルの相席に座りこう話しかけてきた。「さっき話をきいたが旅人だろ?」とニヤついたような笑顔を見せながら話しかけてきた。「はいそうです、船に乗っていろんな国を見てきた、ここは初めてなんだ」と言うと男は
「そうか、ならここの名物や観光名所は知らないだろうな。」
「でも一つ聞きたいことがあります、ここの国はどうして酒は飲めないのでしょうか?。」と僕は聞くとその男は笑顔からすぐに無表情になり、少しむっとした表情になった。
「いや他の国にも禁酒の国はあったんです。例えば宗教上の事や昔の悪法の名残とか、」
すると男は呟くように口を開いた「ここの国はそんなことで酒が飲めんわけじゃねえんだよ」
「?どうしました?、何か気に触ることを言いましたか」と少し戸惑って聞いてみたら、彼はこの国のことを話し始めた、「今から五年前の話だ、ある日新しいリーダーがある
法律を作り始めたんだ」その語り方には怒りの感情はなかったけど何やら重たい空気を感じた。
「酒を全廃止、そして国民にコーヒーを法律で決めたんだよ」それを聞いて変な法律の国なんだと思い続けてその事の話に耳を傾けた。
「リーダーは昔何かあったんだろうが、親の仇の如くアルコールをすごく嫌っていたんだ、そして変わっているのかどうかコーヒーは体にいいと思っていたんだなコレが。
最初はまあ戸惑ったけどもうだんだん慣れてきて今じゃもう慣れっこさ」と少し引き攣ったような笑顔が気にかかり僕はさらにこう聞いてみた。
「その法律ができた後は今の生活ってどうなりました?」すると男は、
「この国のコーヒーは最高だよ、もうこれがなくては生きていけんくらい…そう…文字通り生きていけんのだよ」一気に顔は土砂降りの如く暗くなり彼はこう話してきた。
「最近全くと言ってもいいほど眠りが浅くてな…、ぐっすりと眠った時はいつだったかもう正確には覚えてない。仕事場の同僚がほとんど寝付けなくて最終的には
過労で死んだよ」そしてその男はこのコーヒー常飲の法律の弊害を語り始めた。
「その法律ができて以来この国は眠らない国になった、皆が眠れないから他の国では皆ぐっすり寝ている時には、国民ほとんどが外で遊んでいるか
夜遅くまで働いているかだ。」僕はそれを聞きとても信じられい事のように思った。「それでは体も壊れるんじゃ…そういえばあなたすごくやつれていますけど」
「夜中に遊びあるくくらいだけでない、さっき話しただろう…コーヒーがやめられない身体になってしまったんだ…」
「…ひどいやつはそれ以上の効果のある飲料を作って飲み始めたんだ、さらにそれを他の奴らにも売って儲けていた。」まるで薬物のような扱いだと思い一つ疑問に思ったことを彼に聞いた「みなさんは何もしなかったのですか」それに対して諦めた表情をしてその男はこう言った「何もしないさ、医者たちが何人かこの問題に対して批判したが
彼らは国家に反抗したとして捕まった…というかそれでよかったと思うよ」
「えっそれはなぜですか?」と聞くと
「これがなければ生きていけない、国民全てがそう思っているから」と悲しそうな表情をして言った、そして彼は最後にこういって立ち去った
「大人だけでない、子供達もこのカフェイン・シンドロームにかかっている、ほとんどが急性中毒死しているので子供の数は少なくなってきてる…」
その次の日に僕はこの国を出国した、そして今でもあの国はあり続けており、このカフェイン・シンドロームは今の世代のその次のまた次に継承されて。
全ての国民はそれの法律に苦しみながらも生き続けていくのだろう。
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