第1話 合コンに行きたくない

文字数 1,170文字

明日はBBQ合コンと聞いていたけど音沙汰がない。
俺が構想外になったのか回自体が打ち切りになったのかは知らないが一安心する。
願わくばこのまま明後日を迎えるまで、通知が凪いでいてくれますよう。


一息つくと腹が鳴った。めっちゃ食べようと思った。
そうか、ここ数日腹が減らんかったのは、モテ意識というコルセットが食欲を押さえつけてたからか…。
モテ意識というよりは足切り回避意識という方が正確やけど。
合コンはいいねん。人見知りにはキツい、それは確かやけど、言葉の問題や。食事会やん。
問題はBBQや。似合わんて。俺には。白Tにカーキのパンツ履いて、脛毛露わで、右手に肉、左手にトング、汗拭きながら掴むビール。
真逆やん…。俺やったら右手にトング左手に肉の構えを取るわ、それさえも…。
25年とちょっと、どう生きてきたら人間ここまで差がつくのやら。


ひとまず書店で、生き方を問う感じの文庫本を手に入れ、インド料理屋に向かった。
どう生きるかと問われてインドへ行く短落さが悔しい。


野外のライブ帰りなのでさっぱりしたい、酒が飲みたい。ラッシーサワーやな。
この世にラッシーサワーなるものが有るのかは知らんけど、易しい足し算や。
きっと誰かが考えてるやろ。

しかしメニューを見てもラッシーサワー、それに類するものは見当たらない。
代わりにあるのが、カシスオレンジ、カシスマンゴー、カシスラッシー。
カシスの猛攻…。 ガンジスと見間違えてるんか?
カシスの気分ではなくて、ただラッシーで酔わせてくれたらええねんけど。

気は進まないが仕方ない。
酒欲とラッシー欲を同時に満たせるのはカシスラッシーだけだったので、それを注文する。
「カシスない」
カシス全滅やんけ。


焦土と化したカクテルメニューに動転した頭で眺めるソフドリメニュー。
最もシンプルな【ラッシー】を見落とし、マンゴーラッシーを頼んだ。
雑に置かれたグラスから派手にこぼれ、マンゴーラッシーしたたる指を俺の前で振りながら厨房へ帰っていく店員を見ながら、そういう生き方もしてみたいと憧れた。


顎タプつくこと間違いなし、明日BBQ合コンが開催されたら敗北確実のばかデカいナンと格闘していると店にインドかネパール出身であろう客が入ってきて、店員と数分、母国語で立ち話をしたかと思えば「けっ、なんやねん」みたいな態度でドアも閉めずに帰っていった。
店員は呆然とそれを眺めていた。
俺はせめて字幕が欲しいと思った。


「らっしゃい」
「ラッシーのマッコリ割り」
「マッコリでええやん」
「とにかくラッシーで酔わせぇ」
「カシスラッシーしかない」
「カシスラッシーあるやんけ」
「カシスない」
代わりに言うわ。なんやねん。


ピコーン


[送ってなかった!]


ピコーン


[ラグジュアリーな~ アーバンリゾート~ オーシャンビュー~ 非日常~]


俺はインド料理屋ぐらいの非日常で満足やって…。

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