私とNITRODAYと恋の行方

文字数 1,531文字

 もともと私は1年生の時から吹奏楽部に入っているんだ。でも、文化祭実行委員になった時(お互い“ならされた時”の方が正しいよね、山崎君?)、私は委員の仕事を全うすることにして吹部の演奏会への参加は辞退した。だって、両方ともやることが大変なことが分かっていたし、両方とも片手間でできるようなことでないことも分かっていたから。ずっと練習してきた吹部の仲間たちからも文化祭委員なんて適当に手を抜いて部活動を一緒にしていこう、って誘われた。けど、いったん委員を引き受けたらいい加減な気持ちで引き受けることは私にはできなかったの。

 それに山崎君がクラスのみんなから優しすぎて“なめられている”ことも知っていたし、そんなことじゃクラスの出し物が上手くいかないことが目に見えていた… 私はクラスの出し物もキチンとするつもりだったしね。今から考えると、山崎君にどんだけ上から目線だったんだろう… 

 文化祭が終わってから吹部に戻って久しぶりに仲間たちとの練習を再開したんだ。もちろん、文化祭の準備から終わるまでの間、家に帰ってから音を抑えるミュートっていう器具をつけた楽器で腕が落ちないように練習を数時間ずつ続けていたわ。楽器の練習って1日休めば自分に分かり、2日休めば仲間たちに分かり、3日休めば観客に分るっていうじゃない。だから、腕がなまっていないつもりでいたんだけど… 現実は厳しかった。

 私の代わりにパートに入った後輩がいつの間にかとても上手になっていたの。私が文化祭委員になるまではハッキリ言って後輩の方が私より上手くないことは仲間たちも分かっていた。だから、仲間たちもみんな私を引き留めてくれたんだけどね。

 毎日各パートごとの教室練習や全体練習を音楽室での遅くまでの続けているうちに、そして正メンバーに起用されてから期待されることや上手くなっていくことに喜びと自信を後輩は持ったらしい。見る見るうちに上達した後輩は演奏会が終わって正メンバーとしての地位を確保した。今や、私は吹部の中で自分の立ち位置に不安を抱いている。だから最初にそう言ったじゃないの、と言う周りの声に自分が必要とされなくなってくような先行きの不透明さも抱くようになったんだ…

 気がつくと、一度聞いてそのまましまっていたNITRODAYの「少年たちの予感」のカセットテープをもう一度手に取っていた。

 一度目に聞いた時は恋の歌以外は自分には良く理解できなかった。再びラジカセから流れ出てくるNITRODAYの「少年たちの予感」の曲たちが、私の不安や先行き不透明な気持ちを歌にして外へ紡ぎ出す。と同時に、心の中にも溶け込むように沁み込んできた。こんな切迫さ、身をよじるような狂おしさ、感情をあらわにしたさまはクラシックならば モーツアルトのピアノ協奏曲20番 チャイコフスキーの交響曲4番 あたりかしら…

 NITRODAYの曲を聞くたびに自分の愚痴や思いを外に吐き出したもらったように私の心は軽くなっていく。心が軽くなったらあとは気持ちを切り替えて、これまで以上に吹部で頑張るだけ! 後輩とは楽器の演奏を高め合って正々堂々と競い合い、あとはみんなにまた認めてもらうように努力するのみ!

 NITRODAYの曲を教えてくれたことに感謝しているけど、山崎君との恋の行方は先送り? なのかな… 今までの感じだと肝心の山崎君自身は曲の恋には恋しているけど、リアルの恋にはまだ予感を感じていなさそう。それにさっきも言ったけど私は同時に二つのことをしようとも思わないし、同時に二つのことをこなせるほど器用じゃない。あとで山崎君に惜しいことをした!って思わせられるような女子に私はなりたいな。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み