第1話

文字数 1,138文字

 竹林に囲まれて、こんなふうに多くの仲間たちと日向ぼっこをしていると、ひどい目に会った昔を思い出します。
 最初は何が起きたのか見当もつきませんでした。それぞれの場所で幸せにお勤めに励んでいたわたしたちは、ある日、大勢の人たちによって一か所に集められました。ある者は首に縄を巻きつけられて引っ張られたり、また、ある者は胴体に綱を付けられて引きずられたりして、無理やり連れて行かれたのです。
 体型もまちまちなわたしたちはそこで選り分けられ、えらい人の指図通りに、決められた場所に押し込まれてしまいました。
 それまでのんびり生活していたわたしたちには、最初のうちは、その新しい住まいの息苦しさは耐え難いものでした。でも、何にでも慣れるということはあるもので、いつしかわたしたちは、これがわたしたちの新しい生きる場所なのだと思うようになりました。そう思うしかなかったのです。
 時が経ち、落ち着くに従って、ここにも前に居たところと同じように陽ざしがふりそそぎ、少々窮屈ではありましたが、日向ぼっこも出来ることが分かりました。

 ところがそれから5年ほど経った頃に、今度はもっとひどいことが起きました。
 なんと、陽も差さない真っ暗な地下に閉じ込められてしまったのです。今から思えば、地上に居た間はどんな形であれ、少しは人様のお役に立つことも出来たのです。でも、この有り様では文字通り手も足も出ません。わたしたちに託された役目も果たすことは出来ないでしょう。
 絶望の果てにわたしたちは疲れ切り、いつしか深く長い眠りに落ちました。
 そして、次に目覚めたときには400年が経っていました。

 奇跡的に、わたしたちに再び太陽の光が降りそそぎました。
 もう一度、わたしたちに仕事に取り組むチャンスが与えられたのです。
 わたしたちの仕事は、悲しんでいる人、苦しんでいる人をなぐさめることです。
 無口なほうですが、人をなぐさめるのにたくさんの言葉は必要ありません。
 多くの場合、わたしたちは、黙って微笑んでいるだけです。
 でも、これでも特に子供たちには人気があり、時々、お菓子を頂戴することもあります。
 もっとも、頂戴したお菓子はたいてい食べる前にカラスに横取りされてしまうのですが。
 
 そうだ、あなたにお祈りのコツをお教えしましょう。わたしたちは普段からいろいろなお願いごとをされます。でも、幸せを呼び寄せる一番いいお祈りの方法は、自分ではなく他の人の幸せを祈ることなのです。一度お試しになって下さい。

 わたしたちの微笑んだ顔を見たいとおっしゃるのでしたら、洛西の竹林公園までお越し下さい。わたしたちは400年前に二条城で石垣に使われていた地蔵です。
 
 
 
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