第1話

文字数 1,127文字

ピクニックと聞いて、あなたが想起するイメージは何だろうか。
その中にいるのは家族かもしれないし、恋人かもしれない。食べているのはサンドイッチかもしれないし、からあげかもしれない。
それぞれ思い描くものの子細は違っているだろうが、レジャーシートの上で持ち寄った食事を広げ談笑する人々の姿に、そう遠くないイメージを持っていることだろう。
「ピクニック」はタイトルの通りピクニックを楽しむ、とある一家の物語である。
その一家がどのような『困難』を乗り越え、今日の幸せにたどり着いたのかを紐解く小説だ。

「ピクニック」の一家で起きた困難とは、生後間もない赤子の死をめぐって起きた家族崩壊の危機のことだった。
不幸な事故と思われた赤子の死だったが、状況証拠から赤子の祖母・希和子に孫殺しの容疑がかけられてしまう。
犯人と疑われている希和子を救うため、娘(赤子の母でもある)・希里子は奔走する。
「母が私の娘を殺すはずがない」という絶対的な確信をもって。
警察との格闘の末、希里子は母を取り戻すことに成功し、まもなく第二子にも恵まれることとなった。
こうして『困難』を乗り越え、希里子たち家族がピクニックに出かける姿は非の打ちどころがない幸せな家族そのものなのだった。

 しかし、この物語は幸せな家族を映すだけでは終わらない。
この物語の核心は「なぜようやく幸せになったはずの家族の困難を、いまさら改めて確認する必要があったのか」というところにある。
そして「この物語を語っているのが誰なのか」という疑問を、読み進めるほどに抱くようになるだろう。

というのも、「ピクニック」の語り手は、あまりにも不自然な存在なのだ。
物語は全編を通して一人称で語られるのだが、語り手は奇妙なくらい一家の全てを知っている。
例えば、夫婦しか知らないはずの、希里子が第二子を授かったのは夫の単身赴任先でのことだった……ということを、当然のように語り手は知っているのだ。

 この語り手が何者であるのかは最後に種明かしが用意されているので、ぜひ推理を楽しみながら読んでほしい。
恥ずかしながら筆者の予想は外れていたのだが、答えを知ったときには思わず「そういうことか!」と唸ってしまうほど、作品の作り込みは見事である。
初読後にすぐ、もう一読したのだが、たった今読み終えたばかりの物語を読み返しているとは思えないような気づきが随所にあり、一文一文を改めて味わっていることに気がついた。
むしろ、二度目に読むときのほうが面白かったといえるかもしれない。
周回必須のため、時間に余裕を持って読むことをお勧めしたい。

語り手は、いつも真実を語っている。
語り手は、いつもあなたの目を見ている。
あなたが語り手の声に、視線に気づくのは、いつだろう?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み