同じクラスの茂上さんのおはなし
文字数 1,916文字
私は知っている。中等部に入学してから一カ月、みんなが一度は「可愛い!」と胸をときめかせてくる小動物系女子である同じクラスの望月瑠々さんと、こちらもまたみんな一度は「王子!」と胸を抑えたことがある究極のイケメン神崎刹那くんが両片想いなことを。
「おはよう、望月さん」
廊下側の一番後ろに席があるのに、神崎くんは窓側の望月さんの席まで毎朝必ず挨拶をしに行く。
「お、おはよう、神崎くん」
毎日、どもってしまう望月さんの何と可愛いことか。苗字が茂上なんてダサすぎると思ってきた私だったけど、この五十音順の席の並びで望月さんの前に座りミラーを立てることで、簡単に観察できる私は毎日幸せだ。
「今日、ちょっと部活終わるの遅くなるかもしれないんだ」
「あ、私、日直だから……一緒に帰れる、と、思う」
「そっか。じゃあ、終わったらすぐ教室来るから、待っててくれる?」
「っん……」
顔を真っ赤にしてこくこく頷く望月さんは、緊張しすぎて「うん」の「う」が言えてないことに気付かない。可愛すぎるだろ。神崎くんはくすっと王子スマイルを見せて望月さんの頭を二回撫でて、席に戻って行った。危ない、私の心臓が破裂するかと思った。王子、恐るべし。
「望月さん、またね」
「うん、茂上さん、ばいばい」
時間は過ぎて放課後。最初は望月さんのこの「ばいばい」にときめいて、帰るのが名残惜しくなったけど一カ月でハートが鍛えられた結果、一瞬立ち止まる間に心を切り替えられるようになった。未だに一部の男子は私を羨ましそうに見てくる。ふふん、どうだこの野郎。今日もるんるんと跳ねながら、私は吹奏楽部の練習のため音楽室へ向かった。
音楽室からは体育館が見える。何故この話をするのかと言うと、体育館では神崎王子がバレーボールをしているから。パート別練習で、窓側をさり気なく陣取り体育館を横目で伺う。む、今日はいつもと違うコートで練習をしている模様。え、まさか、もうレギュラーになった?王子ならあり得る話に、少しぞっとした。出世が早すぎる。
「茂上さん、ここの合流する箇所なんだけど」
「あ、はい!なんでしょう!」
いかんいかん、私も部活に集中しないと。とは思いつつも、朝にちょっと遅くなると神崎くんが言っていたのは、やっぱりレギュラーを勝ち取ったからなのだろうと推理が止まらなかった。
「お疲れ様でしたー!」
部活も終わり、あとは帰るだけの私に隣のクラスの葉月ちゃんが貸していた体育の教科書を返してきた。何故、このタイミングなんだ葉月ちゃん。体育の教科書なんて意味わからないジャンルは、用意が疎かになるのは分かるが何故に部活が始まるまでに返してくれなかったのだ。無駄に分厚いので、私は教室のロッカーに置いて帰ることにした。はあ、教室行くのだるい。
「……でね、今度の土曜日なんだけど、ちょっと用事が入っちゃって」
はっ!教室から望月さんの可愛い声がする!誰だ、こんな時間に抜け駆けしてる奴は!相手次第では、扉蹴り飛ばす。
「そっか、それは残念だな」
王子だったー!これは誰か来ないように、見張らないと。
「あ、でもね!」
多分デートのお誘いを断られてしょんぼりした神崎くんに、望月さんが慌てて続きを喋り出す。分かる、焦って声出すとついちょっと大声になっちゃうよね、分かる。
「日曜日なら……」
「空いてる?」
「う、うん……神崎くんは?」
「僕も空いてる。よかった」
よかった、な顔をしてるのが望月さんの方でめちゃくちゃ可愛いんだが。鼻血が出そうになるのをぐっと堪えて、引き続き見守る。
「ネモフィラ、今が一番綺麗だからね」
「うん、私楽しみ!」
なんと、ネモフィラを見におデートですか。すごく絵になる……描かせてくれ……絵心ないけど。
「見に行くだけなら、スカートでも大丈夫かな?」
「へえ、楽しみだな」
「だ、だって、一緒にお出かけだし、その……」
「くすっ、あんまり可愛くなりすぎないでね」
「え?」
それは無理な話だぜブラザー。望月さんの私服スカートなんて、最上級に可愛いに決まってるでしょ!って神崎くんが望月さん軽く抱きしめてる?!な、何が起きてる!?
「誰にも見せたくないって思ったら、僕なにするか分からないよ」
「っ!」
ひええ、耳元でそれはノックアウト案件。望月さん茹でタコになっちゃってるじゃん!
「うん、よし。帰ろうか」
「は、はい……」
何がよし、か分からないけど、帰ろうかはまずい。鉢合わせたら、盗み見てたのがバレてしまう。もう体育の教科書とか持って帰るよ。いいよ、どうせ明日使わないし。正直、忘れてたし。さっさと退散しよ。ごちそうさまでした!
こりゃあ、ネモフィラ畑で告白とかワンチャンあるな。楽しみすぎる!
「おはよう、望月さん」
廊下側の一番後ろに席があるのに、神崎くんは窓側の望月さんの席まで毎朝必ず挨拶をしに行く。
「お、おはよう、神崎くん」
毎日、どもってしまう望月さんの何と可愛いことか。苗字が茂上なんてダサすぎると思ってきた私だったけど、この五十音順の席の並びで望月さんの前に座りミラーを立てることで、簡単に観察できる私は毎日幸せだ。
「今日、ちょっと部活終わるの遅くなるかもしれないんだ」
「あ、私、日直だから……一緒に帰れる、と、思う」
「そっか。じゃあ、終わったらすぐ教室来るから、待っててくれる?」
「っん……」
顔を真っ赤にしてこくこく頷く望月さんは、緊張しすぎて「うん」の「う」が言えてないことに気付かない。可愛すぎるだろ。神崎くんはくすっと王子スマイルを見せて望月さんの頭を二回撫でて、席に戻って行った。危ない、私の心臓が破裂するかと思った。王子、恐るべし。
「望月さん、またね」
「うん、茂上さん、ばいばい」
時間は過ぎて放課後。最初は望月さんのこの「ばいばい」にときめいて、帰るのが名残惜しくなったけど一カ月でハートが鍛えられた結果、一瞬立ち止まる間に心を切り替えられるようになった。未だに一部の男子は私を羨ましそうに見てくる。ふふん、どうだこの野郎。今日もるんるんと跳ねながら、私は吹奏楽部の練習のため音楽室へ向かった。
音楽室からは体育館が見える。何故この話をするのかと言うと、体育館では神崎王子がバレーボールをしているから。パート別練習で、窓側をさり気なく陣取り体育館を横目で伺う。む、今日はいつもと違うコートで練習をしている模様。え、まさか、もうレギュラーになった?王子ならあり得る話に、少しぞっとした。出世が早すぎる。
「茂上さん、ここの合流する箇所なんだけど」
「あ、はい!なんでしょう!」
いかんいかん、私も部活に集中しないと。とは思いつつも、朝にちょっと遅くなると神崎くんが言っていたのは、やっぱりレギュラーを勝ち取ったからなのだろうと推理が止まらなかった。
「お疲れ様でしたー!」
部活も終わり、あとは帰るだけの私に隣のクラスの葉月ちゃんが貸していた体育の教科書を返してきた。何故、このタイミングなんだ葉月ちゃん。体育の教科書なんて意味わからないジャンルは、用意が疎かになるのは分かるが何故に部活が始まるまでに返してくれなかったのだ。無駄に分厚いので、私は教室のロッカーに置いて帰ることにした。はあ、教室行くのだるい。
「……でね、今度の土曜日なんだけど、ちょっと用事が入っちゃって」
はっ!教室から望月さんの可愛い声がする!誰だ、こんな時間に抜け駆けしてる奴は!相手次第では、扉蹴り飛ばす。
「そっか、それは残念だな」
王子だったー!これは誰か来ないように、見張らないと。
「あ、でもね!」
多分デートのお誘いを断られてしょんぼりした神崎くんに、望月さんが慌てて続きを喋り出す。分かる、焦って声出すとついちょっと大声になっちゃうよね、分かる。
「日曜日なら……」
「空いてる?」
「う、うん……神崎くんは?」
「僕も空いてる。よかった」
よかった、な顔をしてるのが望月さんの方でめちゃくちゃ可愛いんだが。鼻血が出そうになるのをぐっと堪えて、引き続き見守る。
「ネモフィラ、今が一番綺麗だからね」
「うん、私楽しみ!」
なんと、ネモフィラを見におデートですか。すごく絵になる……描かせてくれ……絵心ないけど。
「見に行くだけなら、スカートでも大丈夫かな?」
「へえ、楽しみだな」
「だ、だって、一緒にお出かけだし、その……」
「くすっ、あんまり可愛くなりすぎないでね」
「え?」
それは無理な話だぜブラザー。望月さんの私服スカートなんて、最上級に可愛いに決まってるでしょ!って神崎くんが望月さん軽く抱きしめてる?!な、何が起きてる!?
「誰にも見せたくないって思ったら、僕なにするか分からないよ」
「っ!」
ひええ、耳元でそれはノックアウト案件。望月さん茹でタコになっちゃってるじゃん!
「うん、よし。帰ろうか」
「は、はい……」
何がよし、か分からないけど、帰ろうかはまずい。鉢合わせたら、盗み見てたのがバレてしまう。もう体育の教科書とか持って帰るよ。いいよ、どうせ明日使わないし。正直、忘れてたし。さっさと退散しよ。ごちそうさまでした!
こりゃあ、ネモフィラ畑で告白とかワンチャンあるな。楽しみすぎる!