落語 運命

文字数 2,599文字

 

 えー、秋風亭流暢(しゅうふうていりゅうちょう)と申します。

 一席、お付き合いを願いますが。

 ここで、いつもの小噺を一つ。

 おう、このイチゴはハウスもんだな?

 イエす!

 えー、即興だったもんで、ま、ご勘弁を願いまして。

 本日は、『落語 三日坊主』に登場した金太の話なんですがね。

 どれ、ちっとは反省してっかな?



「おーい、へたくそども。独楽(こま)ぶっつけて、イテテテって、膝っ小僧さすってねぇで、しりとりやろうぜ」

「いいよ」
「いいぜ」
「やろう、やろう」

「じゃ、まず、おいらからいくぜ。おめぇらの顔にちなんで、ゴリラ」

「ラ……ラ……ラ」

「なんだよ、ラの付くのなんかいっぺぇあんじゃんかよ」

「……ラ……ラッキョ」

「なんだよ、ラッキョって」

「食うやつだよ」

「それを言うなら、ラッキョウだろ?ウが付くんだよ。ったく、そんなことも知らねぇのかよ。次、ウ」

「ウ……ウ……」

「ウの付くのなんて山ほどあんじゃねぇかよ」

「ウ……、ウメシュウ」

「なんだよ、ウメシュウって」

「飲むやつだよ」

「ばーか。ウメシュだろ?なんでもウを付けりゃいいってもんじゃねぇんだよ。次、ウメシュのユ」

「ユ……ユ……」

「ユの付くのなんか腐るほどあんじゃねぇかよ」

「ユ……ユ……、ユタンポン」

「なんだよ、ユタンポンて」

「あったけぇやつ」

「おめぇが言いてぇのは、ユタンポだろ?ンが付いたら、おしまいじゃねぇか。ったく、ものを知らねぇな。次はおいらか。ポね?ポジティブにでもしとくか」

「なんだよ、その、ポジなんとかって」

「ポジティブだよ。前向きとか積極的って意味だ」

「金太のはむずかしすぎるよ」
「むずかしすぎる」
「そうだ、そうだ」

「おめぇらが言葉を知らなさすぎんだよ、ったく。じゃ、簡単なので、ポリス」

「スか?……」

「スなんか、そのへんにいっぺぇ飛んでんじゃんか」

「……スズメ」

「はい、次、メ」

「……メか?」

「メなんて、目の前にあんじゃん」

「……メダマ」

「はい、次、マ」

「マか……」

「マなんて、そのへんにいっぺぇ立ってんじゃんか」

「あっ、マツ」

「ったく。なんで、おいらがヒントをやんなきゃいけねぇんだよ。ツだな?ツクシ」

「……シか?」

「もう答え言ってんじゃん」

「ん?シか?……シカ」

「はい、次、カ」

「カか?……」

「カカに一つ加えたらできんじゃんよ」

「ん?カカ……カカシ」

「はい、次、シ」

「シか?」

「シカはさっき言ったかんな。それに一つ加えたらできんじゃんよ」

「シカ……シカ……シカイ」

「イな?イナリ。はい、次、リ」

「リか?……リカ」

「飲み込みが早いじゃんか。次、カ」

「カか?……」

「同じ答えはだめだかんな」

「カカ、カカ……カカト」

「みんな、だいぶ、コツをつかんできたじゃんか。しりとりはスピーディーじゃねぇと面白くねぇからな。次、ト」

「トか?……トカ……トカイ」

「みんな、要領をつかんできたじゃんよ。イね?イネじゃ、おめぇらと同じレベルだしな。それじゃつまんねぇから、イソップにでもしとくか。イソップのプ」

「プね?、プか?……プ、プ、プ」

「ったく。この際だから、はっきり言わせてもらうよ。おっ母にきつく言われてっから、罵詈雑言(ばりぞうごん)は控えるが、おめぇらのボキャブラリーの貧困さにはがっかりするぜ。おめぇらとしりとりしてもちっとも面白くねぇや。おめぇらには所詮(しょせん)、かくれんぼとか鬼ごっこがお似合いだよ。ばーか」

「ゥェーン」
「ゥエーン」
「ウエーン」

「すぐ泣きやがんの。ばーか」



「金太。おめぇ、近所の子を三人まとめていじめたな」

 赤ん坊をおんぶした母ちゃんが、豆腐を切りながら、金太を叱りつけた。

「いじめてなんかいないさ。ボキャブラリーが貧困だから、ののしったまでだい」

「何が、ボキャブラリーだい。ボケブラリひとり旅みたいな顔して。仲良くしないと、近所に嫌われて、大工の父ちゃんの収入が減る可能性があるんだよ。慎重に頼むよ」

「……わかったよ。収入が減るのは困るからな」

 名前が金太だけに、お金系には敏感みてぇだ。

 これで、ちっとはおとなしくなるだろうと思いきや。



「おーい、へたくそども。竹馬から落っこちて、イテテテって、ケツさすってねぇで、なぞなぞやろうぜ」

「ヤだね。金太のはむずかしくって、チンプンカンプンだもん」

パカッパカッ(竹馬の音)

「おめぇらのレベルに合わすっから危惧すんなって」

「……なんだよ、キグって」

「心配すんなって意味だよ」

「ホントだな?」

「ああ」

「じゃ、やるか」
「なら、やっか」
「やろ、やろ」

「じゃ、いくぜ。まず、簡単なのから。【みんなから笑われる、耳の白いネコのしっぽは何色だ?】」

「?」
「……?」
「…………?」

「ったく。こんな簡単なのもわかんねぇのかよ。白だろ?」

「なんで?」
「なんでだよ」
「どうして?」

「尾も白い(おもしろい)じゃねぇか」

「あっ、そうか」
「……ぁぁ、なるほど」
「?……」

「誰か、問題作れんのはいねぇのか?」

「……ぃ」
「……ぅ」
「……ょ」

「無理だろうな。じゃ、またおいらだ。いくぜ。【ベートーベンの職業はなーんだ?】」

「?……なんだよ、その、ベントーベンて」

「弁当べんじゃねぇよ、ベートーベンだよ。ドイツの作曲家じゃねぇか」

「じゃ、職業は作曲家じゃねぇか」

「ばーか。そんな当たり前の答えじゃ、なぞなぞになんねぇだろ?誰かわかんねぇのかよ」

「……ゃ」
「……ぉ」
「……ゃ」

「ったく、大工だろ?」

「なんで?」
「なんでだよ」
「どうして?」

「ベートーベンといや、第九(だいく)じゃねぇか」

「?」
「……?」
「…………?」

「あ~あ~あ。もう、ヤだ。張り合いがねぇったらありゃしねぇ。一人としておいらの感性についてこれる奴がいねぇんだもんなぁ。クゥゥ……。これがおいらの運命だ。ジャジャジャジャーン!」




■■■■幕■■■■
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