第1話

文字数 912文字

 僕はひどく疲れていて。あまりにも疲れ過ぎていて、何に疲れていたのかもも、よく分からなくなっていた。
 山本彩の声が心地よいから、月曜の夜はSPARKをリアタイで聞いてるけど、今晩はさすがに聞けそうにない。
 あとは泥のように眠るだけ。
 この広大な世界の中で、僕なんかがすっかり疲れて泥のように眠ったって、誰も気に留めやしない。誰も心配なんかしない。
 当たり前だ。
 僕だって、誰かを本気で心配したことなんかなかったんだから。
 そういう薄情な僕が薄情な思いをさせられるのは、当たり前のことだ。
 当たり前、当たり前。便利な言葉だ。
 僕は安易に当たり前を連発し、何も考えないようになっていた。大枠は全て決まっている。それに、枠の外に出ようともがくのは、無駄な努力だ。無駄な努力を続けるほど、僕はエネルギッシュじゃない。すぐ疲れて、すぐ泥のように眠るだけ。
 何をやっても受け入れられず、冷笑され、怒鳴られるだけ。「僕は冷笑され、怒鳴られるために生まれてきたんじゃない」と思うけれど、思ったところで、口に出さないどころか、表情にも出さないのだから、そんな感情、見た目は無いのと同じ。
 ああ、「見た目は無いのと同じ」だなんて。僕の存在そのものじゃないか。路傍の石に注意を払う奇特な人はいない。気づかれたところで、路傍の石を投げつけられるだけ。
 知らないんだよ、オープンハートの人は、投げつけられる石の痛さを。痛いよ。とても痛いよ。とてつもなく痛いよ。
 そういう痛さが積もり積もって、耐えらなくなると、あとは泥のように眠るだけ。おやすみなさい。寝つきは悪いけど。脳が興奮状態で、朝まで眠れそうにないけど。
 こんな僕でも、路傍の石の的ぐらいの役には立っているのかな。うん、少しは役に立っているような気はする。今日は誰かに「ありがとう」と言われたから。どんな場面で、誰に言われたかもよく覚えてないけど、確かに言われた記憶はある。その記憶を糧に、しばらくは生き延びようかなと思う。その記憶を糧に、来週はラジオが聞けるはずだ。きっと。たとえ「ありがとう」が幻聴でも僕は構わない。そういうかすかな妄想を人は夢と呼ぶのだから。いい夢見て、おやすみ、僕へ。
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