第1話

文字数 2,118文字

一月十六日、今日は久しぶりに太陽が顔を覗かせてくれた。
雪が照り返す陽の光は、目に痛い程の輝きを見せていた。
しかし今は、時折空から細かな雪が音も無く庭に落ち、シンシンと積もって行く。
「初めまして。私の名前はクーちゃんです」
「みんながそー呼んでいるの」
「三人姉妹の、末っ子なの」
「そして今日は、私のお誕生日。三歳になるのです」
「そーなんです、真冬に私は生まれたの」
「そんな私なんだけど、冬は大嫌いです」
「だって、雪は積もるし、寒いし」
「そんな私に、おじいちゃんは『クーちゃんは、寒がりだなー』と言っては、何時も優しく抱っこしてくれる」
「今日も寒がり屋の私は、おじいちゃんの横でタオルを掛けて眠っているの」
「我が家は床暖房だから、タオルでもぬっくぬくなんです」
「おばあちゃんが作ってくれたお昼ご飯を食べたら、眠くなったの」
「とろり、とろり、とまどろむのは何と気持ちのいい事でしょう」
「どの位眠ったのだろうか、いきなり玄関がガヤガヤと騒がしくなり、大きな声が聞こえて来ました」
「お姉ちゃん達が、雪遊びから帰って来たみたいです」
「一番上のお姉ちゃんは小学校五年生の『サリーちゃん』そして小学二年生の『ココちゃん』
「私は、漢字が良く分からないけど、二人のことを皆がそう呼んでいるの」
「二人の姉は私と違って寒いのは平気で、いっぱい外で遊んで帰って来る」
「寒いのが平気と言うより、二人は雪遊びが大好きなのだと私は思う」
「私とは、性格が全然違うお姉ちゃん達なのだ」
「私は、おじいちゃんの座布団でぼんやりと目を開けると」
「クーちゃん、ただいまー」
「私の目の前に二つの顔が並んでいる」
「あーあ、まったく。目が覚めてしまったじゃないの。もう少し小さな声でも良いのに」
「でも、そんな思いもガマンして口にはしなかったの」
「チョット首を伸ばして大きな窓ガラスを見ると、雪は止むことも無くまだ降っている」
「少し暗くなった空を見上げると、大きな雪がクルクルと回りながら落ちて来る」     「あーあ、ずーっと見ていたら目が回りそうになっちゃった」
やがて玄関に「ただいまー」とママの声が聞こえて来た。
「ママは、お仕事とお買い物を終わらせて帰って来たみたい」
「私は、居間から玄関に大急ぎで走ってお出迎えしたの」
「ママは私を抱き上げると、頬にキスして『クーちゃん、ただいま。いい子にしていた』
「私は大きな声でお返事したのですが。あーぁ、私の声は外を走る除雪車の轟音にかき消されてしまったみたい」
「私はママに抱かれたまま『クーちゃん、ママは晩御飯の支度をするから、いい子にしていてね』
「私が小さく肯くと、ママは私を廊下にそっと下ろして台所に入って行った」
「私が居間に戻ると、サリーちゃんとココちゃんはテレビを消され、宿題を前にぼんやりと座っている」
「何時もは優しいおばあちゃんも、この時ばかりは叱咤する『サリーちゃん、ココちゃん。宿題をちゃんとやりなさい』
「二人のやる気の無さは、私が見ていても良く分かる」
「二人は宿題をテーブルに広げたまま、鉛筆をかじったり、足の爪をいじったりしている」
「またも、おばあちゃん雷が二人の頭に落ちて来た」
「二人共、いい加減にしなさい」
「ふあーぃ」
二人は「イヤイヤ」ながら、宿題を始めた。
「三歳になる私が言うのも何だけど、困った二人なのです」
「私は二人の気が散らないよう、音を立てず座布団に座った」
二人はやがて、宿題を終わらせると、テレビのアニメを噛り付いて見始めた。
「二人の眼差しは、真剣そのもの」
「ダラダラとやっていた宿題とは大違い」
「この集中力を、宿題に活かせたら良いのにね」
「私は、漫画もアニメも興味の無い女の子だから、テレビはゼンゼン見ないの」
「えらいでしょう」
「それより、台所からいい匂いがして来るのが気になる」
「お肉を焼いているみたいないい匂いが」
「きっとママは私の誕生日の為に、ご馳走を作っているのね、晩御飯が楽しみだなー」
間もなくパパが帰って来ると、皆でテーブルを囲んで晩御飯が始まった。
「私はママの横に座ると、何だか少し緊張気味になって来た」
「皆の目が私の顔を『ジッ』と見ているのです」
「おじいちゃんとおばあちゃん、パパとママ、そしてお姉ちゃん達が」
「皆が『クーちゃん、お誕生日おめでとう』と言ってくれた」
「おばあちゃんが「クーちゃんも三歳になったのね」と優しく頭を撫でてくれたの」
「おじいちゃんは『クーちゃんは手足は長くて、顔は美人さんだから町内でも評判なんだよ』そんな事を皆に言っている」
「フフフ、それってホントなんです」
「私が町内を歩いていると、よく声を掛けられるの」
「昨日の朝も『クーちゃん、おはよう。なんて可愛いの。食べちゃいたいくらい』なんて近所のおばさんに言われてしまいました」
「フフフ、私の自慢話です」
「クーちゃん、お誕生日のご馳走だよ」
「ママは、私の目の前に大きなお皿を出してきた」
「お皿には、お肉や野菜そして果物も入っていて美味しそう。私のお腹がグーグーと鳴りました」
「私は思わずよだれが出そうになったけど、必死で我慢して皆にお礼の言葉を言ったの」
小さな尾っぽを一生懸命振りながら感謝の言葉を「ワンワン」と。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み