Aパート

文字数 3,406文字

○華丸やしき・全景
   タイトル『1995年』。
   昭和の香りがする小さな遊園地。客でにぎわっている。

○同・コーヒーカップ・中
   コーヒーカップに乗っている小島千尋(8才)と右京(48才)。
右京「千尋は回るのが好きか?」
千尋「大好き!」
   楽しそうにカップをグルグルと回す千尋。
   小島はビビッてカップの縁にしがみつく。

○同・モンスターハウス・概観
   古臭い洋風のお化け屋敷。客が待ち遠しそうに並んでいる。

○同・前
   近くのベンチでぐったりしている小島。
   モンスターハウスの壁には、満月に吠える狼男の姿が描かれている。
   そんな怪物の絵を見て顔をしかめる千尋。
右京「千尋は怖いの嫌いか」
千尋「怖くないよ。あんなの子ども騙しだもん」
右京「そうかそうか」
   微笑む小島。
千尋「何が可笑しいの? いいから行こうよ」
   と右京の腕を掴んでメリーゴーランドを指さす。
右京「頼むから一休みさせてくれよ」
千尋「じゃあアイス食べたい」
右京「わかった。アイス食べたらお友達に挨拶しに行こう」
千尋「お父さんの?」
右京「うん、親友なんだ」
   コーヒーカップのアトラクションを見つめる右京。

○同・事務所内
   マッドサイエンティスト姿の堀越栄一郎(60才)が姿を現す。
   怯えて右京の後ろに隠れる千尋。
堀越「おお、来てたんか」
右京「ご無沙汰してます」
堀越「千尋ちゃん、大きくなったなぁ」
千尋「あなたなんか知りませんけど……」
堀越「前に会った時は、まだ這い這いしてたからなぁ」
右京「千尋、この遊園地の園長さんだよ」
堀越「マッドサイエンティストであ~る」
   と千尋を威嚇する。
千尋「こ、怖くなんかないんだから!」
堀越「(右京に)モンスターハウスには行ったのか?」
右京「いいや。千尋が苦手でな」
千尋「怖いんじゃないよ? ただ興味がないだけ!」
   笑う小島と堀越。ムッとする千尋。

○同・モンスターハウス前
   しゃがみこんでいる千尋。
千尋「やっぱりお父さんが一人で行ってきなよ!」
右京「堀越さんがお前をみんなに紹介したいんだってさ」
千尋「(怯えて)みんなって?」
右京「(からかって)やっぱり怖いか?」
千尋「怖くないもん!」
   立ち上がって一人で列にならぼうとする千尋。

○同・中
   右京の後ろに隠れながら半べそ状態の千尋。
千尋「やっぱりつまんない。帰ろうよ!」
潤男「ガオー!」
   奥から出てきて千尋たちを脅かす狼男姿の潤男(18才)。
千尋「もうヤダ! 帰る~!」
   そこに駆けつけるアスラ(23才)とフランク(34才)。
   アスラは吸血鬼、フランクは人造人間の姿をしている。
フランク「潤男。小島さんのお嬢さんは脅かすなって言われただろう」
潤男「は? 脅かすのが俺達の仕事だろうが!」
アスラ「千尋ちゃん、怖くないですよ~」
   いないいないばぁをするアスラの口から牙が光る。
   それを見て泣き出す千尋。
アスラ「私のせい? これって全部、私のせいよね?」
潤男「アホくさ。今から休憩に入りまーす」
   と立ち去る潤男。
千尋「もう来ない! 一生来ない~!」
アスラ「ああどうしましょう、私のせいで!」
   オロオロするアスラ。泣き続ける千尋。

●タイトルテロップ『モンスターカフェ』

○秋葉原・全景
   タイトル『2003年』。

○小島部品店・全景
   路地にある小さなお店。細かい部品ばかりが並んでいる。
   店の前を素通りする通行人たち。みんな携帯電話に夢中。
   帰ってくる高校生の千尋(16才)。

○同・居間・中
   右京(56才)、阿漕黒太(54才)、灰三喜男(28才)がいる。
右京「いくら言われても、店は譲らん」
   帰ってくる制服姿の千尋。灰と目が合う。
灰「お帰り。君もお父さんを説得してくれないかな?」
右京「娘は関係ないだろ」
灰「でも来年受験でしょ。大学、お金いるでしょ?」
右京「何で知ってるんだ?」
灰「見ればわかる。(千尋に)高校三年生だろ?」
千尋「はい……」
右京「お前らには関係ない。帰れ」
   葉巻を床に吐き捨てる阿漕。
阿漕「まあ、また来ますわ」
灰「(千尋に)受験、頑張ってね」
   出ていく灰と阿漕。
   舌打ちして床の葉巻をもみ消す右京。
右京「本当にしつこい連中だ」
千尋「どうするの?」
右京「何がだ?」
千尋「私、やっぱり大学に行きたいんだけど」
右京「だからお金のことは心配するなと何度言えば……」
   千尋は右京の言葉をさえぎって、
千尋「今どき機械の部品だけじゃ無理なんだよ。山田さん家だって部品屋やめて、ゲームソフト売ってんじゃん」
右京「千尋、わかったような口を利くな」
千尋「父さん、時代は待ってくれないよ?」
右京「うるさい!」
   家の中に消える右京。仏壇には母親の遺影。
千尋「母さんもそう思うよね?」
   と手を合わせる。

○同・外(夜)
   出てくる千尋。灰が待っている。
灰「やあ千尋ちゃん」
千尋「お呼び立てしてすみません」
灰「千尋ちゃんのためならいつだって駆けつけますよ。でも本当に説得できんの?」
千尋「説得できれば、あの金額で買ってくれるんですよね」
灰「これにサインすればね」
   と灰は千尋に不動産売却の契約書をちらつかせる。

○同・中(夜)
   契約書を破る右京。
千尋「何すんのよ!」
右京「自分のしている事がかわってるのか!」
千尋「こんな店、もう時代遅れなんだから!」
   破った契約書を千尋に投げつける右京。
右京「ふざけるな!」
千尋「お父さんのバカ!」
右京「この店はな、母さんと二人で……うっ!」
   胸をおさえて倒れる右京。

○秋葉原・メイド喫茶・中
   メイドとして舞台立っている千尋。
   沢山の客が千尋に声援を送っている。
   客に混じって声援を送っているメイド姿の道草撫子(15才)。
撫子「先輩カワイイ~! 最高~!」
客「ねぇ撫子ちゃん。さっき注文したメイプルパフェ、まだかな?」
撫子「うるさい。お前も先輩を応援しろ!」
客「はい……」
   千尋は客に愛想を振りまいて踊り続ける。

○同・事務所内
   メイド姿で受験勉強している千尋。そこに撫子が来る。
撫子「先輩、カレー食べに行きません?」
千尋「ゴメン。そろそろ病院に行かなきゃ」
撫子「お勉強ですか?」
千尋「来年受験だから」
   突然、千尋の手を握る撫子。
千尋「え……なに?」
撫子「手伝える事があったら、何でも言って下さいね!」
千尋「ありがと。じゃあまずはお客様に対する態度を改めようね」
撫子「はい! でもとりあえずは応援のダンス!」
   踊り出す撫子。苦笑してから、ため息をつく千尋。

○大学病院・病室・中(夕)
   点滴を受けている右京。看護師に一礼する千尋。
右京「またコスプレのバイトか」
千尋「まあね。店番よりもお金になるから」
右京「……あの店は売る事にしたよ」
千尋「(驚いて)本気?」
右京「ああ。この体じゃどうにもならん」
   看護師を押しのけて入ってくる灰。右京に契約書を突きつける。
灰「小島さん。こちら確認をお願いします」
   契約書を手に取って目を通す千尋。
千尋「何これ?」
灰「契約書だよ」
千尋「じゃなくて金額のことです」
灰「お父さんがその金額でオッケーしたんだ」
千尋「でも話が違うじゃないですか」
灰「人を嘘吐き呼ばわりする気かい?」
千尋「だってそうでしょ?」
   千尋から契約書を奪う灰。
灰「大人の世界じゃ、この紙切れとサインがなきゃ約束は成立しないんだ」
   バカ笑いして出て行く灰。
千尋「お父さん。本当にあんな金額で売っちゃう気なの?」
   千尋に通帳を渡す小島。
右京「だがこれで借金は返せる。あとはお前自身のために使え」
千尋「何言ってんの? 入院費だってまだかかるし……」
右京「くれぐれも……葬式は質素にな」
千尋「バカ言ってないで、今は身体の事だけ考えなよ」
右京「千尋、ごめんな……」
   目を閉じる小島。
千尋「お父さん?」
   心電図が急変する。
看護師「先生、来てください!」
   看護師が慌てて廊下に出て行く。
千尋「お父さん!?」
   千尋の手から通帳が落ちる。

○火葬場・中
   喪服姿で歯を食いしばる千尋。
   堀越(68才)もいる。
堀越「こんな年寄りだが、できる限り力になるから」
千尋「……ありがとうございます」
堀越「これから、どうする?」
千尋「受験して、大学に進みます」
   通帳を握り締める千尋。









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