第26話 逆に聞くけど、大丈夫に見える?
文字数 2,197文字
私が森で暮らし始めて1週間が過ぎたころ、東の森のグレコから念話で連絡があった。弟のケヴィンが誘拐されたとカール王子が伝えにきたそうだ。
瀕死の子供を救ったことで、ハース王国の国民は、私を神と呼ぶ人間、私を魔王と呼ぶ人間に分かれた。誘拐したのはきっと後者だ。
―― 次から次へと・・・
私はもちろん弟を助けに行くつもりだ。
ただ、200年前にポールの件で国を2つ滅ぼしかけたことがある。私の黒歴史だ。
怒りに任せて行動してはいけないから、私は状況を冷静に考えることにした。
―― わざわざ私を怒らせるようなことをするだろうか?
まず、カール王子の話では古い書物には私がコードウェル王国とサンダース王国を滅ぼしたと書いてあるようだ。つまり、私を魔王と呼ぶ人間は私を恐れている。
この種類の人間が考えることは、自然に厄災が過ぎ去ることを祈るだけ。わざわざ厄災を自分から招き寄せたりしない。
―― わざと私をどこかに呼び出そうとしている?
罠を張って私を捕らえようと計画しているのだろうか? さすがに魔王を侮り過ぎだ。普通の人間であればそんなことは不可能だと分かるはず。
それとも、何か勝算があるから危険な賭けを仕掛けているのだろうか?
いくら考えても犯人の目的が分かりそうにない。それに、私を呼び出すための人質はケヴィン以外にも両親がいる。ケヴィンがいつまでも無事ではないから、急いだほうがいい。
私はまずケヴィンの連れていかれた場所を特定することにした。東の森でカール王子から状況を確認した後、私はケヴィンの持ち物をフィリップに渡して捜索を依頼した。
フィリップから直ぐに「見つけました!」と連絡があった。私がフィリップのいる場所に転移しようとしたら「僕も一緒に行くよ」とカール王子が言った。
「罠かもしれないから、危ないですよ?」と私は言ったのだが、「僕がいたら敵も手を出せないだろう?」とカール王子は反論する。
ここでカール王子と口論してもしかたない。私はカール王子を連れてケヴィンが捕まっている場所へ転移した。
***
私とカール王子が転移した先は薄暗い倉庫だった。外から僅かに光が入ってきており、真っ暗ではない。私が壁際に目をやると、椅子に縛り付けられたケヴィンが見えた。
「お姉ちゃん?」
「ケヴィン、大丈夫?」
私がケヴィンを助けるために近づいたら、“ヒュン”と音とともに矢が飛んできた。
私はそれを風魔法で吹き飛ばす。敵は暗闇から狙撃しているから何人なのか分からない。
“シュシュシュ”
今度は複数の方向から矢が飛んできた。私はケヴィンのところへ走っていき、広範囲に風魔法で吹き飛ばした。ケヴィンに外傷はない。無事だ。私がホッとしていたら、
「うぅぅ・・・」
うめき声とともに誰かが床に倒れた。暗闇に目を凝らすとカール王子が倒れている。
カール王子に駆け寄ると、ケヴィンに向けて放たれた矢がカール王子の腹部に刺さっていた。
ケヴィンを助けることに集中し過ぎて、カール王子を守るのを失念していた。
私はケヴィンを連れてカール王子に近づく。
「カール王子! 大丈夫ですか?」
「逆に聞くけど、大丈夫に見える?」
「え?」
―― この面倒くさい感じ、懐かしい・・・
ああ、やっと分かった。私は少し笑いながらカール王子に言う。
「その面倒くさい言い方、大昔に聞いたことがあるなー」
「面倒くさいは酷いけど、確かにこのセリフを言うのは二回目だね」
「へー」
「ほら、これが証拠」
カール王子はそういうと首飾りを私に見せた。羽の細工のある首飾りだ。
「本当にポール?」と私が言った瞬間、「お兄様!」と女性の声が聞こえた。
クリスティ王女だ。私を凄い形相で睨んでいる。
ケヴィンを誘拐しておいて、勝手に怒っている。その態度は納得いかない。
私が何かしたのか?
「また、私から兄を取り上げるつもり?」
「え? また?」
「そうよ! 200年前も私から兄を取り上げたよね?」
「あなた・・・ニーナ?」
「私がこの首飾りをしていたのに、気付かなかった?」
クリスティも羽の細工のある首飾りを見せた。
たしか、リードに乗っている時に見た。どこかで見た首飾りに似ていると思ったのを覚えている。でも、その時はまだ覚醒していなかったから、首飾りが何なのか分からなかった。
それに、覚醒した後はクリスティ王女をポールだと疑ったくらいだ。
―― ポンコツ探偵だな・・・
混乱してきた私は整理する。
3人も同時に転生するものなのだろうか? 気になるけど、事実として転生しているのだから、その疑問は後にしよう。私たちに起こったことは、
私はケイトの生まれ変わり。
カール王子はポールの生まれ変わり。
クリスティ王女はニーナの生まれ変わり。
ニーナは私のことを恨んでいる。なぜかは分からないが、東の森に放火したのも、ケヴィンを誘拐したのも私が狙いだ。
それに「兄を取り上げた」と言っていたのだが・・・何のことだ?
私が考えていると、カール王子が申し訳なさそうに言った。
「ケイト。考え中のところ悪いんだけど、先に助けてくれないかな?」
「あっ、ごめん。はい、ヒール(回復)」
私が回復魔法をかけるとカール王子の傷はみるみるうちに治癒した。
―― このやり取り、懐かしい・・・
怒りが頂点に達しているクリスティ王女には申し訳ないのだが、私はそう思った。
【後書き】
次話で完結します
瀕死の子供を救ったことで、ハース王国の国民は、私を神と呼ぶ人間、私を魔王と呼ぶ人間に分かれた。誘拐したのはきっと後者だ。
―― 次から次へと・・・
私はもちろん弟を助けに行くつもりだ。
ただ、200年前にポールの件で国を2つ滅ぼしかけたことがある。私の黒歴史だ。
怒りに任せて行動してはいけないから、私は状況を冷静に考えることにした。
―― わざわざ私を怒らせるようなことをするだろうか?
まず、カール王子の話では古い書物には私がコードウェル王国とサンダース王国を滅ぼしたと書いてあるようだ。つまり、私を魔王と呼ぶ人間は私を恐れている。
この種類の人間が考えることは、自然に厄災が過ぎ去ることを祈るだけ。わざわざ厄災を自分から招き寄せたりしない。
―― わざと私をどこかに呼び出そうとしている?
罠を張って私を捕らえようと計画しているのだろうか? さすがに魔王を侮り過ぎだ。普通の人間であればそんなことは不可能だと分かるはず。
それとも、何か勝算があるから危険な賭けを仕掛けているのだろうか?
いくら考えても犯人の目的が分かりそうにない。それに、私を呼び出すための人質はケヴィン以外にも両親がいる。ケヴィンがいつまでも無事ではないから、急いだほうがいい。
私はまずケヴィンの連れていかれた場所を特定することにした。東の森でカール王子から状況を確認した後、私はケヴィンの持ち物をフィリップに渡して捜索を依頼した。
フィリップから直ぐに「見つけました!」と連絡があった。私がフィリップのいる場所に転移しようとしたら「僕も一緒に行くよ」とカール王子が言った。
「罠かもしれないから、危ないですよ?」と私は言ったのだが、「僕がいたら敵も手を出せないだろう?」とカール王子は反論する。
ここでカール王子と口論してもしかたない。私はカール王子を連れてケヴィンが捕まっている場所へ転移した。
***
私とカール王子が転移した先は薄暗い倉庫だった。外から僅かに光が入ってきており、真っ暗ではない。私が壁際に目をやると、椅子に縛り付けられたケヴィンが見えた。
「お姉ちゃん?」
「ケヴィン、大丈夫?」
私がケヴィンを助けるために近づいたら、“ヒュン”と音とともに矢が飛んできた。
私はそれを風魔法で吹き飛ばす。敵は暗闇から狙撃しているから何人なのか分からない。
“シュシュシュ”
今度は複数の方向から矢が飛んできた。私はケヴィンのところへ走っていき、広範囲に風魔法で吹き飛ばした。ケヴィンに外傷はない。無事だ。私がホッとしていたら、
「うぅぅ・・・」
うめき声とともに誰かが床に倒れた。暗闇に目を凝らすとカール王子が倒れている。
カール王子に駆け寄ると、ケヴィンに向けて放たれた矢がカール王子の腹部に刺さっていた。
ケヴィンを助けることに集中し過ぎて、カール王子を守るのを失念していた。
私はケヴィンを連れてカール王子に近づく。
「カール王子! 大丈夫ですか?」
「逆に聞くけど、大丈夫に見える?」
「え?」
―― この面倒くさい感じ、懐かしい・・・
ああ、やっと分かった。私は少し笑いながらカール王子に言う。
「その面倒くさい言い方、大昔に聞いたことがあるなー」
「面倒くさいは酷いけど、確かにこのセリフを言うのは二回目だね」
「へー」
「ほら、これが証拠」
カール王子はそういうと首飾りを私に見せた。羽の細工のある首飾りだ。
「本当にポール?」と私が言った瞬間、「お兄様!」と女性の声が聞こえた。
クリスティ王女だ。私を凄い形相で睨んでいる。
ケヴィンを誘拐しておいて、勝手に怒っている。その態度は納得いかない。
私が何かしたのか?
「また、私から兄を取り上げるつもり?」
「え? また?」
「そうよ! 200年前も私から兄を取り上げたよね?」
「あなた・・・ニーナ?」
「私がこの首飾りをしていたのに、気付かなかった?」
クリスティも羽の細工のある首飾りを見せた。
たしか、リードに乗っている時に見た。どこかで見た首飾りに似ていると思ったのを覚えている。でも、その時はまだ覚醒していなかったから、首飾りが何なのか分からなかった。
それに、覚醒した後はクリスティ王女をポールだと疑ったくらいだ。
―― ポンコツ探偵だな・・・
混乱してきた私は整理する。
3人も同時に転生するものなのだろうか? 気になるけど、事実として転生しているのだから、その疑問は後にしよう。私たちに起こったことは、
私はケイトの生まれ変わり。
カール王子はポールの生まれ変わり。
クリスティ王女はニーナの生まれ変わり。
ニーナは私のことを恨んでいる。なぜかは分からないが、東の森に放火したのも、ケヴィンを誘拐したのも私が狙いだ。
それに「兄を取り上げた」と言っていたのだが・・・何のことだ?
私が考えていると、カール王子が申し訳なさそうに言った。
「ケイト。考え中のところ悪いんだけど、先に助けてくれないかな?」
「あっ、ごめん。はい、ヒール(回復)」
私が回復魔法をかけるとカール王子の傷はみるみるうちに治癒した。
―― このやり取り、懐かしい・・・
怒りが頂点に達しているクリスティ王女には申し訳ないのだが、私はそう思った。
【後書き】
次話で完結します