(梗概)

文字数 478文字

           ◆

エジプトは無敵だった。

富と人の集まるナイルの河口に、旅の踊り子アディーラは一座とともに陸路を流れてやってきた。

西北辺境独特の笛と太鼓の交わる音楽の陽気で妖艶なアディーラの躍りは人気で、客と投げ銭は途切れることがなかった。

ほどなくして、とある奴隷将軍がアディーラ贔屓の情人となった。

今の身分は奴隷とは言え、元は大国エジプトを敵に回して長く互角に戦った敵国の臣将。

その人柄と智勇は好ましく、多恋の質のアディーラが、柄にもなく深く愛した。

やがて新たな戦が始まり、戦奴軍は死ねとばかりに激しい前線に叩きこまれた。

戦には辛勝したが、その扱いには耐えかねた。

エジプトに対して、廃国の奴隷軍すべてが一斉に蜂起をしたと…アディーラは都で耳にする。

一心に駱駝を飛ばし、駆けに駆け…

辿り着いた時には。

いくさ野にはただ、累々たる屍。

剣と鎧ははぎ盗られ、奴隷の鉄鎖だけは残され、まだ息の有った者は無残にとどめを刺された、その、死体の岩漠で…

アディーラは恋人の遺骸を見つけた。

もの言わぬ瞳が、無慈悲な太陽に灼かれ、乾きひからびていくのを…

ただただ、観ていた…


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