アイツが俺を忘れてくれない

文字数 1,172文字

 物心がついた頃からずっと一緒にいた友達。
 友情が愛情にかわる、なんてことはよくあることだと、自分でも思う。
 そして勇気を出して告白したものの、

「君とはずっと、友達でいたい」

 と言われるようなことも、よくあることだろう。
 そして、告白してしまった事実が気まずい気持ちを呼び、距離を置こう、と考えることも。
 だけど、アイツはそれを許してはくれなかった。

 家にいると毎日遊びに来るので、習い事を始めてみた。が、数日後には同じ教室にアイツがいて、しかもあっという間に馴染んでしまった。
 アルバイトを始めて仕事に精を出そうとしたら、翌日にはアイツが横に並んで一緒に仕事を始めていた。
 顔を合わせると告白した日のことをどうしても思い出してしまうので、感情を抑えるためにジムでの筋トレを始めたが、気がつけばアイツが隣で同じメニューをこなしていた。
 思い通りにいかない状況に思わず当たり散らしてみた。
 怒り、悲しみ、暴言を吐き、涙を見せたりもしたが、

「そういうの、無駄だから」

 と一蹴されてしまった。
 数時間にわたるケンカの末、説得を諦めて次の方策を考えようとした次の瞬間。
 目の前を巨大な影が遮った。

---

 次に目を覚ましたとき、最初に感じたのは匂いの違いだった。
 目を開けると、広がっていたのは視界全体を覆う青空。
 身体を起こすと、そよ風に乗って若草の匂いが鼻をくすぐった。
 意識を失う直前までいた場所とは明らかに違う。それは、周辺の建物が全て見当たらず、辺り一帯、見渡す限りの草原だったことからも明らかだ。
 遠くには森のようなものも見える。空を見上げれば、鳥の群れが羽ばたいているのが見えた。
 ゆっくりと、呼吸する。今までに吸ったことのないような、新鮮な空気が肺を満たす。
 そして、状況について考え始める。
 意識を失う寸前に見えた大きな影。あれはきっと大きな乗り物だ。最後にいた場所はジム帰りの公園を出ようとして通りがかった交差点だった。だとすると何らかの人為的ミスで歩道に突っ込んだ自動車か何かに轢かれたのかもしれない。もしそうなら、次に目覚めるのは普通病院のベッドのはずだ。
 じゃあなぜこんな場所で目が覚めた?
 思案に暮れていた次の瞬間、視界にある生き物が目に入った。
 草食動物のようだ。草原の草を美味しそうに食べている。
 だが知る限り、あんな生き物は見たことがない。見た目哺乳類なのに足が六本ある。
 まさかここは、異世界? ということは転生したか召喚されたか? そんな話は最近よく見聞きしていたが、自分の身に起こったということか?
 そんな思案をしていると、ふと小さな声が上がったのを聞いた。
 振り向くと、アイツがいた。
 さらなる混沌の中に思考は放り込まれ、思わずなぜここにいるのか、と聞いてしまう。
 その答えは、たった一言。

「君の友達だからだよ」












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