大吉大凶

文字数 1,009文字

「ええっ!?」
 周りを気遣えないほどにショッキングで、私は大きな落胆の声を出してしまった。
 お正月なのに。おめでたいのに景気の悪そうな声を。
「どうした?」
 隣にいた会長―生徒会長の道成(みちなり)樹里(じゅり)先輩が俯いた私を覗きこむ。
 ありえない……こんな、こんなのって……。
「お前さん何泣いてんの?」
 いや、泣いてはいませんけど、でも……。
「会長、これ……」
 会長の前に差し出すと。
「大凶……ぷっ」
 見るなり小さく吹き出した。
「酷いです。笑うなんて」
「だって。正月に、そんなおみくじがあるなんて。それをわざわざ引き当てるか? ある意味凄いだろ」
 わーん……そんなの慰めになってないです。
「会長は?」
「大吉」
 ほら! 普通はおめでたい日、大盤振舞いできっと大吉がたくさん入ってるはずなのに。まあ会長はいつでも大吉引きそうですけど。負けは似合わない、常勝の生徒会長。そんな勝手なイメージだ。
「こんなの、ただの運試しだろ」
「その運がないのって、結構マズくないですかっ?」
 ここぞという時に運は発揮されるものだろう。何かピンチの時とか。
 そういえばここに来る前、ジュースをスカートにこぼしてしまって一番にお気に入りを着てこれなかった。
 新しい年になっての初めての顔を会わせる、初詣デートだったから気合いをいれて神社に来たかったのに。来たら来たで何もないところでつまづいて。会長に支えてもらって事なきを得たけど、一人なら盛大に転んでだと思う。
 うん……大凶を引く条件は揃っていたのだ。
「全部石川らしいよ。私はおっちょこちょいだけど前向きなところも愛しいと思ってるし」
 会長……。
 もっと格好良く振る舞いたいんです、本当は。支えてもらうだけでなく、支えになりたいんです。気持ちばかりじゃ駄目だとわかってるけど、なかなか会長のようにはなれません。
「貸して」
 そう言って、会長は私の大凶を取り上げると。
「これならいいだろ?」
 鞄からペンを取り出して、凶のところを塗りつぶして、吉と書いた。
「私が石川を大吉にする、だから気にせずに一緒にいてくれると嬉しい」
「会長……」
「今年の目標は石川に名前で呼んでもらうことかな」
 ……会長は夏実(なつみ)、と呼んでくれる、のだ。ただ、私が恥ずかしいからと人前では石川でとお願いしてて。
「……樹里さ、ん」
 は、恥ずかしくて倒れそう。
「無理しなくていいよ、自然に呼んでもらえるよう頑張るから」
 私も頑張ります。大吉になるように。


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