第1話

文字数 1,852文字

「小説ってさ」
「うん」
「セリフの他に地の文っていうのがあって」
「地の文」
「そんで地の文は人称が重要なんよ」
「人情?」
「にんしょう、な。1人称とか3人称とか。知らへん?」
「知らんなあ?」
「……興味なさそ」
「あたり」
「APEXやったことある?」
「なんか銃で撃つやつ?」
「そうそう、ナイフガチャガチャしたり」
「配信見たぐらい」
「あれが1人称。んであんたの得意なスプラトゥーンあるやん」
「イカ」
「イカイカ。あれが3人称」
「人称イコール銃で撃つのん?」
「なんでやねん。イカはイカちゃんのちょい後ろから画面見えるやろ」
「……そうだっけ。意識したことないわ」
「画面見てんの…… んでAPEXはキャラの目線が実際の画面に映るんよ」
「ふーん……え?」
「ん?」
「いや、結局小説となんの関係あんの。それ」
「うーんと、イカの場合は神様が地の文を書くんよ」
「イカ」
「イカ、イコール3人称な。んでAPEXイコール1人称の場合、だいたい主人公が地の文を書くんよ」
「それで何を悩んでたん?」
「アタシ、どっちも苦手やねん」
「……アンタそんなんでよ~小説書こうと思ったなぁ……」
「しゃあないやん、書きたくなったんやから」
「書けへんくない? そんなんやったら」
「だから愚痴ってるんやん」
「……なんで書けへんの?」
「イカはさ、神様が書いてるけど、アタシは神様じゃないやん」
「え、でも作者って神様みたいなもんやないの?」
「そうかもしれんけど、そんな神様みたいな文章なんかかけへんのよ」
「んじゃAPEXで書けばええやん……いったァッ! なにすんねん!」
「今、デコピンするとか思わへんかったやろ」
「当たり前やろ」
「他人の考えてることなんか、口に出すとかせんとわからんやろ。今のデコピンもたまたま指あたっただけかもしれん」
「んなわけあるかぁ!」
「いったぁ……ごめんて」
「……で、なにが言いたいねん結局」
「だから、口に出して話さんとなーんもわからんって話」
「そんなん、アンタが作者なんやからあんたならわかるやろ」
「そんな言うてもさ……主人公もいうて他人やし……人間そんな小説みたいにキレイな文考えてなくない?」
「そんなん知らんよ」
「論文の時間とかなに考えてる?」
「……寝てる」
「……考えてる以前に意識がないやん……。めんどいなーとか考えてるやろ」
「帰りにラウワンよろ、とかな」
「……ラウワン行ってんの?」
「時々」
「誘ってよ~」
「……治安悪いし」
「え、千日前?」
「千日前、近鉄乗るし」
「……なんかあったらどうすんの……」
「おかんみたいなこと言うなぁ……それにアンタずっとそれ書いてたやん。最近」
「…………全然書けてへんけどな。書いては消し書いては消し」
「あの待たされた時間はいったい……」
「……待ってたん?」
「気づいてないかー」
「……ごめんて」
「いやええんやけどさ……アンタがどんな話書くかちょっと見てみたいし」
「……マジ?」
「……そうじゃなかったらこんな話付き合わんよ」
「言ってよ、もうちょっと書いたのに……多分」
「……いや多分かい」
「だって結構がんばったのに書けてへんし……」
「別に今日じゃなくてええからさ。書けた時に読ませてよ」
「……んあー……」
「……急にアホになるやん」
「だれがアホやねん! ……なんかさ……」
「うん」
「……読者おるって思ったら緊張してきた」
「なんやそれ」
「いや誰かに読んでもらえるとか思ってなくて」
「誰に向かって書いてたんよ」
「……そこまで考えてへんよ。書いてみたいなーって思って書き出したし……」
「……それで書けるのすごいやん」
「だから書けてないんだって。……んあああああぁぁぁん」
「……またアホになってる」
「なんかもー、自分がなに考えてるかもわからんくなってきた……」
「…………」
「っ! えっ……なにすんの!」
「……ごめん……なんも考えてなかった」
「いやなんも考えんでちゅーするんかあんたは」
「……アンタのマジメなアホ面好きやねん」
「……どんな煽りや」
「……煽りちゃうよ」
「…………」
「…………」
「…………もーわからん。自分のことも他人のことも。話しても話せんでもなーんもわからん」
「……泣かなくてもええやろ」
「……だってさぁ……こんなんじゃなんも書けんよ」
「今日はもうええんちゃう」
「……だれがこんなんしたん」
「ごめんて。帰ろ。ミスドおごるし」
「やだ……クリスピーがいい」
「心斎橋で降りるの? ダルない?」
「やだ……クリスピー」
「……しゃあないなあ……ついでにラウワンよろ」
「……千日前?」
「千日前」
「……なんでやねん……」






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