第4話

文字数 1,970文字


 リスたちは急速に進化をしていった。単語の数も増え、身体も脳の大きさに合わせて大きくなっていった。彼らの中には一つの不文律が出来上がった。それは毛が殆どない獣は叡智を授けてくれるというものだ。よって敬われた。

 次第に毛のない獣のことを、神と呼ぶ者が現れだした。

 事実、リスたちの繁栄はエフの手によるものだったから。

 リスたちは困難に遭うたびにエフに知恵を授けてもらった。リスたちは言う。

「我々には神が付いていて下さる。毛のない神が」

 その事を知ったエフは突っ込みを入れたという。

「私、ハゲてないよ!」

 当然、リスたちには通じなかったが……

・・・

 数万年の時が流れた。エフも壊れるたびに世代交代をしていった。

・・・


 昔々の大昔。

 突如、降って湧いたように一本のニュースが世界中を駆け巡った。

 それは人類が隕石群によって滅亡するという冗談としか思えないような内容だった。衝突する隕石の数は実に32個。そしてそのほとんどが直径がキロトン級という大きさだった。

「なんで今の今まで気が付かなかったんだ!」

 そう叫んだのは、何処の国のお偉いさんだったか。いや、もしかしたら世界中にいる全てのお偉いさんが同じように叫んだかもしれない。

 しかし泣こうが喚こうが、隕石の衝突は決定事項として世界中に伝えられた。

 人類にかつて無い試練が訪れようとしていた。

・・・

 人類の文明が滅亡するまで一年と二ヶ月。

 その間に実に様々な案が提案がなされた。当然、核兵器による攻撃も検討された。しかし……

「現在、地球上にある全ての核を持ってしても、32個もの隕石を破壊するには至りません!」
「やらないよりはマシだ! 今すぐ用意しろ! 出来る限り砕くんだ! 砕けて小さくなれば地球の大気で少しは燃え尽きるだろ! 少しでも破壊の規模を小さくするんだ! 被害を最小限に抑えろ!」

 そうやって地球はかつて無い驚異に対して一丸となって対抗した。しかしそれは32個の星が更に無数の星になっただけだった。

 この時、人々の多くは一方で神に救いを求めながら、同時に他方では破壊と暴動の限りを尽くした。

 そんな中でも理性的に行動する物たちが居た。

「人類がこれまで築いた叡智が滅びるのか」

 そう言って嘆き悲しんだのは一部の有識者たちだ。

「滅びるのを確定事項として、せめて意思を引き継ぎ、次を託せる存在を生み出そう!」

 これに賛同したのが世界中の学者たちだ。宇宙の真理を解き明かしたいという思い。それが道半ばで潰える絶望は死という存在以上に重く伸し掛かったのだ。人が死ぬのは仕方がない。寿命だってあるのだ。しかしその場合、他の誰かに自分の思いや志しを引き継いでもらえば良かった。

 しかし今回のそれは、人類の滅亡という状態を示唆している。文明そのものが滅びそうなのだ。そうなってしまっては引き継いでくれる対象だって居るかどうか。

 しかし、そこは人類の英知の結晶たる学者たち。人類が仮に滅んでも、その後でも動き続ける存在を作り出せばいいと開き直った。

「アンドロイドの生産工場を作ろう! たとえ人類が滅んでも自動で稼働するアンドロイドの生産工場を。そして生き残った人類か、もしくは新しく育つであろう次なる知的生命体に人類が築き上げた全てを託そう!」

 こうして元々すでに、ある程度出来上がっていたアンドロイドという存在の性能を少しでも上げるために、残りの人生を投げ売った学者たち。

 それは費用度外視で作られた。作られる型は女性型が選ばれた。隕石衝突後の過酷な環境を生き延びる可能性があるのが男性だったためだ。

 性格は相手になるであろう人間を楽しませるために、極めて前向きで明るく闊達に。年齢は20歳ぐらいに見えるように。髪の色や瞳の色は地域性によって様々になるように調整がなされた。見た目も人種それぞれの平均値で作られた。

 この作業は人類が滅びる直前まで続けられた。

 そして……

 降りしきる隕石の数々。それは悔しくも悲しいぐらいにきれいな天体ショーだった。誰かの口から漏れ出た言葉。

「おぉ。神よ。最後の最後にこのように素晴らしい光景をありがとうございます。人類はこの試練。如何なる形でも乗り越えてみせますぞ」

・・・

 後日。リスたちは人類の英知を手に入れて進化をし、以前の人類以上の繁栄を手に入れた。

 しかしそこにエフの姿はない。すでにリスたちは人間の知能を超え、新たなステージへと至っていったからだ。

 人類が叶えられなかった、宇宙の真理を解き明かすと言う夢を叶えた新たな知的生命体たち。

 神なる領域を知ったリス達だったが、彼らにとって先駆者である人類は感謝の対象として永遠に祀られることとなった。

 そして遣わされたエフというアンドロイドの素体達もまた、人間の姿を模しているという意味で永遠に保存されたという。
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