劇「関西風・放蕩息子《ほうとうむすこ》」

文字数 3,610文字

劇 『関西風 放蕩息子』 (1982.12.19.上演)

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■第一場 (幕があく。食事をする父と二人の息子たち。そばに使用人の女)

ナレーション : ここは、ある国の、とある田舎まち。一家3人が仲良くお昼ごはんを食べておりました。
ところが・・・

金次郎 : (突然に)お父ちゃん!
     
父 : (びっくりしたふうに)な、なんや? 金次郎。
     
金次郎 : ぼくな、お父ちゃんの財産がほしいんや!
     
父 : (なんのことかわからず)なんやて? いつもこづかい、あげとるやないか。
     
金次郎 : ちゃうんや。お父ちゃんが死んだら兄ちゃんとぼくで、お父ちゃんの財産を分けるやろ?
そんときのぼくの分を、今ほしいんや!
     
金太郎 : (おこって)なんやて!?「お父ちゃんが死んだら」やて?
お父ちゃんを勝手に殺すな! お父ちゃんにあやまらんか! 
     
金次郎 : (兄を無視して)お父ちゃん、おねがいや!
     
父 : (静かに)おねがいや、言うても、そないにぎょうさんお金持って、金次郎はどうするつもりや?
     
金次郎 : ぼくな、町へ行ってみたいんや。
(夢見るように)町でやってみたいことが、山ほどあるんや。
     
金太郎 : あほやな、おまえは。町いうのは、こわいとこやぞ。
おまえみたいなイナカモン、いっぱつでだまされてしまうわ!
     
金次郎 : (兄を無視して)お父ちゃん、おねがいや。
「かわいい子には旅をさせろ」って言うやないか!
     
金太郎 : おまえのどこがかわいいんや!?
     
金次郎 : やかましな!兄ちゃんはだまっといてよ!
     
父 : (黙って考えこむ)・・・・・・

(幕がとじる)

ナレーション : お父さんはとっても悲しかったのですが、金次郎のために財産を分けてやりました。
すると金次郎は・・・
(金治郎、幕の前に出てくる)

金次郎 : やったあ! もうこんなイナカはあきあきしてたんや。さようなら~~~!
(手をふりながら幕のうしろにきえる)

ナレーション : と言って、たちまち遠い国へ旅立っていきました。
金次郎はお父さんからもらったお金をたっくさんもっていたので、そのお金をめあてにして、悪い人たちが金次郎のまわりに集まりました。
たとえば、金次郎が道を歩いていると、こんなふうでした・・・

■第二場 (幕があく。すわっておしゃべりするふたりの女。そこに金治郎が通りかかる)

町の悪い女A : きゃあ! おにいさんかっこいいわぁ!
     
金次郎 : (まわりをみまわしてから)え? ぼくのことかいな?
     
町の悪い女B : そうよ、ねぇ、こっちにおすわりなさいよ。
(金治郎ふたりの間にすわる)

B : ねぇ、かっこいいおにいさん、お名前はなんておっしゃるの?
     
金次郎 : え? き、金次郎やで。
     
A と B : まぁ、すってきだわぁ、「金次郎」ですって!
     
A : (ネックレスを見ながら、ねだるように)ところで、とってもすてきなネックレスねぇ。
わたし、こういうのほしかったの。ねぇ、わたしにプレゼントしてくださらない?
     
金次郎 : え? あ、かまへんよ、あげるわ。
     
A : わぁ、うれしい!(ネックレスをとる)
     
B : (ねだるように)いいなぁ、わたしもこの指輪、ほしいわぁ。
     
金次郎 : あ、そしたらあんたにもあげるわ。
     
B : わぁ、うれしい! おにいさんって、お金持ちなのねぇ、うらやましいわ。
     
金次郎 : え? お金持ち? ま、まあ、そんなとこやな。
そや、あんたらにおこづかいあげよか?(と、札束を出す)
     
A と B : まあ! すごい!
     
A : ね、ね、お金持ちのかっこいいおにいさん、わたしたちお酒のみたいの。
おにいさん、おごってちょうだいよ。
     
金次郎 : え? お酒? ぼくまだお酒のんだことないわ。
     
B : え!? お酒のんだことないの?
     
A : そしたら、わたしたちがつれてってあげるわ、行きましょう!
     
金次郎 : え? そ、そう?
(金次郎、ふたりに手を引かれて退場。幕がとじる)

ナレーション : こうして金次郎はどんどん悪いことを覚え、お父さんの財産もどんどん使っていきました。
さて、こうして金次郎のさいふがからっぽになったころ、その国に大ききんが起こって、金次郎は食べ物を買うお金もなく、困りはてていました・・・

■第三場 (幕があく。杖をついて金治郎がふらふらと歩いている)

金次郎 : ああ、はらへったぁ、はらへったぁ・・・
(ふらふらとドアの前にきてノックする。トントントン)

(ドアがあいて、A,Bがでてくる。金次郎はすわりこんでしまう)

金次郎 : こんにちは・・・
     
A : あんた、だれ?
     
金次郎 : だれって、金次郎やないか。
腹がへって死にそうや、なんか食べるもん、くれへんか?
     
A : (冷たく)金次郎? なんて変な名前なの、そんな人、知らないわ
     
B : 「なんか食べるもの」って、あんた、お金持ってるの?
     
金次郎 : お金って、ネックレスや指輪やおこづかい、あげたやないか。
お酒もおごってあげたやないか。
     
A : (あくまでも冷たく)へえ、そんなことあったの? わたしって、忘れっぽいから。
     
B : ねぇ、ねぇ。(と、ふたりでひそひそ話をはじめる。そして・・・)
     
A : あんた、仕事もなくて困ってるんでしょ?
     
金次郎 : そうやねん。
     
B : そしたら、うちの豚の世話させたげるわ。
     
金次郎 : え? 豚やて?
     
A : そ、あんたみたいなイナカモンは、豚の世話がおにあいよ。
     
B : さあ! さっさと仕事するのよ!
     
金次郎 : なにか食べ物は?
     
B : 豚のえさがあるでしょ!
(AとB、笑いながらドアの中に)

(金次郎、豚の中で)

金次郎 : (とほうにくれて)なんでこんなことになったんやろ。これからどうしたらいいのやら・・・
(はっとして)そや、お父ちゃんとこに帰ろう。お父ちゃんとこは食べもんもぎょうさんあるし・・・
(再びとほうにくれて)せやけど、けんかして出てきたし、お金はないし・・・ もう今さら帰られへんなぁ・・・
(再び決心して)いや、でもこのままやったら、ぼくは死んでしまうんや。
なに言われてもええから、お父ちゃんとこ帰ろ!
(立ち上がって歩きだす。幕がとじる)

ナレーション : こうして金次郎は家に帰っていきました。
でも、死ぬほどお腹がすいていたので、なかなか帰りつきません。
それでもやっと家の近くまで来たとき、家では何がおこっていたでしょう・・・

■第四場 (幕があく。食事中の父と兄。しかし、父はうつむいている。そばに使用人の女)

金太郎 : お父ちゃん、ごはん、さめてしまうで。
     
父 : (うつむいたまま)・・・
     
使用人の女 : だんなさまは疲れていらっしゃいます。
金次郎ぼっちゃんが出ていかれてから、ご心配でご心配で、食べ物もろくろくのどを通らないのですから・・・
     
金太郎 : ほんまに、金次郎はひどいやつやで。
     
使用人の女 : それに、もしかしたら金次郎ぼっちゃんが帰られるかもしれないって、毎日毎日、あの一本杉のところまで見にいかれるのですから・・・
     
金太郎 : いくら見にいったかて、あんなやつ、帰ってくるわけあらへん。
     
使用人の女 : でも、それでは、だんなさまがあまりにかわいそうで・・・
(父が突然顔をあげる)

父 : きこえる!
     
金太郎 : (びっくりして)きこえるって、何がきこえるんや?
     
父 : (よろこんで)きこえるぞ! 金次郎の足音や!
     
金太郎 : え!? 金次郎の足音!?
     
父 : (叫んで)金次郎が帰ってきたんや。まちがいない!
(父、とび出す。幕がとじる)

■第五場 (幕はとじたまま。幕の前に父と弟がでてくる)

父 : (叫んで)金次郎ー!
     
金次郎 : (父をみてびっくりして)あ! お父ちゃん!
(ふたり、近づいてきてだきあう)

金次郎 : お父ちゃん、ごめんなさい! ごめんなさい!
     
父 : よしよし、よく帰ってきたなあ。

ナレーション : こうして金次郎はもう一度お父さんの息子としてこの家にくらすことになりました。
わたしたちの天のお父さまも、わたしたちが「ごめんなさい」と言って神さまのところに帰るなら、よろこんでわたしたちを天国に入れてくださいます。
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