ねこ

文字数 834文字


私にはご主人様が居る。
根暗で、特筆すべきところの無い平凡な人間ではあるが私を拾い餌をくれるとても優しい人間だ。

私はそんな彼を気に入っているし生涯彼に飼ってもらうつもりでもある。

ある夏の暑い日私は野良猫として餌を探しに歩いていた。その日は特に暑く頭がぼーっとしてきて足取りも重くなっていた。そんな私が道を歩いていても人間は気をつけることは無く車に轢かれそうになっている所を助けてくれたのが我がご主人様なのだ。

彼は恐らく運動なんてしてこなかったのだろうがもやしのようにひょろひょろとした体格に病的なまでに白い肌。見るからに運動神経は悪そうである。
そんな彼が自らの命をかけ、猫である私を助けてくれたのだ。さすがに私にも猫としてのプライドというものがある。故にこうして私は餌を貰いご主人様は私に癒される。そんな関係が成立しているのだ。



さて。

時刻は午後22時。普段ならもうご主人様が帰ってきて餌をくれる時間だ。なのにご主人様は餌をくれるどころか帰ってきてすらいない。恐らく友人なんて居ないであろう彼がこんな時間まで外にいるとは考えられないし仕事で遅くなる、とも言っていなかった。

妙な胸騒ぎがする。落ち着かない。
もしかしたら─────
そんな嫌なことが脳裏によぎる。
だがこういう予感は大抵当たるものである。




時刻は24時。さすがに遅すぎる。もうお腹がすいてきたし眠くなってきた。

野良猫の頃を思い出す。あの頃は満腹と言う感覚を知らず常にお腹がすいていたように思う。
まだ半年ほど前のことであるがどこか懐かしく感じるのはそれほどご主人様との生活が充実していたということであろう。

まもなく視界が暗転しそうになっていた私を現実世界へと引き戻したのは扉を開く音であった。

帰ってきた! そう思い私はいつもならお出迎えに行くのだが今日は攻めてもの仕返しだ、とリビングで寝たフリをすることにした。

「あら、あの子ったら猫を飼っていたのね。世話はどうしましょうか。」





こういう予感とは大抵、当たるものである。
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