木家

文字数 2,182文字

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ざあざあ、ざあざあ。

あの日もこんな雨が降っていた。声がかき消されてしまうくらい、強い雨。


私を拾ってくれたあの日。私の運命を拾ってくれた、あの人。

「ただいま!」
「…お帰りなさい」
「いやー、外は土砂降りだね。寒い寒い…ん?どうした?外に何かあった?」
「いいえ。なんでもないわ。…少し、涼さんと会った日のことを思い出してて」
涼さんは、阿久津の家から逃げ出して公園でうずくまっていた私を、何も言わずに家に連れて行ってくれた。


ご両親も、何も聞かずに、大人を怖がる私のために、部屋を用意してくれた。お金は大人になってから、ゆっくり返してくれればいいよ、と。

「…まだ、何も教えてくれなくていいよ。僕らに恩を感じる必要はない」
「…ありがとう」
涼さんはそう言って優しくしてくれる。私はせめてものお礼にと、家で少しだけ習ったお料理を毎日涼さんに振舞っているのだ。
「今日は、肉じゃがを作って見たの…!お口に合うといいのだけど」
「肉じゃが!?やった!僕、肉じゃが大好物なんだ!」
「…いつも美味しそうに食べてくれるわね。私も嬉しい」
「美味しいからだよ!あーあ、早くお父さんお母さん、あと愛菜にも食べさせてあげたいよ!」
涼さんのお父さんとお母さんは自分たちで会社を持っていて、休みはなし。夜は外食しているらしい。

愛菜ちゃんは、涼さんの妹さん。

学校が遠く、寮から通っているから、まだ私と会ったことはない。

「…そうね。愛菜ちゃんには会ったことがないし、会うのが楽しみだわ」
すこし、胸にチクリと刺すものを感じる。嘘をついた感覚。


私は、涼さんと二人で食べるこの夕食が大好きだから。


本当は、実は、ずっと二人だけで――なんてね。

「…ああ!それで思い出した!明日、愛菜が帰って来るよ!理摩にも会いたがってる」
…!涼さんの大切な妹さんにそんなこと、考えちゃいけない。きっと、愛菜ちゃんも私の料理を気に入ってくれるはず。涼さんがこれだけ喜んでくれてるんだもの。


涼さんの妹さんだって、きっといい人だわ。

考えられない。
「どうして…?どうしてこんな…。おかしいよ、二人とも…」
私は涼さんと相談して、昨日と同じ肉じゃがを作り増して愛菜ちゃんにも振舞うことにした。
「お兄ちゃんに、何をしたの…?」
何を間違えたのか、分からない。
「お、おい、愛菜!理摩が一生懸命作ってくれたものを、どうしてそんな…!」
「…理摩さん。」
「この部屋から出て行けとは言いません。でも、この仕打ちは酷すぎます…。もう、お兄ちゃんに関わらないでください。」
「…っ!」
「…っ!?理摩!?理摩!」
土砂降りの雨の中、出て行った理摩さんをお兄ちゃんが慌てて追いかける。私は…私はどうすればいいの?
机の上には、醤油で真っ黒に煮詰まった肉じゃが。
私たちがお兄ちゃんの「愛の検閲者」を知るのはもう少し先のことだ。


だから、その黒さ分の愛情に、なぜ兄が気付かなかったのか。私はまだ理解できなかった。

ざあざあ。ざあざあ。雨の音。

これが本来の私の居場所。わかっていた。わかっていた。

「私は、何を間違えたの…?」
「理摩!」
「来ないで…っ!これ以上傷つくのなら、私はもう、これ以上人を好きになりたくない!一人で静かに死にたいの!」
「涼さんと出会ってから、私は自分の気持ちがわからない!阿久津の家と違いすぎて、感情が追いつかないの!一人にさせて!」
理摩が何かを叫んだが、何も聞こえなかった。でも、僕らはとっくに自分の気持ちに気付いていた。
「理摩…。家に帰ろう?」
「一人にしてって言ってるでしょう!」
感情が爆発して、空を爪で掻く。そこに、何かが引っかかった感触があった。
「っ!?」
私の爪痕が、涼さんの唇の端に、痛々しく残っている。
「あっ…ごめ、ごめんなさっ…んむっ…!?」
僕は気付かない。彼女の歪んだ愛情表現は、脳に届く直前に全てカットされる。
僕はいつのまにか少し近付いていた、彼女の唇に無理やり自分の唇を重ねる。


僕らは互いの感情を、とっくに理解している。

「…っ!きゅ、急になにを…!」
「君が何を抱えていたって構わない。教えてくれなくてもいい。僕はもう君のことが好きなんだ。」
「これから毎日、僕と君が100歳を超えて、もっともーっと歳をとって、幸せに死ぬまで。

僕と一緒にいてください。」

感情の奔流が止まらない。私が今、なにを感じているか、私自身が理解していない。

でも、涙が止まらない。私を、私を受け入れてくれて。

しかも、こんなにも―――愛してくれるなんて。

「…グスッ…はい……。はい…。こちらこそ、ふつつかものですが、…どうぞお願いします…。」
そう言って、なんとか顔に笑みを浮かべる。嬉しい。嬉しい。嬉しい。そして、愛しい涼さんの顔を見ると。

唇の端にはまだ血が滴っていて―。

手で触れてみると、私の唇にも、彼の血が付いていることに気づく。
「…あの、ごめんなさい。」
「ん?どうかしたのかい?」
「私たち、本当に、永い時を過ごすことになりそうです」
「……?」
「もちろん、最初から望むところだよ!」
私たちは幸せを噛み締めながら、手を繋いで帰った。妹さんは、涼さんがなんとしても説得してくれる、と。

もしも理解してくれなくても、2人で出て行けばいい、と。私に言ってくれた。

いつの間にか、雨は上がっていた。
おしまい♡

Verylong_P_coat

そこまで!

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登場人物紹介

阿久津理摩(あくつりま)

・性別:女性 20歳

家の人間から意図的に魔人能力を目覚めさせられた存在。

能力を完全に覚醒させるため、成人するまで身内以外、誰とも関わってこなかった。

しかし、不憫の思った彼女の兄が、彼女を家から逃がした。


能力名:DevilPact(悪魔契約) 

契約を行い、他者の願いを叶える力。

契約するには相手の血に触れる必要がある。

願いを叶える代償として、契約した者は彼女に生命力を分け与えなければならない。


能力を使用する前に家から逃げたが、元々存在しない能力を無理やり引き出したため、能力に覚醒したこと自体が身体を蝕む症状を引き起こした。そのため、能力の使用の有無に関わらず身体は次第に衰弱していく。

生きるためには他者の願いを叶え、生命力を契約した者から貰う必要があるが、それは契約した者の寿命を奪うことと同義である。

生きるためには能力を使用するのも仕方がないと考えている。


・恋愛について:知識はあるが経験はないため、よくわかっていない。


・性格:家では軟禁状態だったので世間知らずであり、世間の常識とズレているところがあり、ズレた発言をすることもある。

家事や勉強は兄から教えて貰っていたので、色々な知識は学べたが、家事以外の経験は特にない。


よく料理の味付けを間違えるが、無理やり能力を覚醒させられたことで味覚が狂ったからである。

好きなもの:砂糖をたくさんいれたコーヒー、味付けの濃い食べ物。

嫌いなもの:味付けの薄い食べ物、実家。

・アイコン:公式

・作者:榎本レン

名前:山添 涼(やまぞえ りょう)




性別:男




特殊能力:愛の検閲者


涼に対しての色恋沙汰が絡んだ発言、行動、文字等全てに自動発動し、涼自身が最も自然と感じるノイズに変換される。


要するに告白やそれを仄めかす情報が全てシャットアウトされ、風の音とかになってしまう。泣かせた女は星の数。




キャラクター設定:両親の仕事の都合で引っ越してきた高校二年生で、やや幼い印象の残る美少年。誰に対しても分け隔てなく優しくに接するが、今までに特別な相手がいたことはない。




動機:当然、恋に意図などない。

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