星降る星の日常

文字数 2,830文字

【起】
 アトロポス彗星の軌道と地球近傍天体(NEOs)の一つであるアポロ群の軌道が交差した。はじき出された小惑星の地球への落下を食い止めるのは細胞操作、禁忌とされた技術によって生み出された子供たちだった。
 兄はカストル、弟はポルックスと呼称された双子。神話になぞらえられた理由、それは兄は人の体、弟は機械の体であったから。双子の共感性を科学利用し、弟は宙をかけ、兄は軌道ステーションから指示を出す。「誕生日には何がほしい?」「僕は猫がいいな」なんて子供らしい会話をしながら幾億もの命を救う、それが少年たちの日常だった。
【承】
 インド洋上の赤道付近にある、天へと上る軌道エレベーター。それを支え、繋ぎ止めるフロートシティ『レムリア』。
 不定期ながらもそこの学校に通うカストルはその日、同級生から呼び出され、殴り倒された。地球の守り手を傷つけたことで大騒ぎとなる学校。殴ってきたのはレムリアの初期開発工員の子供で、理由は不平等への不満、親の過酷な労働環境などであったが、それらは元をたどるとカストル達の活躍を支えるために強いられたものであった。そのことを知り、自分の存在が特別視されることで人々から受ける羨望、疎外感、そして地球を守るという意義、使命感。
 ステーション内の特別展望デッキは一人で雑念を振り払い、仕事に望む精神状態を作るには格好の場所だった。いつもは音楽を聞いていたのだがその日はごたつきのせいでプレイヤーを忘れた。おかげでそこは一人の場所ではなかったことに気が付く。
 すすり泣く女の子の嗚咽。彼女はもう一つの双子、クロトと呼ばれていた。兄弟とは別の宙域を担当する双子で、兄弟と同様、人と機械の一対。ハンカチを渡して去ろうとするカストルに「今日は歌わないの?」と。気恥ずかしい初めての会話だったがそれ以降、特別展望デッキで話すようになる二人。
 なぜ、こんなにも近くにいたのに知り合うことができなかったのか。なぜ、大人による自分たちの扱いが違うのか。それらの疑問を残しながらも二人は少しずつだが、距離が近づいて行った。
【転】
 相変わらず、大人たちは地球の希望だと吹聴し、それを聞き入れる子供からは慇懃無礼な振る舞いを受け、聞けぬ子供からは鬱憤の標的とされる日々であったが、カストルはクロトという同じ境遇の存在と触れたことでやる気を取り戻していた。
 そんな矢先、クロトは特別展望デッキに来なくなった。兄弟の担当する宙域外から飛来したNEOsの小惑星が地球に落ちたというニュースが流れ、オペレーションルームに戻ると部屋は大騒ぎだった。
 被害規模や、損害予想などがまとまると次に、事案の検証へ移る。調査委員会にオブザーバーとして参加させられたカストルは、当事者側の席にクロトを見つける。彼女を守ろうと発言するも一蹴され、最終的にはクロトとラケシスによる小惑星の停止作業ミスと決定されてしまった。その決定は、クロトの自由を奪うものだった。
 カストルは大人たちを騙し、クロトを連れ出す。地上へと連れ出そうとするも、それは叶わないとわかり、クロトはいつもの場所に行こうという。同じ存在であるはずカストルとクロト。しかしクロトには多くの機器が装着され、体は痛々しい痕がある。クロトから語られたのは、禁忌の技術に触れたのは自分の父であったことだった。
 科学の発展におぼれたクロトの父は同僚であったカストルの父を殺し、母に意識不明の重症を負わせ、双子の胚を二つ持ち出したのだということだった。扱いの違う理由がわかったが、カストルはそれを笑い飛ばした。入退室記録から、場所が割り出され、二人は引き離される。
【結】
 被害に対する謝罪や損害補償の会見が予定され、クロトが出ることを知るとカストルは、ある場所を尋ねる。それは医療センターにある母の病室。体は癒えていないが、意識はあり、軌道ステーションにおける統括責任者であった。誰もいない場所での会話。目的はクロトへの追及阻止。それはポルックスも賛同のことであり、命令を無視し、待機宙域から軌道ステーションへと移動していた。
 自分たちは意思を持つことも許されない機械なのか、と。
 会見が行われ、「謝れ」と言わんばかりのコメントを求められたクロトは、震える片腕を抑えながら立つ。そこにカストルは現れる。窓越しにはポルックスの姿もある。カストルは問いかけた。自分たちを機械だと思い、それが不良品だと言うのなら、きっと危険だろうから活動をやめようと思う、と。
 ポルックスは地球に向かって動き出す。
 大気圏との摩擦で焼かれようというのだ。共感性により繋がった兄弟は片方がいなくなれば、もう片方も消えてしまう。そのことを知っているクロトは泣きながらそれを止めようとした。禁忌だとか、罪だとか、自分に一切責任のないことを大人から押し付けられることを我慢し続けてきた二人は、思いのたけをここぞとばかりにぶつけ合った。
 そこは会見の場。瞬く間に二人のことが世界に伝わっていく。
 追及先を失い、騒然となる。そこにカストルの母はモニター越しに登場する。彼らは子供であり、そして大人の言うとおりに行ったのだから、そこに何らかのミスが生じたのならそれは、大人の言うことが間違っていたのでしょう、として再調査を宣言した。
 会見が終わるとクロトは緊張から解放されたのか気を失う。気が付くと体に付けられていた機械などが外され、治療されていた。
 モニターには「おはよう。特別展望デッキにて待つ」と表示されていた。患者着のまま、部屋を飛び出すクロト。大人とぶつかるが、妙に優しかった。上着を借り、デッキを目指す。そこで待っていたのは音楽を聞いていたカストルだった。死んでしまったのではという心配から、抱きつくクロト。
 すべてはカッコつけの親子による芝居で、嘘だったことを知り、初めて笑うクロトと連れれて一緒に笑うカストル。モニターからカストルの母が現れ、今までのことをクロトに謝罪した。
 原因調査により、小惑星軌道のデータ誤差が原因だったことが判明。クロトに責任ではなくなった。そして今までの待遇についても統括責任者として管理不足だった。
 NEOsの落下阻止が急務であり、その他がおろそかであった。
 カストルとポルックス、クロトとラケシスの今までの活躍によって、人類にも余裕が生まれてきた。惑星迎撃システムの構築も順調だという。とはいえ、君たちはやっぱり子供。無理強いはこれ以上したくないが、どうする?
 カストルとポルックスは、今日が誕生日であることを思い出す。カストルはクロトの自由を母にお願いした。母は喜んでと、できる限りのことはすると約束した。クロトは泣きながらもやらせてほしいと言った。「そこは『仕方ないからやってやる』くらい言っとけ」と茶化すカストル。「僕は猫がほしいです」とポルックス。子供らしい会話をしながら幾億もの命を救う、それが少年たちの日常。

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