【参】運命は残酷で

文字数 2,030文字

 スピーチが終わり会が正式に始まると、わたしは用意されていたワインをチビチビと飲みながら、懐かしの同級生たちと会話に花を咲かせた。

 わたしは、話し相手全員に自分の前職のことを、あたかも今そこで仕事しているかのように話した。が、いくら過去の話を如何に詳細に、雄弁に語ろうと現在の話になると内容は曖昧になってしまう。

わたしは自分の話を、みんなが忘れてくれることを祈った。

はるかとも話した。はるかは現在、都内の会社で事務をしているらしく、結婚はしていない――というか、彼氏もいないそうだ。宝の持ち腐れとはこういうことをいうのだろう。端正な顔立ちにスラッとしたはるかの立ち姿は、ストレスで豚のように食い、牛のように太ってしまったわたしとは雲泥の差だった。

わたしも、現在の自分の事情を、八割の虚飾を交えて話した。が、はるかは疑う様子もなく、好奇心旺盛な子供のように目を輝かせながらわたしの話を聞いていた。

豪快な笑い声が聴こえた。

山田だった。山田は、野球部やサッカー部、バスケ部といった運動部の人たちと対等に会話をしていた。ちなみに山田は、中学時代は卓球部だった。

卓球部というと、運動部でありながらも文化部のような扱いを受けるカーストの低い部活というイメージがあるだろうが、西原中の卓球部は人数も多く、学年でも成績上位者や、野球やサッカー、バスケを辞めて入ってきた人も多かったため、それなりの地位にいる部活だった。

わたしの記憶が正しければ、山田はナチュラルな卓球部で、成績も中の上の一見平凡な少年だったが、まだインターネットも草分けの時代に、パソコンを使って様々な活動を行っており、オマケに多趣味で、音楽や映画、プロレスのような格闘技にも精通し、どこか他の生徒とは違う雰囲気を振り撒いていた。

「山田くん、何か変わったよね」はるかがいった。

「あぁ、確かに。感じ変わった」

「うん、何ていうか……」はるかは口ごもった。「ううん、何でもない」

「そっか。……久しぶりに山田と話したいな」

「あ、本当に? じゃあ……、わたしは外山くんと話そっかな」

 外山――壁際に寄り掛かってひとりつまらなそうにビールを啜っていた。誰とも話さないのだろうか。わたしと外山に大した関わりはない。同じクラスになったこともあったが、その時ですらあまりちゃんと話したことはない。ただ、比較的みんなからいわれていたのは、オタクっぽいとか、牛乳瓶の底みたいなメガネとかそんなことばかりだった。

「外山か。……あれ? はるかって外山と仲良かったっけ?」

「んー、特にそういうわけでもないんだけど、一緒に応援団員やった仲だしね」

「あ、そっか」

 応援団員とは、体育祭の応援団員のことだ。中学三年の時のこと、四つある団の応援団長のひとりが山田だと聞いてわたしは驚いた。というのも、山田は異彩を放つ存在ではあったが、スポーツマンでもなければ、集団を取りまとめる監督能力に優れているわけでもなかった。山田が応援団長と聞いて、他クラスの人も随分とザワついたものだ。それくらい、山田が応援団長を務めるというのは「珍事」というか「事件」だったわけだ。

 その時、応援団員を務めたメンバーの中に外山とはるかがいた。外山は、山田の友人ということで招集されたのだろうが、はるかが何故応援団員になったのかはわからなかった。

確かに、あの当時から山田とはるかはそれなりに話す仲ではあったが、はるかが応援団員になるには決定的な何かが欠けているような気がした。

「でも、挨拶ぐらいしてもいいんじゃない?」

「実は山田くんとはもう話しちゃったんだよね。連絡先も交換しちゃってさ」

 どちらが先に切り出したのかはわからないが、アグレッシブなものだ。わたしなら安易に連絡先を交換してこようとする人間は信用しない。というより、業務や何か以外で連絡先を聞かれたことがないというのが現実なのだが。

 はるかが去ると、わたしは山田のほうへと向かおうとした。が、山田は、さっきわたしのもとにやってきたギャル集団を相手にしていた。

そういえば、中学時代、そのギャル集団のリーダー的存在が山田のことが好きらしいと女子間のウワサで広まったことがあった。が、現実は特に何もなかったようで、その女子も中学卒業後半年で高校を中退して授かり婚をし、今では五人の子供の母親だという。あれから一四年だから、長男ももう中学二年生か。やはり、時間の流れはどこまでも早い。

流石にギャル集団と一緒になるのはイヤだったので、わたしはしばらく様子を見ることにした。が、結局そのギャル集団は、同窓会の終わりまで山田を放さず、山田と会話することはとうとう叶わなかった。

運命はネガティブな人間に対してどこまでも残酷だ。
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登場人物紹介

帯刀ひな子です。


出身は外夢市、年齢は30歳。中学、高校と生徒会長を務めていました。


ですが、現在はーー


とりあえず、本編でお会いしましょう!


よろしくお願いします!

こんにちは、高梨はるかです。


お久しぶりです。二度目の登場、になるのかな。


わたし個人の話は既にしてあるので、そちらを見てね。


今回は、同窓会のもうひとつの話ということで、登場します。


今回もよろしくね!

あー、山田、山田和雅。


えっと、自己紹介はもういいかね?


んじゃ、本編で会おうで。


よろしく!

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