其の一、つき子さんと初仕事①
文字数 1,834文字
そんな付喪神と共に成長した一人の新米女性記者がいた。名を
沙夜が幼少期の頃母親から
さて、そんなつき子さんと沙夜は常に一緒にいた。学生時代はもちろん、沙夜が社会人になった今も、職場である小さな出版社へと一緒に出社していた。付喪神であるつき子さんの姿は他の人には見えないようで、大人になった沙夜はなるべく外でのつき子さんとの会話を避けていた。つき子さんもそれは分かっていたので、外ではなるべく沙夜に話しかけないようにしている。
そんな二人がいつも通り今朝も満員電車に揺られて出社すると、沙夜は編集長から声をかけられた。
「何でしょうか?」
編集長のデスクの前に立つと、編集長は眼鏡の奥の瞳を光らせ口を開いた。
「京都へ飛んでくれないかね」
「京都、ですか?」
パッチリした
「単独で、京都の町屋カフェの取材をしてきて欲しい」
それは沙夜にとって思ってもみなかった話だった。普段、取材と言えば先輩記者と共に行動していたので、単独での取材となるとこれが初仕事となる。
「いいんですか?」
信じられないと言った風の沙夜に今度はしっかりと
「ありがとうございます!」
こうして沙夜の京都行きが決まった。
帰宅した沙夜は浮き足立っていた。
「初仕事! しかも京都だよ、つき子さん!」
「良かったですね」
落ち着いた柔らかな声音のつき子さんに沙夜は続ける。
「京都、八ッ橋、宇治抹茶……」
「食べ物ですか。沙夜は昔から花より団子ですね」
うっとりと
「京都は歴史の深い町ですから、何事も起きなければよいのですが」
「何も起きないよ、つき子さん。この近代化が進んだ現代に、一体何が起きると言うの?」
付喪神が
「無事に取材を終わらせて、無事に帰ってくる!」
鼻息を荒くそう言う沙夜に、つき子さんは柔らかな微笑みを返すのだった。
そして翌日、沙夜は当然のようにつき子さんと言う非現実的な存在を連れて京都に向かうのだった。
京都駅の広いバスターミナルに到着した沙夜は、ん~と伸びをすると一度深呼吸をする。新幹線にずっと座りっぱなしだった身体が伸びて呼吸が楽になる。観光客でごった返す駅前で、沙夜は目的地の
「すみません」
バスの路線図を見ていた沙夜に一人の老人が声をかけてきた。沙夜はゆっくりとその老人に目を向ける。
真っ先に目についたのは正面に『LA』と書かれた少し
「
しわがれた声で、それでも丁寧に尋ねられた沙夜は思わず自分の名を名乗っていた。
「沙夜さん。いきなり
謙四郎と名乗った老人の言葉は京都
「あの、祇園に出るバスを探していまして」
沙夜は謙四郎の方言が気になりながらも正直に答えた。沙夜の言葉を聞いた謙四郎は口元の
「そいやったら、あそこんバスに乗ったら良かですたい」
「え?」
沙夜は一瞬、謙四郎が何を言っているのか分からなかったが、彼の笑みと指さす方向でバス停を教えて
「あ、ありがとうございます」
「沙夜さん、
謙四郎は意味深長な言葉を残してバスターミナルを去っていった。沙夜はしばらく人混みに消えていく黄色のキャップを見つめていたのだが、
「バス、行ってしまいますよ」
「あっ!」
つき子さんの言葉にはっとして、慌てて