LOST GIRL
文字数 1,420文字
小学校に入って3年目。僕は自然と不登校になっていた。
学校なんて、行かなくてもいい。家で好きなことをしていればいい。勉強なんて、ついていけないから嫌いだ。学校に行っても友達の作り方なんか全然わからない。それは、入学して3年経った今だからこそ感じるのかもしれないけども。
学校に行かない僕の日課は、『お父さんの古いパソコンをいじること』だった。インターネットだったらタブレットやノートパソコンでもできるけど、僕の目的はそれじゃない。僕の目的は、今日も「ルキちゃん」と遊ぶこと、だ。
「こ、ん、に、ち、は」
『こんにちは』
しゃべった。
ルキちゃんは僕がパソコンに入力した通りにしゃべってくれる。音楽ができるなら、歌わせることもできると思って、お父さんのパソコンにインストールされているソフトで曲らしきものを作ってみた。――それが始まり。
ルキちゃんを僕の作った曲で歌わせる。できたら、踊らせてみる。僕がルキちゃんのプロデューサーになるんだ。そしたら……そしたら、もっと友達もできるかな? 夢は膨らむ一方だったが、ルキちゃんとの楽しい時間はある日突然終焉 を告げた。
「雷だ! パソコンに触るな!」
お父さんが大きな声を上げる。そのとき、近くで大きな音が響いた。
――プツン。
「あっ!」
起動していたはずのパソコン画面が、真っ黒になる。ルキちゃんは? 僕の作ったルキちゃんのデータは……?
雨は夜半まで降り続き、その日はパソコンを再起動することはできなかった。
翌日。
「つかない……」
お父さんの古いパソコンは、落雷により故障。データは壊れた。ルキちゃんと遊んだ思い出も一緒に。僕と一緒に……壊れた。
「ルキちゃん……もうルキちゃんに会えないの? また僕はひとりになっちゃうの? 嫌だよ、ひとりは……嫌だ」
学校に行っても、ひとりぼっち。だから通わなくなった。ルキちゃんとの出会い。それは外で桜を見ることよりも鮮烈だったのに。
壊れたパソコンの前でがっくりとうなだれている僕に、お父さんは言った。
「仕方ない。会いに行くか? ルキちゃんに」
「え……」
「ルキちゃんの曲をみんなで発表する会があるんだよ。お父さんと一緒に行ってみるか? と、言っても大人ばかりだろうけど」
「行く!!」
『智也、曲データ早よ。ミカの動画作れん』
「はいはいっと。送信」
『……来た。ふうん、新曲のタイトルはHello,Worldっていうのか』
「そういえば、俊介。初めて会ったとき、めっちゃどもってたよな。『こ、こ、こ、こんちわ!』みたいな」
『うっせぇよ、何いきなり変なこと思い出してんだよ』
あれから数年、バーチャアイドル・ルキの最新バージョンは出なくなり、新しいアイドルが登場した。僕の初めての友達・ルキちゃんは今も人気があるのだが、今はそれに代わり、新しいアイドルが続々と出てきている。
高校生になった僕は、父と一緒に行った同人CD即売会で同じ小学生と出会った。彼も、僕と同じく不登校で、親と参加していたのだ。意気投合した僕らは、今じゃ一緒に新しいアイドル・ミカのプロデュースをしている。僕が音楽担当で、相方が動画担当だ。
ルキちゃんと遊んだデータは消えてしまったけども、初めての友達が結んでくれた縁は、今も生きている。
今は新しい友達もできたけれども、ルキちゃんが僕にできた初めての友達だということは変わらない。きっと、ずっと。真っ暗闇の時代に光った、忘れられない思い出なんだ。
学校なんて、行かなくてもいい。家で好きなことをしていればいい。勉強なんて、ついていけないから嫌いだ。学校に行っても友達の作り方なんか全然わからない。それは、入学して3年経った今だからこそ感じるのかもしれないけども。
学校に行かない僕の日課は、『お父さんの古いパソコンをいじること』だった。インターネットだったらタブレットやノートパソコンでもできるけど、僕の目的はそれじゃない。僕の目的は、今日も「ルキちゃん」と遊ぶこと、だ。
「こ、ん、に、ち、は」
『こんにちは』
しゃべった。
ルキちゃんは僕がパソコンに入力した通りにしゃべってくれる。音楽ができるなら、歌わせることもできると思って、お父さんのパソコンにインストールされているソフトで曲らしきものを作ってみた。――それが始まり。
ルキちゃんを僕の作った曲で歌わせる。できたら、踊らせてみる。僕がルキちゃんのプロデューサーになるんだ。そしたら……そしたら、もっと友達もできるかな? 夢は膨らむ一方だったが、ルキちゃんとの楽しい時間はある日突然
「雷だ! パソコンに触るな!」
お父さんが大きな声を上げる。そのとき、近くで大きな音が響いた。
――プツン。
「あっ!」
起動していたはずのパソコン画面が、真っ黒になる。ルキちゃんは? 僕の作ったルキちゃんのデータは……?
雨は夜半まで降り続き、その日はパソコンを再起動することはできなかった。
翌日。
「つかない……」
お父さんの古いパソコンは、落雷により故障。データは壊れた。ルキちゃんと遊んだ思い出も一緒に。僕と一緒に……壊れた。
「ルキちゃん……もうルキちゃんに会えないの? また僕はひとりになっちゃうの? 嫌だよ、ひとりは……嫌だ」
学校に行っても、ひとりぼっち。だから通わなくなった。ルキちゃんとの出会い。それは外で桜を見ることよりも鮮烈だったのに。
壊れたパソコンの前でがっくりとうなだれている僕に、お父さんは言った。
「仕方ない。会いに行くか? ルキちゃんに」
「え……」
「ルキちゃんの曲をみんなで発表する会があるんだよ。お父さんと一緒に行ってみるか? と、言っても大人ばかりだろうけど」
「行く!!」
『智也、曲データ早よ。ミカの動画作れん』
「はいはいっと。送信」
『……来た。ふうん、新曲のタイトルはHello,Worldっていうのか』
「そういえば、俊介。初めて会ったとき、めっちゃどもってたよな。『こ、こ、こ、こんちわ!』みたいな」
『うっせぇよ、何いきなり変なこと思い出してんだよ』
あれから数年、バーチャアイドル・ルキの最新バージョンは出なくなり、新しいアイドルが登場した。僕の初めての友達・ルキちゃんは今も人気があるのだが、今はそれに代わり、新しいアイドルが続々と出てきている。
高校生になった僕は、父と一緒に行った同人CD即売会で同じ小学生と出会った。彼も、僕と同じく不登校で、親と参加していたのだ。意気投合した僕らは、今じゃ一緒に新しいアイドル・ミカのプロデュースをしている。僕が音楽担当で、相方が動画担当だ。
ルキちゃんと遊んだデータは消えてしまったけども、初めての友達が結んでくれた縁は、今も生きている。
今は新しい友達もできたけれども、ルキちゃんが僕にできた初めての友達だということは変わらない。きっと、ずっと。真っ暗闇の時代に光った、忘れられない思い出なんだ。