第1話
文字数 1,488文字
私が憧れの彼女と出会ったのは、私が私として存在を始めてそれほど時間が経っていなかったように思う。
初めて出会った時から、彼女は他の誰とも違っていた。
シュッとしたスタイルも艶やかな黒色も、彼女にとてもよく似合っている。それに比べて、私は最初こそ少し角もあったけれどだんだん丸くなってずんぐりしてきた上に、あちこちに汚れも増えた。
時折、思い出したように手入れをしてもらえることもあったけど、時々、置いてけぼりを食らうこともある。その時はちょっと泣いた。涙なんて出なかったけど。
ここには、私と彼女の他にもいくつかの存在がある。
曲がることのできないまっすぐな彼と、いつも顔を真っ赤にさせて怒ったような彼と、同じくらい真っ青なのんびり屋の彼。
他にも何度か出会いと別れがあったけれど、私と彼女はいつも一緒だった。
そしてずっとずっと、一緒にいられるものだと思っていた。
ある日、見たこともない存在がやってきた。
彼女はどこか機械的な姿でぎこちなく動作し、そんな自分に戸惑っているようにも見えた。
「はじめまして。よろしくね」
機械的な姿のまま、その声もどこか無機質だった。私は「こちらこそ」と愛想よく返したつもりだけど、ちゃんとそうできていたかは自信がない。
機械的な彼女が来て、私は憧れの彼女と一緒にいられる時間が増えた。
私にとってはとても嬉しいことだ。
だけど、憧れの彼女はいつしか私と同じくらい小さくなっていた。
いつのまに? どうして?
そのことに気づいた時、私はとても驚き、その感情のまま彼女に聞いてしまった。
私の憧れの彼女は、小さくなってもシュッとしたスタイルで美しいまま私に言った。
「もうすぐお別れね」
「どうして?」
子供のような問いかけをしてしまい、私は恥ずかしくなった。そんな私に彼女は笑ったけれど、それは私を辱めたものではなかった、と思う。
「どこかへ行ってしまうの?」
「……そうね」
「もう会えない?」
「ええ、きっと」
「どうして?」
同じ言葉を繰り返したけれど、今度は恥ずかしくなかった。
だって、本当に分からない。どうして? どこへ行ってしまうの?
「アタシね」
「うん」
憧れの彼女はちびた黒を陽の光に輝かせて私に言った。
「あなたに憧れていたの」
「え?」
「アタシが間違えたら、いつもあなたが教えてくれて、正してくれた。ありがとう」
「そんな……そんな、私の方が、あなたに憧れていたのよ。ほんとうよ、だってあなたはいつも一番に選ばれて、誰より大切にされていたわ。その姿も、とても素敵。私、こんなでしょう? だから、あなたのこと、本当に」
「ふふ、じゃあアタシたち、両想いね」
「ねえ、私も連れて行って?」
「ダメよ。あなたはまだ、ここにいなくちゃ」
「どうして?」
「あなたを必要としている子がいるから。分かっているでしょう?」
「でも」
その続きを、私は言えなかった。
でも、それじゃああなたはもう、必要とされていないの? そんなこと、言えない。
誰よりも最初に選ばれて、誰よりも大切にされていた私の憧れ。
次の日の朝、彼女は降ろされた。そして私たちは出発した。彼女のいないまま。
----------------------------------------------------
「あ! シャーペンだ! ついに買ってもらったの?」
「うん! これでぼくも、シャーペンデビューだよ!」
「一回使うと、もうえんぴつなんて使ってらんないよね」
「わかる~! 今日はおいてきちゃったもん!」
「あれ? 芯は?」
「あ、まだ買ってないや」
「じゃあ放課後、一緒に買いに行こうよ」
「うん!」
初めて出会った時から、彼女は他の誰とも違っていた。
シュッとしたスタイルも艶やかな黒色も、彼女にとてもよく似合っている。それに比べて、私は最初こそ少し角もあったけれどだんだん丸くなってずんぐりしてきた上に、あちこちに汚れも増えた。
時折、思い出したように手入れをしてもらえることもあったけど、時々、置いてけぼりを食らうこともある。その時はちょっと泣いた。涙なんて出なかったけど。
ここには、私と彼女の他にもいくつかの存在がある。
曲がることのできないまっすぐな彼と、いつも顔を真っ赤にさせて怒ったような彼と、同じくらい真っ青なのんびり屋の彼。
他にも何度か出会いと別れがあったけれど、私と彼女はいつも一緒だった。
そしてずっとずっと、一緒にいられるものだと思っていた。
ある日、見たこともない存在がやってきた。
彼女はどこか機械的な姿でぎこちなく動作し、そんな自分に戸惑っているようにも見えた。
「はじめまして。よろしくね」
機械的な姿のまま、その声もどこか無機質だった。私は「こちらこそ」と愛想よく返したつもりだけど、ちゃんとそうできていたかは自信がない。
機械的な彼女が来て、私は憧れの彼女と一緒にいられる時間が増えた。
私にとってはとても嬉しいことだ。
だけど、憧れの彼女はいつしか私と同じくらい小さくなっていた。
いつのまに? どうして?
そのことに気づいた時、私はとても驚き、その感情のまま彼女に聞いてしまった。
私の憧れの彼女は、小さくなってもシュッとしたスタイルで美しいまま私に言った。
「もうすぐお別れね」
「どうして?」
子供のような問いかけをしてしまい、私は恥ずかしくなった。そんな私に彼女は笑ったけれど、それは私を辱めたものではなかった、と思う。
「どこかへ行ってしまうの?」
「……そうね」
「もう会えない?」
「ええ、きっと」
「どうして?」
同じ言葉を繰り返したけれど、今度は恥ずかしくなかった。
だって、本当に分からない。どうして? どこへ行ってしまうの?
「アタシね」
「うん」
憧れの彼女はちびた黒を陽の光に輝かせて私に言った。
「あなたに憧れていたの」
「え?」
「アタシが間違えたら、いつもあなたが教えてくれて、正してくれた。ありがとう」
「そんな……そんな、私の方が、あなたに憧れていたのよ。ほんとうよ、だってあなたはいつも一番に選ばれて、誰より大切にされていたわ。その姿も、とても素敵。私、こんなでしょう? だから、あなたのこと、本当に」
「ふふ、じゃあアタシたち、両想いね」
「ねえ、私も連れて行って?」
「ダメよ。あなたはまだ、ここにいなくちゃ」
「どうして?」
「あなたを必要としている子がいるから。分かっているでしょう?」
「でも」
その続きを、私は言えなかった。
でも、それじゃああなたはもう、必要とされていないの? そんなこと、言えない。
誰よりも最初に選ばれて、誰よりも大切にされていた私の憧れ。
次の日の朝、彼女は降ろされた。そして私たちは出発した。彼女のいないまま。
----------------------------------------------------
「あ! シャーペンだ! ついに買ってもらったの?」
「うん! これでぼくも、シャーペンデビューだよ!」
「一回使うと、もうえんぴつなんて使ってらんないよね」
「わかる~! 今日はおいてきちゃったもん!」
「あれ? 芯は?」
「あ、まだ買ってないや」
「じゃあ放課後、一緒に買いに行こうよ」
「うん!」