第8話

文字数 25,174文字

蔵鷹は、これまで、数々の冒険をしてきた。
蔵鷹は、愛犬のリックちゃんと、夜が更けてから、ふとテレビを見ながら、画面に映るジャパニーズ・アニメを見ながら考えていた。
聖霊の守りのなかで、ゆったりとした時間・・・。
そのなかにあり、それでも、蔵鷹は幾分、混乱もしていた。
『プロビデンスの目』とは何なのだろう?
日本では明治というカレンダー・エラが始まり、しばらく経つ迄は、天地の造り主を信じるキリスト教は、250年間政治的に禁止された教えだった。その特殊な環境の中で、日本人の思考は、ややユニバーサルな路線から外れてしまった。『プロビデンスの目』とは、文献によれば、キリスト教的図像学に起源を持つ1つのシンボルだ。
それは、もっとも分かりやすい描かれ方では、アメリカ合衆国の1ドル紙幣に描かれているものがある。1つの三角形の中に、目が1つ描かれており、その三角形は、周囲に光を放っている・・・。
これは、人間をすべて見ている神(創造主)の目を描いているシンボリズム的なアイコンである。
これは、アメリカ合衆国の国章の裏側にもデザインされている。

神は全てを見ている。神がモーセの前に顕現を示したとき、『私はある』という者だ、と自分を名乗った。あきらかに存在する、ということをモーセに示した。

神の目は全てを見ているのだ。そのことをシンボルにした図像が『プロビデンスの目』だ。

日本のクリエイションでは『ON YOUR MARK』や『20世紀少年』などに、そうした目の図像を配置しているものがあるが、これは、神の目ではなく、神の目を装った人の目、というアンチな朧げな皮肉めいた何かを意味している配置の仕方と思われる。

キリシタン禁止令下の日本では、権力者による監視というアンチな歴史性があったからかもしれない。

その意味で『プロビデンスの目』のデザインについての評価は、国の内外で異なっている、と言えるかもしれない。

蔵鷹は、これまで、18歳迄おもに住んでいたJAPANを外れて、20年近く、おおくの世界冒険をしてきたので、土地によっての、物事の意識の相違には敏感に感じるところがあるのだ。

『プロビデンスの目』という秘宝は、そうしたデザインが施された何か、なのだ。

蔵鷹は、そのようなことを考えながら、ギャルソンから届いた手紙と小包を開封した。
ギャルソンは、まえの冒険で発見した古代遺構シバリンガムを、すべて、このほどフィンランド・オンカロと同じレベル迄、地下層に掘り進めた場所に封印することにした、という。
シバリンガムは古代技術で、放射能漏れによる危険性があるとギャルソンは判断した。
地球環境のためには、これから未来の子供達のためには、原子力から人類は離れねばならない、そう、ギャルソンは言う。
そうだ、我々は環境を破壊しすぎている。人類は入ってはならなかった自然環境に入り込み、それによって世界に災厄をもたらしている、という面もある。禁断のものは、やはり、禁断のものだ。人間は自然を制圧することなどできない。21世紀にはいり、気候の危機がつよく訴えられるほど、我々は環境を破壊してきた。便利にしよう、自然を搾取してもいいのだ、というような気持ちから、我々人類はたいへんなことをしてしまっている、と言える。ギャルソンは、エネルギーカンパニーを経営しながら、未来に大きな傷を残すものから、我々の文明が離れていくべきであることを、常に考えてきたようだ。古代のパワフルな遺構を放棄し、もはや人間を顧みない、自然環境・地球を顧みない、未来の子供らを顧みない、そういう原子力という技術から離れる決意をした、そうギャルソンは言う。

我々とギャルソンのシバリンガムをめぐる旅、・・・彼はそれを友人らと1つの物語として本にしていた。それはギャルソン・パブリッシングから出されていた。

私は本を開いた。あの時代の思い出だった・・・。プロビデンスの目の考察はしばらく休もう。

(*注)オンカロ
オンカロとは、フィンランドの放射性廃棄物最終処分場のこと。
フィンランドでは、高レベル放射性廃棄物を半永久的に地中に埋める最終処分場を建設している。
世界で最も費用がかかるが、使用期間も最長のこの処分場は、オンカロ(洞窟)という名だ。
1950年代、原子力発電がはじまり、そこから出る最悪のゴミでもある、致死の放射性廃棄物、・・・。それをどう処分するのか、ほとんどの国では地上につくられた一時的な保管施設に貯め込んでいる。それはもはや、とんでもない量になっている。我々人類は、即時、原子力発電をやめるべきなのだ。
オンカロはそうした致死の放射性廃棄物を10万年という期間で処分することを計画した施設で、フィンランドの西岸の島につくられている。オンカロは、永久に廃棄物を埋める、世界初の最終処分場である。

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[SF冒険譚のはじまり]
 私、TAKA KURA(蔵鷹)は一人の学者として、クリントの手記や、ギャルソンのレポートも譲り受け、此の壮大なる冒険旅行の報告書をマケドニア共和国のオフリドにて纏めて居る。キャピタルシティ・スコピエから四時間ドライブで此の湖岸の町に着く。
 美しい町だ・・・。造形的色彩的に宮崎駿監督アニメーション映画作品『魔女の宅急便』を私はリコールして居る。丘の斜面に集合して居るハウスホールド群を通り抜けた処の、古教会下方に設置されたアンダークリフ・スイミング&ベイジングエリアでは、ヨーロッパ中から集まった様々な人々が水辺で遊ぶ。オフリドの港から二時間程舟で行くとトリニタリアニズム(キリスト教に於ける、創造主なる神・その神の子なるイエス・そして聖霊ホーリースピリットが、三位一体ホーリートリニティで在ると信じる主義)を主張したアレクサンドリア(現在カイロに次ぐエジプト第二の都市と成って居る町)のアタナシオス(AD 296 ― 373)を記念する古教会も在る。
 文化人類学者の私としては、一体シバリンガムとは何だったのか、を言及する事に為る。
 兎に角シバリンガム遺跡から超古代のゴーレムが蘇った。そして其のゴーレムが赤い有翼大蛇と戦ったのだ。我々は其の事を目撃した。あれは『アルマゲドン(決戦)』だった。我々は幻想を見たのだろうか? そうでは無い、『アルマゲドン』は全ての人の心の中で巻き起こる戦いなのだ。その中で、我々は聖霊の大いなる助力を受ける。そして荒振る有翼大蛇に勝利した。オフリドの雄大な景観は勝利を祝福した。
 日常は大切だ。そこから時々飛び出して冒険に出たいとしても・・・。二十世紀の或る偉大な著作家は、かつては人と人とが、グループを互いに組み、それが国家だとか民族だとかの集団になり、その集団同士が戦った、・・・だが、それは前時代の事だ、・・・今は其の戦いは個人の心の中で行われる時代になった、と言った。我々は自分の心を見つめ其れをコントロールする事を習得しないといけない。今世紀は、そういったマインドシフトのマイルストンの時代となるのだろう。マザーテレサやダライラマの様な人々が其の先人なのだろう。だが、旧約聖書外典の中で天使はたしか、人がむやみに時を区分するべきではないと云っていたと思う。すべてはひとつの中に在るのだ・・・。おわりとはじまりは一緒だ。境目は無いのだと。

 スコピエ・マザー・テレサ通り
十時三十分頃目覚めた。
 私はブンカー・コミックショップ(マザー・テレサ記念教会を少し過ぎた所に位置する、ラムストアモールの向いに在る)へ行って見た。
 平日十一時開店か・・・。未だ暫く有るな。其れではブランチと行こうか、そう思い私はモールのフードコートへ行った。フードコートには大抵一軒はチャイニーズが在る。そう言えばサイファイ・フィルム・ディレクターのルーカス氏はオーストラリアのフードコートでチャイニーズを食べて居る姿をパパラッチされた事が在ったな、私はルーカス気分でチャーハンをかっこんだ。
 ブンカーに行くと色々な漫画が売って居た。エンターテインメントに寄ったモノから、アート漫画迄。私はイタリアの漫画『ディランドッグ』のファンだが、此の漫画はヨーロッパ全土で人気が有る様だ。プレジデントが漫画文化に注目して居るのもよく分かる。私はブンカーで少し買い物をしてオールドバザールの方迄散歩する事にした。バザール迄の、アレクサンダー広場やストーンブリッジを抜ける道のりが好きだ。
 バザールに入ってほぼ道為り直線に進んだ突当りにひとつモスクが在る。其の脇に在るカフェは私のフェーバリットプレース。其処で珈琲をオーダーしテーブルに着き、PCを開けた。『靴下を穿かないアジア人は美女にもてる』と云うジンクスをプレジデントに聞いてから私は靴下を穿いていない。オープンカフェでの文筆作業は心地よい。もう一杯ターキッシュコーヒーとドーナツをオーダーした。カフェでの文筆は何故か捗る。今は特に急かされて居無いのでリラックスして作業出来るのだがね。気が付くと午後二時に為って居た。アラビアの人々の礼拝が行われる。
 やがてディナータイムと為り、イタリアン・スパゲティを。
 私はしばらく、ロンドンで学生だった頃を思い出して居た・・・・・・。ペーパーバックをいつも持ち歩いていた。そこには不思議で新しい物語があった。僕の此の冒険旅行の纏めもそんなものの一つなんだろう。




















   ペーパーバック・ファンタジア



 太陽光を集中させる円形集光プレースに配置された巨大なメガソーラーが見える。
 二十一世紀・・・。再生可能エナジー社会へ変貌しつつ在る時代・・・。
車のラジオから何かドキュメンタリーチャンネルの音声が流れ聞こえる、「かつて存在した多くの陸地が今は海面下に沈んで居るのです。その一つ、『スンダランド』と呼ばれる場所があります。今はタイ王国のプーケット地域を含む海域です。その海域で海底調査をした所、海底構造物が発見されたのは有名なニュースでした。これは自然の造形ではなく文明の遺構なのです。氷河期の終わりの海面上昇によって海底に沈んだ『スンダランド』には文明(シビライゼーション)が在った。スンダランドは大陸と呼べるような広大な面積を有していた、・・・それはタイランド湾を含む、マレー半島からインドシナ半島の間に在るビッグエリアだ」私クリントはラジオをちゃんと聞いているわけにはいかない。追手が迫る。

 KLINT
 
 マケドニアの遺跡の町を逃げるホワイトジープ。
 其れを追う戦闘ヘリ。
 ジープを運転しているのはクリントと云う男。
(クリント、思う、)「なんで、こんな事に巻き込まれたんだ? だが、一つハッキリして居るのは、あのヘリの奴は、此のジープの積荷を狙って居る! そして、私は其れを奴に渡してはいけない、って事だ。」

##### 登場キャラクター(エネミー) 奴(メカヘッド):
奴『メカヘッド』は、世界支配を企む或る國の独裁者が、マッド・サイエンティストに製造させたロボット士官。
【その風貌は、まさにロボットなのだが、人間の情に当たるプログラムは組み込まれていない。かつての古代エジプトのエンペラー、ファラオのような仮面が頭部に被せられている。その内部はAIを搭載したチップ&ファームウェアだ。レッド&イエローライトで鋭く光るサーチアイは獲物を追い詰める。だが、実際は中身が無い、独裁者に動かされているのだ】
 目的は古代スンダランド人が持って居たとされる超兵器(ラーマヤーナに記述されている)を発見し、持って帰る事。其れ故にクリントらを追って居る。攻撃ヘリを移動手段としてどこまでも追って来る。諦める事を知らないエネミー・ロボットで在る。

 ヘリ、ジープに向けミサイル発射。
 ジープの間近で爆発。
 ジープ、崖から湖に落ちる。
 ジープ、水面下へ沈む。シーン・・・、と成る。
クリント(モノローグ)「なんてこった。一巻の終わりか。どうなるんだ? そうだ、あれが始まりだったんだ・・・。あの日、四月十九日・・・。『東マレーシア映画社』プレジデントと南海急行で会った日・・・。」

 クリントは薄れる意識の中で、あの日を思い出して居た・・・・・・・・・・。 

 (あの日、・・・其れはこんなだった。) 二年間の潜伏生活が終わり、TARUMI*IKAWADANI@KOBEゾーンを離れる日が来た。私、クリントは、生活用品をよく購入した南京町や仕事用具仕入で世話になったNAMBAとの別れを、其の時になって寂しく思って居た。

##### 登場人物KLINT(私、クリント):
政変で逃亡を余儀無くされた男。東欧がルーツ。明石の蛸料理が好き。謎のプレジデント率いる『東マレーシア映画社』のプロジェクトに関わって居る。プレジデントは後見人でも在る。
【風貌は、東欧系でハンガリー人のようにも見える。アジア系とユダヤ系の血も引いているという。ブラウンカラーのロングヘアと蓄えられた髭が特徴だ。グリーンがかった瞳が印象的だとよく言われる。同年代の妻が居る、彼女はこの瞳に夢中だ】
プレジデントに依って『クリント』と呼ばれるが、本名非公開。二年間の日本列島潜伏を終え、旅立つ。

『四月十九日、AM五時四十五分NAMBA発、南海線空港急行内一両目第三列シートで会おう』という連絡が入ったのだ。勿論此れは通称『東マレーシア映画社』のプレジデントからだ。プレジデントは何時も唐突だ。だが、私も随分と其れに慣れて来た。其処で私は、TARUMI*IKAWADANI@KOBEゾーンからJRに搭乗した。『神戸』↓『尼崎』↓『京橋』↓『天王寺』↓『難波』・・・・・ジャポンの旧国営鉄道JRでは、此のルートでNAMBAに到着する。九百万人が行交うメガゾーンだ。NAMBAビックカメラ傍カプセルホテルで出発迄を過ごす。こうしたジャポン独特の滞在施設はヴィム・ベンダース監督ニュージャーマンSF映画『夢の果て迄も』で世界に紹介された。ヨーロピアン美女ソルベイグ・ドマルタンがまるで迷路の様なカプセルホテル通路を彷徨った。此の様なモノを思い付くアーキテクトは世界でもジャポンにしか居ないだろう。

 プレジデントは予定されたシートに居た。彼の隣に座った。彼は私に、EPSONのモビリオ・ゴーグル・ディスプレイを渡した。ゴーグル・ディスプレイには一九七〇年代に撮影されたと思しき短い映画の断片が映った。二分程の、其の映像は未編集の様だ。内容は、イエズス・クリストのミラクル。その癒し。私はプレジデントに訊ねた、「何処で此の映像を?」
 プレジデントは答えた、「移動しながら説明しよう。」南海線空港急行はKIX関西国際空港へ向って走る。KIXから搭乗した機は、PEACHアビエーション香港行。
「香港?」私は一瞬動揺した。プレジデントは言う、「香港にTAKAKURAが待って居る。彼は知っての通り、ロンドンのアングリカン・ライブラリーでリサーチ中だったが、其処で今君が見たフィルム映像資料を見付けたのだ。彼は一週間前に東マレーシア映画社特別通信網を介して、私に其のデジタルテレシネ映像を添付送付した。」
「ロンドン香港間フライトは約十二時間、TAKAKURAさんも大変だ。」私は苦笑した。

##### 登場人物 TAKAKURA (蔵鷹):
【風貌について言うなら、・・・アジアンダンディ。すこしまえには、ファッション雑誌にベスト・ハット・ウェアラ・アジアンダンディとして紹介されたことがある。フィリアスフォッグの持っていた様なハットからベトナム笠までかなり帽子を持っているようだ。アイウェアにも凝っている。ハイスクール時代はデザイナーになろうと思っていたが、吉村作治を読み考古学・人類学を専攻。この分野に関連してながくロンドンに滞在】
蔵は、英国紳士風の文化人類学者。考古学者。神話学者。冒険家。若い頃、世界の様々な海に潜って居た。海底に沈んだ遺跡にも詳しい。世界学会でTAKAKURAは云う、「一万二千年前に氷河期が終わった。氷河期には地球各地の温度は低かった。現在海底に沈んで居る土地にも、氷山が溶ける前は、陸地であったエリアが在る。文明の揺り篭とも呼ばれるインド亜大陸は、今よりずっと面積が大きく、現在その周辺海域に沈む宇宙山尖塔建築も、古代には人々で賑わって居た、と云う説も在る。(其の頃シシリー島と、地中海マルタ島は地続きだったのだ)
 YOUTUBEで話題と成って居る、エナジー発生装置『巨大シバリンガム・テクノロジー』が其の古代スーパー文明を支えた! 古代テクノロジーは測り知れない!」
 文化人類学者としてのTAKAKURAは此の様にロマンチストで夢追い人でも在る。学会で相手にされ無い事も多々在り、私財を投げ打って世界リサーチも進めて居る。同時に民主主義者としての彼の著書も多い。近年、国際的にも民主主義の牙城で在るロンドンに居る事が多い。ロンドンでの根城はウエストエンドと『八十日間世界一周』の主人公フィリアス・フォッグも住んで居た紳士のストリート「サビルロウ」に在る。「サビルロウ」周辺で散歩するTAKAKURAを見掛けたと云う人は多い。マドラスに住んで居た事も有る様だ。(彼の印度趣味は、其れに由来して居る。) ウエストエンドのワンキー・レストランでも彼を見掛けた人は多い。此れは実はレストラン地下に秘密の地底列車駅が在るから、らしい。
 私はプレジデントのやや強引に彼を呼び寄せようとする態度に対し、「プレジデント、あなたも酷だ」と笑いながら言ってみた。するとプレジデントも笑いながら言う、「処がそうでも無い。TAKAKURAはハイパー地底列車を使って三時間でやって来る。英国領香港時代、秘密裏にロンドン香港間ハイパー地底トンネルが建造されて居た。殆ど知る者は居無い。地底列車は両都市を三時間で繋ぐ。」 プレジデントは何時も私を驚かせる。何故、其の地底列車を、此の男は使う事が出来るのか? 訊いても彼はノーコメントだろう。まあ、其れは其れで良い。私は余計な詮索は好きでは無い。
「香港側出口は市内センターのアングリカンチャーチ地下に在る。今度ロンドンへ行く時は、クリント、君も使うと良い。」プレジデントはそう云った。
 ロンドン、好きな街だ。何度も足を運んで居る。街の起源はローマ時代に迄遡る。かつては『ロンドニウム』と呼ばれた処だ。既に、其の時代から多民族都市の様相を呈して居たと云う。世界から数え切れ無いほどの商人らがテムズ下流に集まって居た。風通しの良い街だったのだ。あの街は歴史的に民主主義の守護者として先頭に立ち闘って来た。悪魔的スターリンに対し諜報活動で戦った。自由主義者達をソビエトからも受け入れた様だ。
 TAKAKURAさんはアジアに於ける永続的民主主義確立を模索し、何度も、あの街に長期滞在して居るのだった・・・。トップシークレット情報によれば、スターリンに反発した映画監督エイゼンシュタインは秘密裏に、ソ連映画センターに隠されて居た『古代文明テクノロジー』と呼ばれる何かを彼の故郷リガへ持ち出した。ソ連がゴルビーに依って解放された後、若きTAKAKURAはリガのエイゼンシュタイン生家を調査したが、『古代文明テクノロジー』は既に無かった。其れは、ハンガリー・ブダペスト、ブリテン・ロンドンを経由してメキシコへ持ち出されて居た。そうだ、エイゼンシュタインの最後の映画作品は『メキシコ万歳』だった。彼はメキシコの特別な何かに気付いて居たのだ。エジプトと同様にピラミッド遺跡が残された其の大地の特別な何かに。一説には地球外テクノロジーと関係して居ると云う其の何かに。こんな事はTAKAKURAさんにとっては当り前の知識だろう。
##### 登場人物プレジデント:
『東マレーシア映画社』を率いるボス。看板は映画社だが、どうやら世界のパワーバランスに関係して居るオーガニゼーションの長の様だ。
【その風貌は・・・・・その顔は・・・・・兎だ・・・・・。カナダ西岸のバンクーバー島に居る様な野ウサギ。彼は自社開発のホログラム・マスクを常時つけていると言われている。人間なのか、動物なのか、宇宙人なのか、・・・無駄な詮索はよそう。ナイスガイであることには変わりない・・・。仮面の下のペルソナは誰も知らない】
プレジデントは云う、「香港は九十年代迄ブリティッシュガバメント傘下だった。香港ロンドン間は無数の行き来が在った。香港でかつて撮影されたフィルムがロンドン市内で発見される事は、珍しい訳では無い。其れより、其のフィルムに写っているキリストの衣、其れが問題だ。サー・ランラン・ショウは完全主義者でも有名だったが、まさか本物を見つけたとは・・・!」
 福音書によれば、長く病を患っていた女性が、せめてイエス・キリストの衣に触れたい、そう願い群衆の中のキリストの衣に触れた。衣を通してイエスのパワーが溢れ出た。彼女はたちどころに癒された。其のシーンを再現した断片フィルムだ。プレジデントが其の筋の研究機関にフィルム映像を鑑定してもらった所、写って居る衣は本物だと云うのだ! だとすれば、此れは世紀の発見と成る。しかし其の、恐らく一九七〇年代のフィルムに写る衣は何処へ?

 香港へのフライト・・・。 約3時間・・・。
 香港。ホンコン。HONGKONG。其処はアジア屈指の多民族社会。
 PEACH機がHONGKONG国際空港迄、飛行して居た間、プレジデントが所持して居たPAPER資料も見た。我々のHONGKONGでの最終目的地は、香港クリアウォーターベイSB区と在った。
 香港に到着すると、我々は、あのジャッキー・チェンが修業した場所として名高い『ミラドール・マンション』のマーケットに向かった。其処のカレー店でプレートをオーダーした。若き日のジャッキーも、此処で食べただろうか。世界のジャッキーファンが、ミラドール・マンション・ビルヂングを訪れたいと願って居る。私達は其処で一瞬映画スターの気持を味わった。此のビルヂングでは主に印度亜大陸系行商人らが、ハイテクショップから、カレー・レストラン迄、幅広く店を営んで居る。我々がテーブル席に着いたクイジンは、ハラル式カレー店だ。チキンカレーとアジア米、悪く無い。カレーを食べながらプレジデントの持ち込みワインを飲んだ。香港は多文化構造の世界、まるでアナザープラネット。プレジデントがモンゴルの乳酸菌飲料を供した。其の後、彼はラジオ付ヘッドフォンステレオ(プレジデント世代はWALKMANが好きだ)をテーブルに置いた。不思議な音楽が鳴り始めた。ふと、私は眠くなって来た・・・。
 プレジデントは香港ウォーカーとして上級だ。私は仕事で数回来て居るが実の処香港地理に然程強く無い。プレジデントは私に言った、「DEEP香港をイントロデュースしよう・・・。」彼はまず私にDEEP香港を体験してもらいたい、と重慶マンション(ウォン・カーワイ監督『恋する惑星』舞台の一つ)に宿を取って居た。プレジデントには、重慶マンションに特別の想いが有る。そう云う世代なのだ。重慶マンションから連想する事、其の全てがプレジデントの青春だったはずだ。一九九五年ジェット・トーン・プロダクションズ製作映画『恋する惑星』、ウォン・カーワイ、クリストファー・ドイル、トニー・レオン、フェイ・ウォン、夢中人、タケシ・カネシロ、ブリジット・リン、揺れるスクリーン、・・・其れらは一躍世界的知名度を獲得した。重慶マンションには其の全てが集約されて居るのだ。重慶マンションは歴史に成った。世界映画史の一頁に。前述の映画に於いて、カーワイ監督とクリストファー・ドイル撮影監督は、ココの魅力を余す所無く紹介した。もはやココはメジャー香港で在り、DEEP香港とは言えないのかも知れなかった。
 プレジデントと共に香港から船で珠海(ジュハイ)島へ渡った。此れはDEEPな体験だ。珠海でふと鏡を見た。鏡の中の私を見た。「エッ!」(何コレ???)私は、動物のマスクを被って居た。プレジデントは其れを取るよう云う。私はマスクを外した。其れを外した時に再び見た光景に驚いた。私はハラルカレー店奥のソファに只座って居た。今迄見て居た景色、味わった体験は何だったのか?
「VRなんだよ。ワインを飲んだ後から今迄の全ては。ワインの後、君に聴かせた音楽には睡眠効果が有った」プレジデントはそう説明した。私はどう云う事か更に彼に訊いた。プレジデントは言う「クリント君、君が居た場所はVRプログラム『BOATLER』の中だったんだ。世界の選りすぐりのプログラマーに依って構築された、もう一つの地球、・・・とも言える。ほぼ現実の地球上の様に作られて居るが実体は無い。VRだ。余りにリアルで、入り込んで居る事にさえ気付かないだろう?
『BOATLER』は秘密裏にプログラムされたサイバースペースで、現在三十三万人程度のアバタールが加入して居る。VR内アバタールらは皆、内部での移動手段として必ずHYPERBOATを所持せねばならない。HYPERBOATで移動すれば、アバタールはVR地球上を何処へでも瞬時に移動出来る。現実世界をゆっくり旅行する事もまま成ら無い多忙なメイトらが加入して居る。彼らは、オモイオモイの姿のアバタールに成り変わって居る場合も多い。或る者はアニメに、或る者は動物に、或る者は人形に・・・・。」 
其の時、ギャルソンと名乗る者が現れた。

##### 登場人物 GARCON (ギャルソン): 
【彼の風貌はワイルドそのものだ。白いカウボーイハットと『サイバーグラス』と呼ばれるサングラス。黒のライダージャケットにパンタロン&ブーツ。怪人フーマンチューのような、サルバドール・ダリのようなファッショナブルな髭が自慢だ。だが彼はアルコールをせずポルトガルのスイーツとカフェにたっぷり蜂蜜を入れたものを食するのが好み】
ギャルソンは現在、オーストラリアに暮らして居る。本名は謎だがギャルソン(給仕)と呼ばれる。天才的な助っ人で在った事が由来して居るらしい。彼はかつて冒険家だったが、其の旅の生活に別れを告げ、今は静かに妻とオーストラリアにて暮らして居る・・・。だが時々、昔の何かが疼くのか、香港の秘密のジャングルに隠された彼のラボに自家用機で行き、暫し何かの研究をして居るらしい。其の隠れ家は、かつてアジアを席巻した映画スタジオ、しかし、失われた映画スタジオ、もう、誰も其処に出入りする事の無い、シークレットゾーンに在る。失われたスタジオは、人知れずジャングルに為って居たのだ・・・。スタジオの奥(裏側)、其処は誰も知らないジャングル。其処に人知れず、ゲルが建って居る。其れは、ギャルソンの隠れ家。ギャルソンは『ゲル育ち』なのだ。其れを懐かしみ、此処にゲルを建てて居る。だが、中は、ハイテクで満ちて居る。世界のデータを此の中で、入手出来る。CIAにも並ぶ情報収集ネットだ。ギャルソンは又、黒澤明監督『影武者』が撮影された姫路城のファンでも在る。其処に隠されて居た、忍法書を持って居る様だ。
 
 やがて、TAKAKURAが到着した、「あっ、プレジデント。やっぱり此のハラル・カレー屋に居たんですね。プレジデントは此処が好きだから! 多分ここにいるんじゃないかって思ったんだ。 あれっ? 此のひとは?」
 プレジデントは言う、「此れはギャルソン。今回のリサーチメンバーは、ミスターTAKAKURA、きみと、そして、クリント君、さらに、此のギャルソンだ」

 ***香港クリアウォーターベイSB区***
【そこは、前述の理由から、ひとしれず映画ファンの聖地となっている。『ジャングルと化した映画スタジオ』と称されながら・・・。自然がコンクリートを呑み込む・・・。南方樹林群が人工物を覆い隠す。千年も前の遺跡のようになる・・・】
 其処はギャルソンの隠れ家。(皮肉な事に謎のフィルムは此の傍で撮影された)
 ギャルソンはVRプログラム『BOATLER』にも詳しい。ギャルソンは説明する、・・・ ・・・
 此のVR世界BOATLERのアクセスメンバーは三十三万人。
 其の内、四百人がVIPメンバーと呼ばれて居る。
 VIPは、BOATLER*WORLDインサイドに自己デザイン可能なLAND(ランド)を買って居る。LANDは所有者VIPの趣味で彩られた仮想地区。他のアクセスメンバーに開放されたフリーLANDも在るが、入場料を支払って入るLANDも多い。最近人気は、ANIME LAND 8801だ。反重力で仮想香港の空に浮かぶLANDで在る。其処に入ると、アニメの世界に入った様なVRアピアランスが広がる。ANIME LANDでは入場に伴ない、自動的にBOATLERらはアニメ化される。(アニメ風アバタールで無い者もアニメ風に描き換えられる。)そういう面白LANDだ。

 兎に角、BOATLER*WORLDは地球そっくりに作って在り、リサーチ時間を短縮出来る様だ。そして、或る独裁国家の製造したロボット『メカヘッド』が我々を探し回って居る事も知らされた。(プレジデントは、其の事を私に注意した。)我々は香港映画資料館ライブラリ等をはじめ、くまなく香港を探索。新たな手掛かりが見つからず、暫し解散した。(私、クリントは馴染みの町の在るシシリーに戻った。)

 イタリアの南、シシリー島へ向かうカーフェリーの港に着いた。出港迄、二時間有る。『東マレーシア映画社』から借りて居るホワイトジープでシシリーに向かって居る所だ。シシリーは南国、私は寒さが苦手だからシシリーが好きだ。若者はシシリーが余りの田舎故に出たがる。(名作映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のトトもそうだった。) 若者は総じて田舎が嫌いだ・・・。若い頃は其れで良い。だが今の私にとって、シシリーは静かで他人に邪魔されず何かを考察するには良いカントリーサイドだ。フェリーは五時十五分から車両積載が始まる。私は休暇はエレクトリックパッドを持ち歩か無いので、車両積載時間を忘れぬ様、記す為にカズオ・イシグロのペーパーバックの余白を利用した。
 フェリーでシシリーへ渡り、島の『アンヘルアパルトマン』に借りて居る部屋から、香港で加入したBOATLERにアクセスした。此のVRでのVIPは無作為に選ばれる様だが、何故か私はVIPメンバーに成って居た・・・・・。暫しシシリーで過ごした。毎日の様にBOATLERにアクセスして居た。

 そんな或る日・・・。
私は其の時、BOATLER*WORLD内のお気に入りLANDに為って居た、ANIME LANDに居た。もう随分長居して居た。ANIME LANDには『クラブ・ココナツグローブ』と云うリゾートが在り、其のリゾートは南国風の風物や背景がアニメ化されて居て、アニメ世代の私には夢の中に滞在して居る様な心地よさが感じられるのだ。此処はVRならではのハチャメチャさも有った。リゾート内には『おりおん』というマイアミ風のカフェが在るが、隣には北京風の茶屋レストランも在る。其の向うには『イタリア・トスカーナ荒野』と名付けられた南欧の乾いた風景がアニメ化されて居る。全てルンバ女史とか云う所有者VIPの趣味らしい。だが私は其れを気に入り、カフェ『おりおん』の傍に長期滞在し、毎日の様に『おりおん』に居た。客らとも顔馴染みに為った。
 此処に来るBOATLER達は、別に海の男でも無いのだが、海の男風の内装が好きらしかった。馴染みの女性客らも出来た。グリーンレディ・アニタやシャンシャンとは親しくなった。(だが、バーチャル世界だけでの事だ。)
 そうこうして居る内に、なんと、TAKAKURAとギャルソンが、実は生き別れた兄弟だった事が判明。事件は何時の間にか動いて居た。TAKAKURA、ギャルソンらはジャングルと化した映画スタジオで『ランラン・ショウの手記』を発見したのだ。其処に書かれて居たのは、或るマケドニア正教会聖堂にイエス・キリストの奇跡の衣を隠した、と云う事だった。
 私、クリントはマケドニアに飛び、其の聖堂をBOATLER*WORLDのVR上に再現した。

 私、クリントは、ギャルソンとVR世界で再会。
 ギャルソンとVRで再現されたマケドニア正教会聖堂へ入る。聖堂内には階段が在り、鐘楼へ続く階段が不自然に長い・・・。実は階段の途中の壁に隠し扉が在ったのだ。私、クリントは其の部分までしっかりとBOATLER*WORLD内にVR再現した聖堂を作りこんで居た。
(クリント:)「此処だよ、此処に隠し部屋が在る。」
(ギャルソン:)「なる程、クリント君、流石だ。よく作り込んで居る。」
 我々二人は隠し部屋へ入った。其処には三百六十度壁一面に巨大な壁画が在る! 昔の町の光景だ。鍛冶屋、本屋、服屋、馬小屋、宝石屋、パン屋、学校、薬屋が描かれて居る・・・。
(クリント:)「独裁者から秘宝を守り、眩ませる為にかつて修道士らと共にミスター・ショウは其れを絵画に隠したのだな。」
(ギャルソン:)「手記によるとキーワードは、『イエズス・クリストの生まれた場所を探せ』・・・だ。」
(其処へ追って現れたTAKAKURA:)「 (気取り笑) ハッハッハ。で、貴方達は馬小屋の絵に何か在る、と思ったろう? 其れが甘いんだな、イエズス・クリストはベツレヘムで生まれた・・・。ベツレヘム、ベイト・レームの二語から成る単語、ヘブライ語だ。意味は、『パンの、家』だ・・・、分かったろう?」



[実体]がマケドニアに最も近い私クリントが、実際の聖堂隠し部屋のパン屋の壁画奥から秘宝{聖衣}を見つけ出した。そして聖堂を出てジープに乗った所で、『奴』(メカヘッド)のヘリの急襲に遭った!
 私クリントはホワイトジープの中。ヘリがホワイトジープにミサイル発射。爆発でジープは崖から湖底へ落下。私クリントの意識が遠のく。
 暗闇に一瞬、眩い光が近づき遠ざかる。
 パワーアウトしたかに見えたホワイトジープ内の計器が次々に再点灯。私は意識を取り戻した! 車内モニターにプレジデントが映る。
(プレジデント:)「クリント君、其の程度では壊れはしない、私のホワイトジープはね、『グリーンホーネット』のケイトーがやった程度は改造して在るんだ」
 私は其のまま湖底をドライブし、対岸の草むらから陸に上がった。そしてテサロニケ迄、其のままホワイトジープで向かった。
 (後で聞いた話だ、)プレジデントは其の頃、テサロニケのTAKAKURAに連絡を取って居た。
 TAKAKURAは、テサロニケの行き着けのパスタバー(タバーン)でプレジデントからの音声通信を受けた。
(プレジデント:)「大学生のころ、映画について語るために、友人らと夜じゅうレストランやカフェでかたったりした日々があった。あの時代、「映画」はいつも一つの事件だった。Twenty something years later...時代過ぎ、私は夜じゅうVRにアクセスしている」
(TAKAKURA:)「そうですね、90年代、映画は事件で在り体験でした」
(プレジデント:)「今は映画を体験出来る時代と言えるかも知れない」
(TAKAKURA:)「用件は?」
(プレジデント:)「体験せよ、BUSAN-b」
(TAKAKURAは:)「は?」 (プレジデント:)「これを見てくれ。」
 TAKAKURAのVRゴーグルにCMが入った。
@@@@@ @@@@@ @@@@@
BUSAN広域市そっくりに、VRスペース上に構築された仮想LAND。ハードボイルドなアバタールらが闊歩する。
アランドロンを超えた! ハードボイルド・エンターテインメント、『BUSAN-b』
@@@@@ @@@@@ @@@@@

 プレジデントは云う、何事も自分より上が居ると。彼は教会でイエスへのとりなしの聖母マリアに祈りを捧げる中で其れを感じると云う。彼は直感的目利きでも在る、此の一見エンターテインメントVRとして造られた仮想スペース(BUSAN-b)に、秘密を知る者がアバタールとなって住んで居ると感じた。次元宇宙船の正確な位置を知る者が。
 TAKAKURAは既に感じて居た、エネミーはテサロニケ迄追って来て居る、と。
 なぜなら昨日、TAKAKURAの別れたはずのかつての恋人が、彼のルームに現われたから。だが其れはホログラムだったから。きっと『奴』だ。『奴』はTAKAKURAを監視していた。メカヘッドは既に、TAKAKURAのバイオ・エレクトリシティ・ウェーブを手に入れた。
 再びホログラムが彼の前に投影された其の時、TAKAKURAはルームの窓から脱出しBUSAN-bへジャンプインした。メカヘッドも又、(TAKAKURAのバイオ・エレクトリシティ・ウェーブの波動を追い)BUSAN-bへとジャンプインした!

[BUSAN-b]
 BUSAN-bにおけるTAKAKURAの活動報告(後に受領した)
 ---by TAKA KURA---
XXXXX其処はあくまでも仮想スペースとしてのBUSANだ。実際のサウスコリアBUSAN広域市をVR上に再現した空間ではあるが、それは地理のみ。ここには、ハンフリー・ボガード映画の様なハードボイルドな体験をバーチャルでやってみたいという、好事家が集まる。だから平和な本当のBUSANとは大違い。ヤバイ処だ。
 『サウスコリア』の玄関でもあるBUSANだが、それゆえに港からメイン駅への地理はダイナミックに設計されている。BUSAN-bも同様の景観だ。VRテクノロジーの凄さに驚愕だ。空にはアシアナ・エアのフライト便も飛んでいるという凝り様だ。レイト・ティーンの頃、親の都合でLAのハイスクールへ転校した。其の時のフライトがアシアナだった事を今も覚えて居る。正直な所、ハイスクールでは殆ど勉強しなかった。否、決して学問を軽んじて居たつもりは無い。母方にはユダヤ系も多く、常に「学校に行って只座って居るだけでも良い、其れが学問に敬意を払う態度に成るから」と教えられた。下校後はハリウッドスターの載って居るマガジンばかり見て居た。其の幻惑にクラクラした。其の事で頭が一杯だった。一九九〇年夏、LAライフは其の様に過ぎた。
 私TAKAKURAは其の事を懐かしく思い出した・・・・・・。
 90年代以降、世界に於ける東亜細亜のハブ・ロケーションのウェイトとして『SOUTH KOREA』、つまり韓国の存在は大きく成るばかりだ。非常に元気な国でも在る。其の食文化も世界に知られて居る。『辛』銘柄の拉麺を時々食べたく為るファンも世界中に居る。ハリウッドもSFアクション映画『ダイ・アナザーデイ』や『クラウドアトラス』等で此の地を描く程注目して居る。
 プレジデントから私への『インフォ』は特殊サテライト回線を通って、私のヘッドフォンに送られて来るが、ハイスクール時代からの癖で、又、其れを聴きながら村上春樹の小説を読んだりして居るのだ。(ハイスクールでテクストを見ながら、陰でハリウッドスターの写真集を眺めて居た頃と何も変わっちゃ居無い)
 兎に角『インフォ』に依れば、釜山港建造の時に海底で発見された遺跡は其のままの姿で、釜山港地下ドームに保存され続けて居ると云うのだ・・・!

 BUSAN-b内・釜山港到着後ホテルに居た私のセルフォンが鳴った・・・・・・。
「TAKAKURAサン、早速で申し訳有りませんが、地下ドームへ同行願います」聞き覚えの有る声だった。昔、プレジデントから紹介を受けた事が有る・・・。そう、『宇宙の女』(The Space Girl)だ。地球人類に非常に似て居るが肌の色がグリーン、という現在の地球人類には居無い種なのだ。私は『宇宙の女』と共に行った。彼女はスーパーエレベータへ私と共にENTERすると、『GO UNDER』のボタンを押した。
 釜山港地下ドームへ・・・。
 そして、やはり海底に鎮座して居たのはラージスケール・シバリンガムで在った。
(『宇宙の女』:)「TAKAKURAサン、そう、此れは言うまでも無く、シバリンガムよ。一万二千年前のパワージェネレータね」宇宙の女は、古来、此のシバリンガムを我物にし世界を征服しようと企てる者らが居る事を、私に話した。
「おそらくシバリンガムは古代スンダランドのテクノロジーよ」そう宇宙の女は言った。

Sundaland was most recently exposed during the last glacial period 'bout 12,000 years ago.
(そういえば米加州バークレーの研究室に居た時、スンダランドの事を少し聴いた)

 シバリンガムが幾つ存在するのか分からないが、安全なベースを建造し保管せねばマズい事に為るのは明白だ。一つは(沖縄周辺海域に在り)既に南アジアのパワーカンパニーが十分な管理をして居る。そして又一つは、ちょっと前に私のアーキオロジー・チームがテサロニケで発見した。其れは、(通称)『東マレーシア映画社』の管理下に置かれた。そしてこの釜山港アーティファクト(第三シバリンガム)だ。此の第三シバリンガムは最も研究が進んで居る。
 伝説に依れば、シバリンガムは巨大ロボットと成り、ゴーレムさながら魂を吹き込まれたかの様に動き出し、都市を襲った怪物と戦い、古代の人々を守った、と云う。 
 
 私は、そしてVR内の正教会司教からこんな言葉をもらった、「兎と亀、・・・を知って居ますか? 在り得ない事に亀が勝った・・・。何故だと思う? 兎はずっと、亀を見てたんだ。亀は兎を見なかった。只、ゴールだけを見てたんだ」

 私TAKAKURAはVR内BUSAN-bでエネミー(メカヘッド)に遭遇した。
 おそらく私には天使の守りがあった。VR内銃撃戦となったが、私はメカヘッドを出し抜き、奴を一時的に機能停止させた。そして、然るべきアバタール(PK)に会い、然るべき情報(次元宇宙船の在処)を入手した。(TAKAKURA報告了)

 XXXXXXX XXXXXXX
 
 私、クリントはテサロニケ入りした。
 積荷の秘宝(衣)を、テサロニケで待って居たTAKAKURAに渡した。
 TAKAKURAは、テサロニケからエーゲ海へ古代の哲人さながらに、衣を抱え、小型船舶で出港した。私、クリントも同乗した。

TAKAKURA:「キリストの力を受けた衣、此れこそが、光の速度を超えるパワー其のものだ。イエズスの力を受けた衣・・・・。イエス、そうだ、此れが次元宇宙船(THE INTER-DIMENSION SPACESHIP)のエンジンを動かす!」

クリント:「次元宇宙船、・・・其の話は聞いた事が有る。しかし眉唾だと思って居た。
写真は見た事が有るが、でっち上げだと・・・。あの写真は九〇年、サンタモニカに出現した時に撮影されたものだった。」

TAKAKURA:「古代スンダランド人は次元の扉を開くテクノロジーを持った。気候の危機に依る水没から逃れる為、民全体が別次元へ移住した。次元宇宙船に乗って」

クリント:「そうか、スンダランド人に会う為には次元宇宙船に乗らねばならない、そう云う事か。我々のテクノロジーは稚拙過ぎて次元エンジンを稼働させる程のエナジーを作り出せない。其れ故に、秘宝に秘められた力が必要・・・」

TAKAKURA:「そうだ」
 TAKAKURAがエーゲ海に衣を沈めると、異変が起こり、海底から『次元宇宙船』が出現する。次元宇宙船は、現代のメカニカルとは異なった文明システムの中で建造されていることは疑う余地は無かった。その独特のマテリアルの光沢は我々が造り出して来たものとは発生源の異なる異様さを持っていたし、形状は我々のメカニカルと全く違うバイオニックな幾何学性を見せていた。それは『生きているロケット』とでも表現したくなるような乗り物であった。
 突然イーストウッド主演SFメカアクション映画『ファイアーフォックス』の飛行メカが海面を飛ぶときに巻き起こるような水柱が立ち起こった。上空に飛行メカが! ギャルソンが新開発のフライングカーでやって来たのだ。そして彼は上空から縄梯子で降りて来た。

ギャルソン:「ふたりについて行きたくてね。きちまったのさ。アレクサンドリア図書館でスンダランドについても色々読んだ。次元宇宙船は、古代スンダランド人の末裔が今も住むと云う別次元(ANOTHER DIMENSION)へ行く事が出来る乗り物らしいな。半信半疑だったが、実際在ったんだな・・・」
TAKAKURA:「スンダランドとアトランティスは同時代に繁栄した古代国家だったと云って居るヨーロッパの研究者も居る。彼らの末裔に会いにゆこう」

 TAKAKURAと私クリント、そしてギャルソンは次元宇宙船に乗り、次元を超えた。
 
 だが、あの『メカヘッド』も次元宇宙船の尾翼に?まって居た!

 次元宇宙船は、スンダランド(別次元)へ到着する。
 其処は一面の砂漠だった・・・。
ギャルソン:「此処には何もない・・・。在るのは一面の砂の海だ・・・。」

 砂丘に突然、UFOが降りて来た。
 中から、女性型エレクトリックドール(ロボット)が姿を現した。
TAKAKURA:(エレクトリックドールに訊く)「君の名は?」
「エルゴス。」 彼女はそう名乗った。エルゴスは砂丘をスタスタと歩いて行った。
エルゴス:「砂丘の陰に、良いオアシスが在るの。其処で時々、水を浴びるわ。」
 エルゴスは砂丘のオアシスで水浴びをした後、三人の方へ戻り、言った、「貴方たちをずっと見て居ました。私は、エレクトリックドール。もう、此処には私しか居ません。」
 エルゴスは三人をUFOの中へ招いた。

##### 登場キャラクター エルゴス:
エルゴスは別次元で製造されたエレクトリックドールの最後の一体・・・。その金色の髪が風になびいている・・・・・・・・・・。
 エルゴスは言う、「此の次元の土地は『コルエレツ・ハビラー』(ヘブライ語:全地砂地の意)、もう、砂しかないわ・・・。」
 別次元スンダランド文明は既に滅亡して居た。戦争が彼ら自身を滅ぼしたのだ。全てが砂漠となり、エレクトリックドールだけがUFOに乗って、其の世界を彷徨って居た。その世界を見た事で、三人は『戦争の末路』を思い知った。

 其の時、次元宇宙船に?まって、やって来て居たメカヘッドが、こちらに向かって銃を向けて居た!
メカヘッド:「スーパーテクノロジーを頂く!」
 一瞬、騒然と為るが、ギャルソンがメカヘッドを制止する。
ギャルソン:「銃を下ろせ。スンダランド・テクノロジーはもう必要無い・・・。」
 ギャルソンこそが、メカヘッドの主人で在り、謎の独裁者だったのだ・・・!
ギャルソン:「私は怒りと憎しみに捕らわれ、世界に君臨しようと考えて居た。だが、其れは間違いだった。今、怒りと憎しみに依って滅びた文明を見た・・・。此の選択はしてはならない、と分かった。」
 三人は全人類共存の志を持って、元居た次元に帰って行くのだった。


NEX CHAPT.

 彼方へ:
(TAKAKURAの手記より:)【20XX年X月X日の手記】
 私TAKAKURAは前の旅が一先ず終了した後、今後の研究テーマに思いを馳せて居た。私のテーマの中心には何時も文化人類学と民主主義が在る。此れ等に関わる時、様々な旅のミッションが何処からとも無くやって来る。

 ラテンアメリカ、初夏。
 朝五時に起床後、私は『マケドニア』へのフライトに搭乗する為の準備をした。暫く通称マコンダー島で研究生活を送った後でも在り、久々のミッション用の携帯品を揃えるのにもたついた。マコンダー島での日々は良かった。其処に居ると全てを忘れてしまう。此の時期、島は温度が上昇し、ジャングルの深緑は一層其の濃さを増す(此の土地には様々な過去を持つ放浪者が多いが、彼らの記憶全てをジャングルは覆ってしまうのだ)。ネイチャーの圧倒的パワーと甘美さを同時に私は感じる。夏季雨量増加が島内河川の流れを溢れさせるが其れは生命の躍動でも在るのだ。ラテンの民は、此の荒ぶる生命の力と其の光を愛でる。其の内、時間さえも忘れてしまう様だ。一日が千年の様でも在り、千年が一日の様でも在る土地・・・。私は暫く前、文化人類学で博士号を修め、一万二千年前に栄えたとされるスーパー古代文明の遺構を見て来た。だが此のマコンダー島に居ると、『一万二千年』が然程長い訳では無い様な気分にも為る。そんな場所に私の研究拠点は在るのだ。私が留守の間、隣に住む姪が此処を管理してくれて居る。彼女の愛犬は此処のガーデンにも自由に入って来る。私は其の犬(名はフランシスコ)にも暫し別れを云い、『マケドニア』へ出発した。

 そして、伝説の残る地マケドニアへ・・・・・・・
 飛行機はトルコ・イスタンブールを明け方出て、マケドニア・スコピエ市に午前八時半に着いた。基本的には予定通りだ。インターナショナル・ハウスからハウス・オーナーが迎えに来てくれて居た。スコピエ国際空港(かつてはアレクサンドロス空港と呼ばれた)からインターナショナル・ハウス(Iハウス)迄、車でソコソコの距離は有る。Iハウスが在るコミュニティの中心には騎馬に乗った英雄のスタチュー(像)が置かれて居た。此のモニュメントの御陰で、方向音痴の私はコミュニティで迷子に為らずに済みそうだ。
Iハウスは、騎馬の尻方角に在る、倫敦等欧州都市で御馴染サーカス型交差点の、センターファウンテン(スコピエの水は旨いと評判)より眺めた際、騎馬像ストリートから左三番目路地奥に建って居る。オーナーELVIC(エルビック)と其のパートナーZAA(ツァー)は、私がスコピエ滞在に早く慣れる様、色々アドバイスした。まず、食べ物だが、スコピエ市民のブランチによく出るのが『ブーレ』だ。此れは昔ルシアン・コミュニティで時々食べて居たピロシキに似て居る。
 大体の生活物資(食料含む)が手に入るグリーン・マーケット(市で在る)へ行って見る。私は基本一日二食だが、此の市場で最初のブランチを済ませた。ブーレの具にチーズとスピナッチを入れたモノだ。そしてマケドニアでは定番のヨーグルト(ブルガリアとの関係性も大きい此の地ではヨーグルト飲料は欠かせ無い)。六〇デナリ。約一米ドル。マケドニアの通貨は『デナリ』だ。気候や風土はカナダ西岸(バンクーバー島)を思い出させる。ファーストネーションの長老の言葉を聴く為、昔一年居た。あの土地と、緑の色が似て居る。私はIハウス周辺を散歩し其の緑を楽しんだ、手に市で買った一キロ(マケドニアの重量単位はキロ)のアメリカンチェリーを持って(大粒アメリカンチェリー一キロ=百デナリ=約一・五米ドル)。散歩中、チキン丸焼きの屋台店を見付けた。一つ百五十デナリ(約二・五米ドル)。旨い。水はファウンテンでFREEだ。
 Iハウスが所有して居るファームで暫し農作業をした。チェリーやベリーが実って居た。その後マケドニアンスタイル・ディープ珈琲をワンカップ頂いて、センターに在るマケドニア考古学博物館へ向かった。昔、民族学博物館関連の仕事で出会ったミズ・レンフィルドが其処を高く評価して居たからだ。素晴らしいコレクションだった。正にアレクサンダー時代からのヒストリーを体験したかの様だった。そしてオールドバザールでゆっくりプレジデントの『インフォ』を再度視聴した。プレジデントは最後に『セ・グレタメ』と言って居た。此れはマケドニア語で、SEE YOU(又ね)と云う意味らしい。

 夏。
 スコピエ郊外に在る『MATKA』(マケドニア語:子宮)の地を調査する。水源でも在る。水はかなり冷たい。此の地を訪れた者の中で「MATKAにしては冷た過ぎる」と云うジョークを言う者も居る。(ここはダムとしても巨大なエレクトリシティを産み出して居る)
 私TAKAKURAは『東マレーシア映画社』では、カヴァー・ストーリーとしての映画等の製作・企画も担当する。カヴァー・ストーリーとは、捏造された物語の事だ。真実を混乱させる事で市民生活を安定させる効果も有る。例えば(或る人々は云うが)、スティーブン・スピルバーグ監督・脚本映画『未知との遭遇』(一九七七年)は一つのカヴァー・ストーリーだ。既に宇宙人らとコンタクトを取って居たUSAガバメントは其の事を一般化する為にまず、映画に依って市民に『宇宙人(エイリアン)との交流は此の様なモノだ』と伝えたのだ。天才監督の映画作品に依って人々は宇宙人に慣れた。実際の宇宙人との共同作業が如何なるモノで在るかは見せず、平和的交流で在る事が大切だった。
 今回、私、TAKAKURAは世界各地の古代シバリンガム遺跡の存在を、一般的には混乱情報として捏造する役割をも担って居る。今回の捏造情報は漫画メディアを利用する。プレジデントが其れを指定して来た。現在ヨーロッパ全域に流布して居る、MANGA/ANIMEカルチャーが既に若年層の間ではワールド・コモンセンスとして従来の映画以上の広がりを見せて居るからだ。
 そうして、私はΠETPOBパーク(公園)でアジア系漫画家M(マクシミリアンのイニシャルだと云う説アリ)に会う事に為った。
 ΠETPOBパークはマケドニア首都スコピエ市郊外に在る。
 Mはミステリアスな人物らしい。
 Mは昼頃ΠETPOBパークで食事するらしい。
 Mはライ麦パンとサーディン缶、そしてアップルジュースをパークのベンチで食す。
 Mはアロハに半ズボンの出で立ちが多い。Mは靴下を穿かず、素足にモカシンを穿く。Mはアジア系らしいが、恐らく日本人では無いだろう。日本人で靴下を穿かないのはJと云う俳優だけだそうだからだ。
 MはΠETPOB像の傍のベンチが御気に入りらしい。昼食後は其処でアジア系の情報マガジンを暫し読んで居るみたいだ。今回は直ぐに判別が付く様、『メルトフ・ポリツァヱツ』(英語でデッド・コップの意)と云うペーパーバック小説を持って居る約束だ。
 
 数時間後、Mに会う。Mは噂通りの男だった。アロハと半ズボンでやって来た。前情報通り、靴下は穿いて無い。半ズボンはギリシャ模様のモノを穿いて居た。彼は何時からプレジデントと知り合いなのだろう? プレジデントのネットワークは世界中に広がって居るから、全く訳が分から無い。私としては80年代の漫画はよく読んで居たが、近年殆ど新作を読ま無く為ってしまい、Mの作品を知ら無い。Mは本当に『MANGAKA』なのだろうか? そもそも『M』と云う呼称も何だか怪しい。『ダイヤルMを回せ』(アルフレッド・ヒチコック映画作品)、『Mバタフライ』(ジョン・ローン主演映画作品)、ジェームズ・ボンドのボス『M』、・・・怪しいコトにはMが付く。
 Mが来る迄、パークでヌンチャク(NUNCHUKS=雙節棍)の練習をしていた。時々ヤバい事に巻き込まれる『東マレーシア映画社』のビジネスでは、此のマーシャルアーツが自衛の為選ばれて居る。プレジデントがブルースリー好きって話もある。私はプレジデントの紹介で、かのウォン・フェイホンからの流れを汲むマーシャルアーティストに広州でヌンチャクを教わった。

 Mは今から直ぐにテサロニケへ向うと云う。突然の移動だ。テサロニケの海には現在『東マレーシア映画社』管理下のシバリンガム遺跡が在るが、其れは既にエナジーを使い果たしてしまい、今は只の遺構でしか無いはずだが・・・。まあ、いい。Mがそう言うなら共に行って見よう。・・・と言っても、スコピエからテサロニケ迄の便は多く無い。ギリシャ経済危機以降、トレインは早朝四時四十五分出発便のみだ。
 我々はパークから5番ダブルデッカーバスに乗り、センターのアレクサンダー大王像広場迄まず、移動した。私の、TAKEO KIKUCHIデザインのリュックには取り敢えず程度の荷物しか入って居無い。必要な物はあっちで手に入れられるだろう。
 トレインの出発時間迄十二時間も有る。私たちは少々腹拵えをする為に『ペキン・ガーデン』と云うチャイニーズ・レストランに入った。CHOW-MEINはなかなかの味だ。そしてオールドバザールを少し歩く。
 Mは言った、「まだ数時間有るが、そろそろテサロニケ行のチケットを買っとこうか」。マケドニア国鉄のスコピエ駅はオールドバザールから歩いて其れ程遠くは無い。チケットは十二ユーロ。五時間弱のライドで在る。スコピエ駅はジャイアントな造りだ。旧共産圏的な堂々とした長いプラットフォーム群が設計されて居る。ジャイアントでシンプル。共産時代と連動するアールデコ風建造物はコミューン思想実現を目指して邁進した二十世紀夢想の残香。
 トレインライドの前に、Mは私をスコピエ駅傍のナイトクラブへ誘った。音楽(ムジカ)にノッて踊る女性達を見ながらマケドニアの酒を飲んだ。此の地バルカンの音楽は独自の発展を遂げて居る。エスマ・レジェポバ、ディノ・マーリン、キリル・ジャイコフスキ(彼のサウンド『ジャングル・シャドー』は、スパイアクションテーマ曲懸ったクールなローファイコンテンポラリーで、正に我々『東マレーシア映画社』の為のソングと云う感じ)等が掛かって居た。確か前のミッションで一緒だった仲間、クリントのパートナーはマケドニアのクラブハウステクノに興じて居た、と聞いた。

 Mはテサロニケ行トレインに乗ってからはずっと黙ってヘッドホン・ステレオでムジカを聴いて居た。彼はアジア人の様だが、生まれは香港だろうか・・・、イヤホンから少し漏れて聴こえるサウンドはどうやらフェイ・ウォンの『夢中人』だ。ヘッドホン・ステレオはSONY製ウォークマン。情報では、彼がスコピエに住み始めたのは十二年前だと云うが・・・・・・・・・・。ふん、詮索するのは止めよう、私の性分じゃ無い。どうでもいい事だ。私は其れ程他人に興味は無い。
 等と考えて居ると、MがふとウォークマンをPAUSEして口を開いた。
「私の事が気になるんですか、ムッシュー・TAKAKURA?」
 私は別にどうでもよかったのだが、「いえ、どうでもいいです」と云う応えは多少失礼かと思い、黙って居た。するとMは「そうですか、ふうむ。私の事が気になるんですね、・・・では少し私の事を話しましょうか」と言う。
 私は思った、「ヤッバー。此の男M、思わせ振りな雰囲気を醸し出して、本当は自分の事を話したくて仕方無いタイプだ。で、大体こう云う手合はろくな事言わ無いんだよね、聞かなきゃ良かったってな事言うタイプだ、此のM・・・」。(冷や汗)
 Mは微笑して喋り始めた。
「結論から言えば、私は吸血鬼の血を引く漫画家です。いえ、漫画はそんなに売れてません。ロンドンのウエストエンドに在るインディー系のコミックショップで少々売って居る位です。プレジデントとは十五年前クアラルンプールで会いました。彼は私の漫画を気に入り、其れで時々『東マレーシア映画社』から依頼を受ける様に為りました。フェイ・ウォンを聴いて居た事から、香港出身と御思いでしょうが生まれは倫敦中華街です。母はウエストエンドのアジア系女性ダンサーでした・・・・・、父が東欧から倫敦中華街に移り住んだ吸血鬼だったんです」

 は? 

 やはり此の男、やばい奴だった・・・、私は返す言葉も無く黙って居た。

「あ、ムッシュー・TAKAKURA。私の父の事、知りませんか? 父の事はロンドンの文筆家だったブラム・ストーカー氏が書いて居ます。そう、あの吸血鬼ですよ、私の父親は」とM。

 やばいよ、此の男、狂ってるぅ・・・。

 Mは続ける、「私も歳を取った。もう一五〇歳ですからね。(えっ、何だって? 此の男、せいぜい五〇歳位にしか見え無いが!) 父はストーカー氏が書いて居る様に、ジョナサン・ハーカーらに倒されました・・・。私はひっそりと母に育てられました。私は父の様に人間社会を破壊するつもりは有りません、半分は人間ですから・・・。たまにロンドン生活時代を思い出しますよ。マケドニア共和国では静かに目立たぬ様暮らして居ます。スコピエ市郊外の、Γopчe ΠETPOB(ギョルチェ・ペトロフ【1865-1921・革命家】)雄姿像界隈コミューンはなかなか居心地が良い」。
 Mは私を不気味に見つめ、そう話すのだった。全然話さなくていい事をペラペラと話されて迷惑だ・・・、一緒に同じトレイン・コンパートメントに居るんだぜ、仮眠も取れ無いじゃないか!
「あ、いえ、ムッシュー・TAKAKURA、御疲れなら寝て下さい。到着まで充分四時間は有りますから」Mは見透かした様にそう言うのだった。私の額から膝に汗が数滴落ちた・・・。
「あ、私の話、ジョークですよ、ブリティッシュ・ジョーク!」Mは突然そう言った。だが、本当にジョークなのだろうか、数々の超常現象を見て来た私にとって彼の云った事も又リアリティを感じさせた。考え過ぎても仕方無い、私は目を瞑り寝た振りをした。

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