『朝焼け川の誓い』男性視点恋愛〔約1900文字〕 

文字数 1,996文字

オレ宗矢(そうや)はクラスメイトの、路亜(ろあ)が好きだ。

 オレが路亜を好きなコトはクラスの周知だ──告白はしていない。
 ある日のお昼時間──学校の屋上で、昼飯のカツサンドを食べていたオレに、親友の男子生徒、クラスメイトの真宮が聞いてきた。
「宗矢、路亜とつき合うつもりなの?」
「そのつもりだけれど……まだ告白はしていないけれど」
 真宮が、少し上目づかい気味に言った。
「路亜はやめておけ、だって路亜の父親は……」

 気づくとオレは、親友の胸ぐらをつかんで怒鳴っていた。
「路亜の悪口はやめろ! 路亜と路亜の父親は関係ない!」
 真宮の胸ぐらをつかんでいた手を離したオレは、まだプルトップを開けていなかった缶飲料を真宮に手渡した。
「やるよ、怒鳴って悪かったな……好きな女の悪口言われて、カッとなった」
 オレは真宮に背を向けると、屋上の出入口に向かって歩く。
 わかっている……路亜の家は普通の家庭環境じゃないってコトは、最初から知っている……それでもオレは路亜のコトが。

 次の日、学校が終わったオレは路亜を学校近くの、河原の木の下に呼び出した。
 ちょっとした、休憩公園のように整備されている『朝焼け川』の木の下にはベンチが置かれ、木陰で休憩できるようになっていた。
 オレは向かい合って立つ路亜に告白した。
「好きだ、つき合ってくれ」
 路亜は悲しそうな顔で、首を横に振って言った。
「できない」
「オレのコトが嫌いなのか?」
「嫌いじゃない……むしろ好き」
 路亜が人を避けている
理由はわかっている……二ヶ月前は、明るい表情の男子にも人気の女の子だった──路亜の親父さんが引き起こしたあの事件があるまでは。
 唇を噛み締めて辛そうにしていた路亜が、口を開く。
「あたしと、つき合ったら……宗矢くんにも迷惑がかかる……だって、あたし」
 路亜は、吐き出すように言った。

「人殺しの父親を持つ、娘だよ! あたし、人殺しの娘なんだよ!」
「そんな悲しいコトを言うな! オレだって知っていて、つき合ってくれって言っているんだ! 路亜とお父さんは関係ないだろう……あっ」
 言ってしまった後で、オレは気づいた娘と父親が関係ないなんて……残酷な言葉を言ってしまったコトに。
 目に涙が浮かべた路亜は、走り去って行った。

 一人河原に残ったオレの体にポツポツと雨粒が当たる。
「バカだ……オレ」
 二ヶ月前、普通のサラリーマンをしていた路亜の父親は、帰宅途中に酔っぱらって駅のホームで男性の一人と口論になって……カッとなった路亜の父親は、思わず口論していた見知らぬ男性をホームから線路に突き飛ばした。
 そして、路亜の父親に突き飛ばされた男性は、走ってきた電車に……一回の暴力が路亜の父親の運命を変え、路亜の家庭も変えた。

 路亜はオレが告白した翌日から、学校に来なくなった──どうしたら、いいのかわからないオレに、法律関係の仕事をしている母さんが言った。
「町で偶然に会った、真宮くんから聞いたわよ……ワケありの女の子を好きになって、告白したんだって……宗矢が、それなりの覚悟を持って告白して、その子とつき合いたいなら……家に連れてきなさい。お母さん二人を応援するから」
「来てくれなかったら? そもそも、家に行っても会ってくれるかどうかもわからないし」
「男だったら土下座でもして、来てもらいなさい……このままじゃ、そのワケありの子の心、傷ついたままよ」

 数日後──オレは土下座して路亜に、家まで来てもらった。
 家の中に招き入れた路亜に、母さんが言った。
「そう、路亜さんって言うの……悪いわね、わざわざ来てもらって。伝えたいコトがあったから」
 そう言って母さんは部屋の窓を開けた、窓の外には『朝焼け川』の流れが見える。
 川向こうに見える里山には戦国時代、この地を治めていた武将が築城して、今は土台の石垣だけが残る山城跡がある。

 母さんが開けた窓から、流れ続ける水面を眺めながら言った。
「その昔、この地を治めていた武将が出陣するとき。川向こうの山城に向かって朝焼けの中で『必ず川を越えて生きて城にもどる』と誓ったそうよ……宗矢、覚悟があるなら朝焼け川に誓いなさい……逃げないで彼女を守ると」

 オレは『朝焼け川』に向かって大声で叫ぶ。
「路亜を絶対に守る! 見捨てたりはしない! オレは路亜のコトが好きだぁぁ!」
 オレの再告白を聞いて、むせび泣いている路亜に、母さんが優しい口調で言った。

「こんな息子だけれど……真剣さは本物よ、本気であなたを守ってくれる……世間の目なんて気にしないで、あたしも協力してあなたを守るから……息子の気持ち受け止めてあげて」
 涙目の路亜は、オレの肩越しに朝焼け川を見ながら、小さくうなづいた。

 ~おわり~
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み